今回の東京の旅に置ける総括です。色々と得ることが出来たので、その辺りを整理したいと思います。
【ヘッドホン関連】
今回の旅の目的で一番大きかったのは、現状のヘッドホンのメイン運用している機種の更新の下調べです。ぶっちゃけていうと、UTOPIA初代をSGに更新する意味があるかどうかです。
遠征記ヘッドホン試聴編でも書きましたが、結論から言えばそれはちょっと割に合わなさ過ぎるなあと。
ハイエンドヘッドホンにおいて、私なりにざっくりではありますが世代分けしている期間があります。
第1世代は概ね平面磁界駆動型のハイエンドが登場からその欠点を克服した機種が出るまでの間の時期。あるいは、40万円超の各社フラッグシップが大体出そろうまでと言い換えてもいいかもしれません
因みにこの欠点とは概ね二つ、あまりに低い能率と低域周りの再生能力の低さですね。
これを解決及びそこから更に改善したのが第2世代で、これは第1世代後の機種からほぼ全てのメーカーで現行機までが該当します。
基礎性能で多くの要素でバランスが取れていて、明確な欠点はほぼ無くなって来た世代です。なお、ここで平面駆動型、静電型、ダイナミック型のハイエンド機全てが出そろった時期でもあります。
なおUTOPIA初代もここに含めてたんですが、今回の試聴で確認した限り、音質的な達成度と言う意味ではSGもここだと判断したので、待ちで良いとなった訳ですね。
現状で第3世代と言えそうな飛躍を感じるのは、最近話題になったSUSVARA Unveiled位かなと見ています。今回の旅では聴けなかったですが、いずれ聴いてみたいヘッドホンの一つです。
但し、価格的に厳しいのもそうなんですが、扱いが余りにデリケートすぎるので購入するのは多分無いです。
私は自分で買ったヘッドホン類は結構ラフに使いますし、気を使って新品状態を維持するというのに面倒を感じる(それよりは只管使い倒したい)というタイプなので、試聴するだけとかならともかく自分で購入して使用するとなると、何かやらかしそうな可能性が高いんですよね。
海外だとRAAL Immanisにも次世代的な気配はあるのですが、価格と日本に入って来る可能性がちょっと、ね。多少緩和されたと言えアンプ問題、使い分けの問題もありますし。
個人的にはこの第3世代の機種が出そろったらメイン機種をその中から選定したいと考えているのですが、最有力のUtopia SGの次世代はかなり先になりそうなので、もしかしたら待ちの期間は非常に長くなるかもしれません。
【イヤホン関連】
元々今回の旅で試聴をするかなり前から、ハイエンドイヤホンの多ドラには疑念を抱いていました(だから最近のリファレンスとなるイヤホン購入も1DDで探した)。
スピーカーのハイエンドの領域ですらユニットを増やしていく事にはかなり慎重で、2WAYや3WAYはまだしも4WAYとなると調整するのはかなり難しいと言われている世界です。
また2wayから3wayの様に帯域分けは増やさずに、ユニットだけ増やすというのもやはり慎重になる事が殆ど。
ウーハーについては大口径にするデメリットもまた大きいので、そこはただ大口径にするよりも少し下の口径で重ねるという手法は良く取られますが、ミッドやハイについてはやはり簡単に増やしません。
また、クロスオーバーネットワークについての問題もあり、これの質を担保するのもそう簡単な事ではありません。基本的にネットワークは音質劣化の原因になりやすく、必要悪とすら言われるほどです。
ネットワークのサイズも問題で、ハイエンドの領域になると、下手をするとDACやプリアンプのそこそこ大きな機種と変わらないサイズの別筐体となっている事すらあります。
斯様に調整の面でもサイズの面でも色々と難題があるのに、あれだけ小さいイヤホンで3wayや4way化し、ユニット数も10以上とか下手すると20以上のドライバを積むとか、4種類のドライバをハイブリットにするとかしている訳です。
それでちゃんとバランスを取るのは正直言って無理難題では?と思っていたのですが、さりとて現在の市場を見るに結構評価されていると言うかむしろ絶賛されていると言って良い状態だったので、まあある程度何らかの手法が見つかったのだろうとは思ってたのです。まさか、いくら何でもねえ?と。
ですが実際の所は、ああこれは懸念していたことが全く解決されてねえな、と判断せざるを得ませんでした。
今回試聴したのは、Noble Audio、Kinera Imperial、Rhapsodio、Empire Earsの4社のフラッグシップですから、全てのメーカーの音を確認したとはとても言えません。
ですが、これらは決して無名ではない、むしろ第一線クラスのメーカーだと言って良く、それらの会社のフラッグシップが例外なくあの出来でしかも評価されているとなると、市場全体がそうだと判断せざるを得ません。
個人的な見解としては、イヤホンもヘッドホンも原則フルレンジ、やったとしても2WAYが精々でそれ以上は厳しいという考えです。
ドライバも可能な限り1ドライバで、やったとしても2ドライバか3ドライバまで、どうしても必要ならば4ドライバも一応検討の余地ありだが避けた方が良い位に考えてました。イヤホンやヘッドホンでやるなら、それ位が限度だろうと。
そして、その考えは打ち砕かれるどころか、むしろ確信を深める結果になったと言って良いです。
あとハイブリッドに関しては、異種ドライバ間の音の質感の違いとか、時間軸制度のばらつき問題とかがほぼ手付かずとしか言えない状態だったので、基本止めた方がいいんじゃないかと思ってます。
あれだけの値段の機種ですらほったらかしているようにしか聞こえなかったので、多分打てる手がほぼ無いのでしょう。
一番救いが無いのは作る側の人間にそれを認識できる人がいない可能性ですが、流石にそれは無いと思いたいです。いくら何でも救いが無さ過ぎる。
少なくとも現状でちゃんと音質を追求したいなら、1DDもしくは1BAで良機種を探すか、3BA程度までの少数ドライバのBA機で良い機種を探すのが良いだろうという感想です。
また、多ドラを含めてしまうとガチで金額と音質の相関が崩れるので、高いからそれなりに良いだろうという考えで購入するのはやめておいた方が良いと思われます。
【スピーカー関連】
現状ハイエンドの価格が青天井と言って良いレベルで上がり続けており、そのことが嘆かれる事も多い世界ですが、今回訪れたTIASではそれをまざまざと実感しました。
スピーカーは1000万円以上の機種が当たり前のように多くのブースにあり、総額では数千万のシステムなんてことがザラ。果ては億を遥かに超えてしまうシステムもあった訳で。
しかしながら、それでも到達しているレベルの高さは、やはり凄かったと言わざるを得ません。
現状のヘッドホン界隈と比べるとその性能の差は当然あるのですが、何かここが凄い!という到達点の高さの違いというよりは(勿論それもありますけど)、当たり前のレベルが違うよねという感触が強いです。
これ、競技スポーツでも彼我に絶対的な差が出る一番の要因だったりします。
例えば難しい事が出来る人や技術が高い人がそうでない相手に負けるケースは割と有って、上手い人と強い人は違うなどと言われたりすることも多いんですけど、一方でこの当たり前に明確に差がある状態だと、番狂わせはまず起こらないんですよね。
と言いますか、その場合大抵はワンサイドゲームになります。
ですので、ヘッドホン関連はまだまだ基礎性能の底上げを頑張らないといけない状況なのかなと思いました。ただ、それは更なる高額化にも繋がりそうなので、辛い所でもありますが。
スピーカーの試聴そのものの話で言うと、多分私はスピーカーに関しては音場関連の聞き分け能力があまり育ってないんじゃないかな、と思いました。
これは平時ヘッドホンで音楽を聴くことが多いのが大きな理由だと思うのですが、余程明確に差があったり違いが有ったりしないと聞き分けられなかったように思うんですよね。
一方で音の質感については、ヘッドホンで聞く時とそこまで大きな違いを感じずに聴けた部分だと思います。
今回のスピーカー試聴で一番の難題だったのは、試聴記でも触れた太陽インターナショナルとエレクトリのシステムについてです。前者がTAIKO Olympusを含むシステム、後者がMAGICO M7を含むシステムですね。
この二つについては非常に高評価を下している人が多い様に見受けられたんですけど、私は両システム共にどうしてもスピーカーの音という感触が消せず、そこまで高い評価を下せませんでした。
しかも、聴く限りオーディオ的性能の高さはある程度感じ取れるのですから余計に難しい。これで単に全く良さが分からないだけだったら、耳が育って無いね以上で済みますしその要素も大きいとは思うんですけど、どうやらそれだけ片づけられなさそうな気配もある。
色々と考えた結果、音にリアリティを感じるかどうかという点について、皆が全く同じパラメータを参照しているのか?という疑問にたどり着きました。
例えばこれが情報量の多さとか、帯域バランスとか、音場の広さや定位といった項目については、割と皆同じパラメータを見ていると思うのです。
ですが、これがその音にリアリティを感じるかどうかという事になると、多分多数のパラメータを複合的に参照していて、ある程度は共通するにしろ違いが出てきてしまう要素もあるのでは?と。
だからこそ、これだけ高額化しとにかくやれることを殆どやり尽くしている様に見える領域に置いてですら各メーカーによって音質の傾向は違うし、買う側でも強く惹かれるメーカーに違いが出てきてしまうんじゃないかなと思いました。
まあ、まだまだ仮説の域を出るものでは無いのですが。
そしてそれは、私が今回のTIASへ参加において掲げた一番の目的である自分の認知を広げるという目的とは別に持っていた、裏のテーマとも関連してきます。
この裏のテーマとは、私が様々な機種を検討するにあたって行った情報収集、各メーカーの技術解説、多数の人のレビュー等から、このメーカーあるいは製品は多分自分に合わないだろうと判断したものを確かめたいという事です。
勿論自分の認知が大いに育ってどのメーカーのどの製品であろうと公平に良さを受け取ることが出来るのなら、それに越したことはありません。
ですけどそれって現実問題としては多分不可能に近く、自分に無い認知を身に付けようとする努力は必要ではあっても、どうしたってそこにある偏りは無くせないし、そうである以上合う合わないが発生してしまう事も避けられないでしょう。
これが時間もお金も最優先で投資し、オーディオの為に生きているのならとにかく自分の認知を磨いて、最も総合的に優れた物を選ぶという事が本筋になるのでしょう。けれどそうで無ければ、性能は確かに大事だけれど、自分の感性に合うメーカーを見つけるという事もまた大事になると思うのです。
沖縄でオーディオをやっていると、どうしても試聴の機会は限られますし、購入も通販に頼らざるを得ない面が多いです。
スピーカーに関しては一定以上の製品になると、たとえ無試聴突撃を決意したとしても、購入し取り寄せる事ですら結構大変です。どれも大きく重くなりますので、そもそも配送対応不可なショップも割とありますし。
ですので、今まではほぼ食わず嫌いに近い形で避けていたメーカーも結構有った訳ですが、その辺りについて概ね確かめられたのでかなり今後の製品選択に生かせそうだと感じています。
まあ、角が立つ気もするので明言はしませんけど、その辺りの判断は概ね当たっていて、予想を覆されたメーカーはかなり少なかったです。
と言いますか、これは言って問題ないと思うんですけど、予想を裏切られる程に良いと感じたのはCH Precision位ですね。
まああの音はMARTENやBAYZ、RIVIERAの良さも込みだとは思うんですけど、さりとてそれだけでは実現しないとも思うので、今後は考慮に入って来る可能性はあります。価格的に無理な可能性はとても高いですけど。
後は、このメーカー良さそうだと思ってたけどちょっと疑問符が着く、というメーカーも少ないながら有って、その辺りも今後の製品選択に生かせそうだなと思ってます。
とにかく、今回の旅は本当に得られたものが多く、自分の中で未確定だったものに決着が着いたもの、新たに得られたものが沢山ありました。
帰って来て改めて自分のシステムをじっくり聴いてみると、今まで気付かなかった過不足が結構あります。
その要素は色々とあるのですが、纏めてしまえばちょっとわざとらしさ、あざとさを感じます。自然さが足りねえな、と。まあ、そもそもの基礎性能が足りてない部分もあるんですけど。
今のところまだまだそこまでお金をかけなくても詰められる要素は有って、その最大の点はデジタルの送り出しの強化、次点で接続周りのケーブルの整備です。
HPAやDACの買い替えなどの大きな変更を行うのは、これらをちゃんと詰めた後かなと考えてます。
特にデジタルの送り出しは、言ってしまえばオーディオ専用PCを作りガチ詰めするという事になります。
これについてはずっと避けてきた(メインユースのPCと一緒にしていた)んですが、流石にもう手を付けざるを得ないと判断しましたし、多分今年中に着手すると思います。
いずれにせよ今後やる事はかなりはっきりしましたし、目指す音の方向性もかなり具体的になりました。
後は無理のない範囲で、一つ一つ地道に改善を積み重ねていきたいところです。