日記 Genelecの新しいモニタリングシステム

 先日Gnelecの新しいモニタリングシステムUNIO PRMが発表され、その中にヘッドホンも重要な要素として紹介されていました。

www.genelec.jp

 ヘッドホン周りでコアとなる技術は概ね二つ、一つは全てのヘッドホンが厳密に測定され、アンプ部を担うモニターコントローラとデータを元にペアリングされ、各個体に応じたEQ補正が行われる事。
 もう一つは同社が提供するスマートフォンのアプリを用いて、ユーザが自分の耳まわを撮影することで頭部伝達関数(以下HTRF)を取得し、個人最適化出来る事です。
 またモニタリングシステム全体の機能として、スピーカーではステレオからイマーシブまで柔軟に対応し、ヘッドホンでもそれらをバーチャルで実現出来る様です。

 これらの技術は一応前例はあり、例えばHTRFについてはAKG N90がユーザの耳周りを測定し最適化する機能が有りましたし、final ZE8000の自分ダミーヘッドサービスもそれに当たるでしょう。
 ヘッドホン特性に対するEQ補正は、DAW向けのプラグインとしてSonarworksのプラグインがあります。他にも有ると思いますが、多分これが一番有名。
 但しこれらと違うのは、通常相反する要素である精度と量産の両方を、どちらも最大限に追求しようとしている点に有ると思います。

 例えばAKG N90の測定は購入した人全員が利用できる機能ですが、その精度はお世辞にも良いとは言えず、限定的な効果しか無い(少なくとも個人差がある)物でした。
 逆にfinalの自分ダミーヘッドサービスは極めて高精度な測定が行われますが、final本社にユーザ自身が出向かなければならず、利用できる人も極めて限られていました。確か受け入れは10人位だったはず。
 Sonarworksのプラグインは機種毎に適用できるEQパラメータがありますが、自社でヘッドホンを作っている訳では無いため、流石に個体ごとの測定データなんて物には対応しようが有りません。
 それを考えれば、UNIO PRMは自社の技術とスマートフォンという殆どの人が所有しているであろうデバイスを使い、システムとして精度と量産の両方を上手く落とし込んだのではないかと感じます。
 Genelecが自社の次世代モニタリングシステムの中核として発表しているので、半端な物は出さないだろうという信頼もありますし。

 とは言え、じゃあ欠点が無いかと言えばそうでもありません。と言いますか、長所がそのまま裏返しになってしまうのが、この手のシステムあるいは機器の常です。
 それは、こういった後から補正するタイプの技術はデジタルで行わなければならないということ。少なくともアナログで、上記の様なきめ細かな補正が出来るような技術は現在無い筈です。
 つまるところ、補正→DA変換がハードウェアとして提供されているタイプの製品は、必然内蔵されているDACしか使えず、外部DACを導入したりアップグレードしたりすることも出来ないという事です。 
 上で挙げたN90もZE8000も同様で、何ならこれらは外部のアンプを使う事すら出来ないあるいは殆ど意味が無かったりします。
 一応アナログ入力が付いている場合もありますが、内部でAD変換後補正され再度DAされてしまうので、結局内部のDACに依存する(むしろAD変換を余分に挟む分悪化する)事になります。
 今回のUNIO PRMの例で言えば、少なくともDACには9320A SAMというモニターコントローラを使うしかないという事であり、そこを変更することは敵わないという事です。
 まあ、そもそもGenelecの目的が高精度で安定したモニタリングシステムを提供することなのですから、そう言う意味で言うと欠点とは言えず、あくまでこのシステムの特性という方が正しいとは思いますが。
 

 因みにこういった類の問題は、後から補正するタイプの機器では無かったとしても割と見受けられます。
 ヘッドホン・イヤホン関連で言えばTWSは全てその例に当てはまり、イヤホンに内蔵されているDAC及びアンプを使うしかなく、基本的にそれらを何らかの形でアップグレードしたり、外部機器を用いる事は出来ません。
 据置でもWarwick Acousticのシステム、GoldmundのTHA及びTHA2等はアナログで入力しても全てAD変換され内部のDACで処理されるため、DAC部分をアップグレードすることは基本的に不可能です。


 とまあそんなわけで、UNIO PRMは面白い取り組みだとは思うのですが、スピーカーを含めたモニタリングシステムが必要ならばともかく、単純にヘッドホンリスニング目的で導入するのは流石に辛すぎるでしょう。
 恐らくGenelecの最上位に位置することになるはずなので、お値段もかなり行くでしょうしね。
 但し、HTRFの適用については同社の8550Aだけではなく、他社製のヘッドホンであっても動作するとしているので、モニターコントローラである9320A SAMだけ利用してみるのは一つの手ではあるかもしれません。ヘッドホンでのイマーシブ機能も体験できますし。
 個々に最適化するという性質上試聴するのも非常に難しそうではありますが、これまで出てきた同種の製品とは力の入れ方がかなり異なる製品に見えますし、質的にも相当に気合が入っているように見えるので、出来る事なら体験してみたいものではあります。