先日Utopiaの編み込みを解いたバージョンの空気録音をアップしました。
私は原データと実際の聴感上の変化を比較して、概ね以下の通りの感想を持ちました。
空気録音でもある程度認識できる変化
・付帯音が減少している
・高域の量が増加している
空気録音では認識が難しい変化
・位相情報の改善
・微細領域の情報量(特に音色と空間情報)の改善
ですが、実際にYoutubeにアップしたところ、いずれの変化も微小で分かり難いとの感想を貰いました(後で確認した所、私自身もそのように感じました)。
Youtubeにアップする以上圧縮音源になる事が要因の一つとは思いますが、これをコントロールする術は無いので、改善することが出来ません。
よって、今回のようにケーブルの変化による音質の違いを判別するのは、恐らく現時点で空気録音では難しそうだと判断しました。
端的に言って今回の試みは失敗だと思いますので、今後の空気録音については主にヘッドホンの種類を増やすことを主にしていきたいと思います。
ケーブル違いの録音も止める訳ではありませんが、当面は優先順位を下げます。
さて、ここからはケーブルを編むことについての現時点での私の考えと、それを含めたケーブルに関する考え方を書いてみたいと思います。
1.ケーブルを編むことのメリットとデメリット
まず先に、ケーブルを編むことのメリットを上げてみたいと思います。
これは、まず実用上の点で言えばケーブルが絡まりにくくなる、耐久性が上がる、タッチノイズが減少する等が上げられると思います。
一方で、音質的なメリットは個人的には非常に少ない、ほぼ無いと言って差支えないレベルだと現時点では思っています。むしろ多数のデメリットがあると感じる程であり、以下私が感じた点を説明したいと思います。
なお、最近kanata氏が音像と音場の描写についての考え方の記事をアップされており、非常に簡潔で分かりやすく、また今回の変化を説明するのにうってつけだったので、そちらに沿って説明してみたいと思います。
まず、音像の芯の部分については、ケーブルを編み込むと主に高域の量が減衰します。
音像の周辺部については、本来あった音の周辺部の情報が一定程度失われ、代わりに付帯音が目立つようになります。付帯音により周辺部の情報がマスクされがちになると言ってもいいかもしれません。
響きについては若干減少傾向でしょうか。
そして、一番影響の多い場所が雰囲気成分で、こちらの情報の喪失はかなり多いと言ってもいいと思います。その為に、音と音の間に何もない空間があると認識されることが増えます。
全体を通しては、それぞれの成分のシームレスな溶けあいという部分でもかなり不利になり、特に雰囲気成分との断絶感が強くなります。
その為、左右の音場のつながりが悪く感じられたり、それぞれの音が相互に混じり合わない(分断されている)感が強くなります。
なお、音質上メリットになり得る要素としては、一応先にも挙げた高域の量が減衰するという面が有ります。
これ自体はデメリットに見えますし実際そうなのですが、高域に癖があったり量感が出る素材(例えば銀線)の場合は、減衰することで上手くバランスが取れる事があると感じます。
私がUtopiaに使用している銀線12芯ケーブルも、編み込んだ状態だと概ねフラットですが、解いた状態だと高域に癖と言うかピークがあるように感じ、かなり主張するようになりました。
2.ケーブルを編むことのツイスト効果?
ケーブルを編むことのメリットとしてノイズに強くなる(ツイスト効果による)という点が挙げられる事が有りますが、正直私は懐疑的です。
一般にツイスト効果を得るためには、以下の事が必要だと言われています。
・平衡信号のプラスとマイナスをペアとして交互になるようにねじる。
・他の線とは近接させない(ツイスト効果が失われる)。どうしても近接する場合は、プラス同士、マイナス同士が隣接し続ける事を防止するためにツイスト率を変える。
ですが、編み込んだケーブルは上記のいずれも満たしません。むしろ、いずれのケーブルにおいても、平衡信号では無いケーブルと近接する機会(要はLとRの線)が倍もしくはそれ以上あります。8本以上のケーブルを編んだ場合では、平衡信号内のプラス同士、マイナス同士が近接する機会も出てきます。
これではノイズの抑制どころかむしろノイズの発生を促進しているのでは?と感じるところであり、付帯音の増加はこの辺りに原因があるのではないかと予想しています。
編組の構造でツイスト率をどう計算するか、そもそも計算できるのかは不明ですが、そもそも平衡信号のペアよりもそれ以外のケーブルと近接する機会の方が倍以上あるので、ツイスト率以前の問題でしょう。
また、分岐した部分以外は全てのケーブルが一緒に編まれている事が多く、振動の重畳という意味でも望ましいとは言えない構造だと思っています。
3.ケーブルの電気的特性と機械的特性
ケーブルについて色々と試行錯誤していると、どうやっても電気的特性だけで性能が測れるものでは無いことが分かってきます。
例えば、電気的特性が全てを支配するのであれば、銀線に銅線が敵う事は有り得ないはずです。それ位、IACSには歴然とした差があります。
けれど、実際の所では銀線が完全優位という訳では有りませんし、ピュアオーディオのハイエンドケーブルメーカーでは決して銀を採用しないメーカーも普通にあります。
そんな彼らを無知であると馬鹿にするのは簡単ですけど、そもそも高額な商品を継続して提供していて、しかもそれを生業に出来ている人たちがそんな訳は無いのです。
そこにあるのは、電気的特性だけでは無く機械的特性も同様に重要であり、それらをどううまくバランスさせるかという事を真剣に研究している姿です(実は他にも色々とあるんですが、本筋と違う話になるので次回の記事で)。
確かに銅は銀よりもIACSの面では劣っていますが、機械的特性を見ればむしろ銅の方が好ましい面も多いようです。だからこそ、トータルで見た時に敢えて銀を採用せず、銅を高純度化させたり工夫して使うメーカーも多いのでしょう。
まあ、一組で数百万のケーブルを正当化出来るかどうかはともかく、少なくとも虚構を元に騙すだけの商売をしている訳ではない事は感じ取れるはずです。
まあ、だからと言って全てを肯定できるかと言えばそんなことは有りませんが……
因みに機械的特性を重視している例を一つ挙げるとすると、マルチョウエンジニアリングさんのケーブルは絶縁体の振動を取り除くことにフォーカスしている商品であり、その好例だと言えると思います。
4.終わりに
以上、色々と書いてきました。
ヘッドホンやイヤホンのケーブルは、音質だけでなく利便性や耐久性が大事な側面もあります。
特にポータブルに用いることが多いイヤホンのケーブルについては、むしろそちらの方が重要であると考えることも出来るでしょう。その点から見れば、ケーブルを編むという行為はそこまで不自然なものではありません。
ですけど、音質追及という面においてケーブルを編むという行為は、先にも書いたようにメリットはかなり少なく、むしろデメリットが多いと感じるところです。
これは電気的特性や機械的特性から見てもそう思いますし、実際に試した聴感上もそう感じます。
にもかかわらず、昨今ではイヤホンとヘッドホンのケーブルにおいてだけ際立って編み込んだケーブルが多いですし、高音質を謳ったケーブルにもかなり多いです。
むしろ、それこそが高音質の証の様に主張していると感じることすらあります。
利便性や耐久性を確保しながら音質を追求する事を考えたとしても、ケーブルを編むという事は一つの手段に過ぎず、他にも工夫のしようは沢山あるはずです。
にもかかわらずこれだけ巷に編み込んだケーブル溢れている状況を見ると、必要な諸々をあまり考えずに作っているようにしか見えないのです。
そのように判断した理由は他にもありますが、その点については次回の記事で書きたいと思います。