TIAS編 其の1~TAD、アーク・ジョイア、タイムロードはこちら
TIAS編 其の2~Accuphase、Luxman、ゼファン(BAYZ)はこちら
引き続きTIAS編の続きです。
7.ステラ(Wilson Audio)
スピーカー:Wilson Audio The WATT Puppy
再生システム:プレイヤー - TechDAS AirForce(詳細な型番は不明)、フォノ・プリ・パワー - Constelation Audio Reference2シリーズ、その他 - 電源に各種Stromtank、補正システムにTrinov等
音飛びはある程度良く感じました。
ボーカルのリアリティ、質感は悪くありませんがやや肥大気味に聞こえます。
ピアノは中々良い感じですが、低域の打楽器は少々厳しいです。トランペット等の金管は良くも無く悪くも無く。
全体的な印象としてリアリティはそこそこありますが、スピーカーの音という感触を打破する程ではありません。
音の定位がおかしく、一部の音が天井付近に定位していました。
多分これはスピーカーの瑕疵と言うよりは、Trinovによる補正が何らかの形で悪さをしていたのではないかと推測します。
なるべく多くの座席の人に良い音で聴こえるよう補正はそこまで強くしていない(強くするとリスニングポイントが限られる)とは言っていましたが、それでもコントロールが難しかったのでしょうか。
8.ゼファン(Marten)
スピーカー:Marten Mingus Septet
再生システム:
デジタル周り上流 - CH PRECISIONセット、プリとパワー - RIVIELA
アナログ再生 - TechDAS AirForce3(多分premium?)、フォノ - CH PRECISION、プリとパワー - RIVIELA
※ここは時間的な問題で写真を撮り忘れました。
音が出た瞬間、展開する音場とその周辺情報に思わず声が出かけました。
音場の広さ及び奥行き、音場の周辺情報の描写については非常に高い能力を持っていると感じ、単に演奏の音が聴こえるだけでなく場の空気感の表現が抜群に上手いです。
そして広い音場ながらちゃんと音が飛んで来る感じはあって、こちらまで充分に届かない感じが無かったのも良かったです。
よくよく聴くと空気感については若干やり過ぎな感じがしないでも無いですが、それでも音場関連の能力については、ハイエンドスピーカーの中でも屈指なのではと感じました。
まず始めにピアノの音源がかけられましたが、質感やリアリティも非常によく、スピーカーである事を感じさせない音です。
ですが、ピアノの強いタッチの音も柔らかく再生しており、ここだけあれ?と思いました。
ピアノはタッチの強弱により音の質感が変わり、強いタッチの音は硬質でやや攻撃的な音色になると認識しているのですが、この部分も通常のタッチの音と同様の質感で出す印象です。
続いてEDM的な曲がかけられたのですが、電子音の質感も難なく表現します。
もっとも、こういった音楽が得意というよりは高い基礎性能で殴り倒した感はありましたが。
とはいえ、ここでもこの音は本来もっとピーキーな質感では?と思う事もあり、どうやらMingus Septetは痛い音を敢えて出さないようにしているのではないかと思いました。
低域の再現に関してはそこまで追い求めている感は無く、同ブースで聴いたCounterpoint2.0と比較すれば少し落ちる印象。ですが不足感を感じさせることはありません。
この後にかけられたチェンバロの音源を聴いても、それまで感じた印象は変わりませんでした。
全体を通して見ると、高い基礎性能を持ちながら穏やかで非常に聴き心地の良い音。若干痛い音を出さないようにする脚色があり、純粋な忠実系の路線からはちょっとだけ離れるという印象です。
ですが凄いと思ったのは、その脚色が非常にさりげなくて気付きにくい事もそうですが、たとえ気付いたとしてもその圧倒的な聴き心地の良さに「まあ別にいいか」という気持ちにさせられる事です。
音のリアリティの高さによってスピーカーの存在が消えるというよりは、聴き心地の良さに音楽に没頭しスピーカーの存在を忘れるという感じでしょうか(勿論リアリティ自体も非常に高レベルですが)。
また忠実系路線から少し離れると言ってもそれは敢えて言えばという話で、トータルで見るあるいは他のスピーカーと比較すれば、十分忠実路線の範疇に含まれるとは思います。。
その穏やかさがあまり合わなそうな音源(今回の実演ではEDM系の電子音楽)でも特に苦も無く再生してみせてましたし、スピードの速い音楽をかけても全く余裕を失うことなくスピードだけがスッと上がりますしね。
途中でSupremaの試聴時間が迫っていて退出しなければならず、大編成の楽曲などは確認できなかったですが、それでも今回のTIASで聴けて良かったと心から思えたシステムの一つです。
9.ノア
スピーカー:Sonus Faber Suprema
CDプレイヤー - Burmester 069 + PSU、プリ - Burmester 077+PSU、パワー - Burmester 159Mono(メインスピーカー) + 218Mono(サブウーファー)
アナログプレイヤー - KLAUDiO Magnezar(ターンテーブル) + ARM-AP12(トーンアーム) + Burmester 100(フォノ)、プリとパワーは同上
恐らく今回のTIASの目玉の一つであろうスピーカーシステム。スピーカー(とサブウーファー)だけでも1億7千万円超、システムトータルでは恐らく3億円を超えるという眩暈がしそうなシステムです。
確かにその出音は圧巻の一言でした。
まず、どのような音源をかけてもスケール感が全く失われません。私が今回聴いた限り、オーケストラをかけてもスピーカーが消えたままだった唯一のシステムです。
低域の再生能力も圧倒的に高く、バスドラや太鼓系の低域を司る打楽器のエネルギー感、体を突き抜けていく感もかなりの再現度を誇ります。
個人的にはこれで体感としては現実世界の7割程度の再現度でしょうか。ですがある程度甘く見積もったとしても、8割には届いてないと感じます。
音の発生機序が全く違う、しかも性質上再現が極めて難しい音源をここまでやってのけたのは偉業だとは思うのですが、逆に言えばここまで弩級のシステムでも完全再現とはいかないのだなとは思いました。
音のリアリティなども素晴らしかったのですが、違和感を全く感じなかった訳では無く、その中でも特に感じたのはどの音も明らかに音像が大きかったことです。
人の口のサイズも楽器のサイズも、私の感覚では少なくとも現実の二倍程度はあり、確かにその質感のリアリティからスピーカーは消えますが、出現するのが巨人ばかりという印象が最後までどうしても拭えませんでした。
もし音像のサイズがせめて1.25~1.5倍程度に収まっていたならば、更に異次元の音楽体験になったのではと思います。
しかしながら、別のブースで聞いた説明では、スピーカーが大きくなるほど音像を小さく保つのは難しいとの事だったので、これだけ巨大なシステムであれば致し方ないトレードオフなのかもしれません。
また、それだけ音像が大きく空間を埋めつくすためか、意外と音場の周辺情報を感じ取ることが出来ませんでした。
とは言え、これはスピーカーやシステムの性能どうこうでは無く、部屋の大きさが足らなかったのかなと。
後に訪れたアクシスのホールでこのシステムをガチ詰めしていたら、一体どんな音になっただろうとちょっとだけ思いました。
個人的には、250席から300席ほどの小規模ホール位は必要では?と感じましたが、如何せんスピーカーの経験が少なすぎて判然としません。
セッティングについては、Sonus faber本社の技術者を招いて行ったとの事だったので、少なくともあの環境ではこれ以上は厳しかったのだと思います。
色々と書きましたが、当然総合力ではこの日聴いた中では文句なく一位でした。
しかし改めて考えてみると、値段的な壁もとんでもないですが、恐らくそれ以外の壁も少なくなさそうです。
スタッフの方が、「もしお求めいただければあなた一人の為だけのセッティングを行います」という事を仰っていたのですが、オーディオ専用ルームを持つどころかオーディオ専用の別棟あるいは家や別荘を建てるとか、これを鳴らすために小規模ホールや小劇場を所有するとか、そのレベルの突き抜け方をしないといけないんじゃないかなと感じました。
【編集後記】
今回の記事のSonus FaberとMarten、前日の記事のBAYZ Audioのシステムが、今回のTIASで聴いた中で(私の感性では)トップ3でした。
そして、最も衝撃を受けたのは実はSonusのSupremaでは無く、Marten Mingus Septetのシステムの方だったりします。
確かに総合力では、Supremaの方が疑いの余地なく上位にあると思います。
ですが、難しい事なんて考えず音楽を純粋に楽しめと言われているような圧倒的な聴き心地の良さ、そして描き出す世界観の確かな説得力は、Supremaを聴いた後でも強く印象に残ったままでした。
オーディオの為に生きるというスタイルであればSupremaの方向性、世界観に飛び込まざるを得ないでしょうが、生活の中に音楽があるというスタイルであればMingus Septetの描く世界観の方がむしろ適している面もあるのではとすら思います。
もっとも、Supremaで感覚が麻痺してMingus Septetの方のシステムは割と現実的な路線な気がしてしまいますが、実際の所こちらだってトータルで5000万円超と充分非現実的に高価なシステムなんですけどね。
とにかく、この三つのシステムを聴いた事は、今後の自分のシステムを考える上でとても大きな経験になったと感じます。
個人的にスピーカーとヘッドホンオーディオで最も差が出るのは当然音場関係だと考えているのですが、実はそれと同程度に差があるのが低域の再生能力(特に打楽器)だと思ってます。
現状ヘッドホンの低域再生能力は、例えば私がAudio Unionで試聴したMSB Discrete DAC + MSB Dynamic HPA + Focal Utopia SGというシステムですら、現実世界のバスドラや太鼓の音と比較すれば、体感1割に届くかどうかといった所です。
それは、耳で聴く音がその大半を占めるという構造上、どうしたって仕方のない所ではあります。
ですが、ではスピーカーならそこの完全な再現は出来るのかと言えば、現状ではどれだけお金をかけようと極めて難しいという事が今回の経験で分かりました。
そして、ひたすら現実音の再現を追及する、リアリティを追求する事だけでは無く、別の方法でも音楽体験の質を高められるという事も知ることが出来ました。
私の現在のシステムは、Lavry DA-N5(DAC) + Jeff Rowland CHORUS / PSU(プリアンプ) + MSB Premier HPA(ヘッドホンパワーアンプ) + Focal Utopiaと自作ケーブルあるいはKennerton THRORと自作ケーブル(ヘッドホン)というのがメインシステムです。
一応自分なりに基本路線としてはなるべく脚色や色付けを排した、中庸でリアリティを追及するタイプの音を目指してきたつもりです。
その方向性は多分それ程間違ってはいなかったと思いますし、現状のヘッドホン界隈のレベルでは、まだMartenの様な脚色あるいは演出による音楽体験を目指すのは時期尚早かなとも思います。
恐らく、その為の基礎性能がまだまだ足りなくて、多分現状で脚色を施そうとしても、あれほどのさり気なさと説得力を出すのは難しいのではという気がするのです。
多分それはヘッドホンとヘッドホンアンプの両方で、もっと基礎性能を磨く必要があるのではと感じます。
ですがそれらがある程度揃った時に、完全な現実追及路線は低域周りや音場の関係で難しくとも、高い基礎性能に裏打ちされた何かがほんの少しだけ脚色された世界というのは、ヘッドホンにとって一つの解になるかもしれないと思いました。
なお、その時に価格がどうなるかは沈黙せざるを得ませんが。
因みに、今回の経験があって、Martenのスピーカーラインナップをちょっと調べてみました(それ位好みの音だった)。
今の所スピーカーはKEFのREFERENCE 1でMetaの一つ前の世代を使っていて、しばらく更新する予定は無いのですが、ここをもう少し本腰を入れるならMartenのブックシェルフ+サブウーファーの何かとかで組むのもそこまで非現実的では無いので、一応頭の片隅に入れておこうと思いました。