ポタにガチでは無いけれど

 今年一応それなりにポータブル環境を揃えたり、色々と試聴を重ねたりもしました。
 自分で購入した製品は少ないですが、それでも色々と聴いていると朧気ながら見えてくるものがあります。
 今回はその辺りをつらつらと書いてみたいと思います。あくまで私の主観ではありますが。
 ですが、その前にまず以前に記事などにもしましたが、前提となる私の認識を書いておきます。

1.イヤホンの多ドラ、特にハイブリッド多ドラを上手く使いこなせているメーカーは多分一つもない。それ位に音のバランスが変だったり、癖があったり、余分な要素を追加していたりする。
2.ケーブルの編み込みは恐らく音質的にプラスになる要素は殆どない。むしろ、マイナスの面がかなり大きい。個人的には、見た目と利便性以外に編み込む意義はほぼ無いと思っている。

 1についてはまああくまで試聴した限りはと言う話ではありますが、少なくともハイエンド~ハイクラス辺りの機種を片っ端から聴いた限りでは、そう判断せざるを得ませんでした。
 時間軸精度がおかしく帯域毎に揃っていない、異種ドライバの質感の違いを解消できていないといった程度ならかわいい物で、明らかに響きが過剰で飽和気味だったり、明確な曇りがあったりとこの価格帯でそれ許すの?と言いたくなるような瑕疵を持った機種が少なくありません。
 厄介なのは、多数のドライバを積むことはもろにコストアップにつながるので、達成している音質に対してはともかく、原価という点では高い価格に正当な理由がある事です。

 2については、自作ケーブルで3種、同一素材で編み込みとそうでない状態の物を聴いた結果と、後は5~10万円程度のイヤホン用リケーブル製品(多分10本位、全て編み込み)を試聴した結果から、現状ではそう判断しています。
 編み込みケーブルにおいて個人的に最も致命的だと感じるのは微細領域の情報が削れることです。少なくとも自作ケーブルでは全て同傾向を示しましたし、試聴したケーブルでもここがちゃんと出てるケーブルは皆無でした。
 時折イヤホンでバランス駆動にすると中抜けが気になるという意見を目にしますが、この微細領域を拾えていない事が大きいのではと感じています。
 左右の分離が良くなるのに音と音の間の空間情報が拾えないために、厳しく見ると左右の音場が繋がらなくなる事が多いのですよね。その違和感が、中抜けとして認識されているのではと。
 次点で付帯音の増加があり、周波数的なレンジ感の減退も無視できないレベルであります。
 最終的に出来上がるケーブルの傾向として、元々の線材の特徴を打ち消す方向に行くのですが、それは決してポジティブな手法では無く、あくまで引き算の結果でしかありません。長所を潰してバランスを取るとも言えます。その割に付帯音は乗るので、ニュートラルなケーブルにもなりにくいです。
 こういったケーブルをヘッドホンに使用すると、機種元々の特徴を打ち消しながら独特の癖を乗せる方向性になりがちです。小さくまとまってしまう、と言えばいいでしょうか。

 個人的に、オーディオにおける音質の追及は登山のような物であり、その中でそれぞれがこれが最善と判断したルートを上っているのだと考えています。
 まだ低い段階にいる場合には各々に見える景色は全く違ったり、互いの位置が見えない場合もあるでしょう。
 それが高い場所に行けば行くほど景色の違いは小さくなり、立ち位置の違いもさほど大きくなくなり、互いの位置が良く見え、そして究極的には頂上において全く同じ視点に立つのではないかと。
 これはヘッドホンで平面駆動型、ダイナミック型、静電型をそれぞれに試したり、アンプにおいてトランジスタ真空管を試したりした経験上強く感じます。
 そしてそれは、今年のTIASに参加し多くのスピーカーシステムについて試聴した結果、ほぼ確信に近い物に変わっています。
 それについてもう少し具体的に書くと、音源の情報をなるべく多く取り出す、余分な音の付加を可能な限り排除するという二点に最終的には帰結し、その能力の精度がどこまでも問われるのだという事です。
 また、これらを追及していくと、結局は万能型になって行きます。上記の二つを極めようとすると、必然的に万能性を獲得するとも言えます。
 勿論どこまで行っても様々な制約が存在しますし(コスト無制限なんて有り得ないですし)、全ての製品でそれを限界まで追及していくことは出来ないので、どこかで妥協が入らざるを得ませんが、むしろそこが各メーカーの腕の見せ所であり、思想が現れる点でもあると言えるでしょう。

 これはポタの範囲においても、DAPやポータブルDAC/AMPでは同様の傾向なのですが、何故かイヤホンとリケーブル製品だけはそうなっていません。
 勿論全てがそうだという訳ではありませんし、イヤホンリケーブル製品のハイエンド領域は試せていませんので、そこは今の所除外しますが(とは言え造りや素材的に同傾向だとは思っています)。
 特にイヤホンにおいては、ハイエンドやハイクラスにあれだけ癖が強い機種が揃っているのは不可解です。
 本来であればこのような傾向は、多くのリソースを割けない低価格帯の製品で見られる傾向であり、通常は高価格帯になればなるほど万能型になって行きます。
 特化はあくまでリソースが限られる場合の次善の策という事もありますし、そもそも音質を高めるという行為そのものが、先にも述べた通り否応なしに万能性を獲得することに繋がるからです。
 また、ユーザー側の視点で言っても、数十万する機種を何台も揃え、聴くジャンル毎にとっかえひっかえするなんてことが出来る人間は限られます。
 現状のイヤホンの成熟具合とスピーカーと比べて気軽に変更できるという面を考慮しても、限度という物があるでしょう。
 そういう意味でも、高価格帯になればなるほど、本来市場に受け入れられない性質であるはずなのです。

 それにも関わらずこうなってしまった事に対する個人的な見解として、恐らくイヤホンとイヤホンのリケーブル製品が偶然相補的な関係になった結果、際どくバランスが取れている(取れてしまった)のだろうと推測しています。
 現在のイヤホンのハイエンドのラインナップはニアイコールでハイブリッド又はBAの多ドラな訳ですが、それらが持つ癖の強さをまず多芯編み込みケーブルがある程度打ち消す。
 そしてそこに更に編み込みケーブル独自の癖を乗せることで、何とかバランスを取っているのだろうと。
 イヤホン勢はヘッドホン勢と比べて異様にケーブルを多く持っている印象がありますし、実際に多数のケーブルを持っていた方が対応力が上がるという意見もちらほら目にします。
 癖のある機種のその癖を薄めつつ、更に別種の癖を足すことで中和を図るのですから、付け足す癖の種類(ケーブルの数)は多数そろえていないと成り立たないのでしょう。
 おそらくこれが、現在のイヤホンの傾向、リケーブル製品の傾向、どちらかだけしか無かったのならば成立しなかったのではと考えています。

 勿論これは、あくまで私の試した範囲で感じた事であり、少なくとも私の眼にはそう映るという事でしかありません。
 ですがこれは当たらずとも遠からずだとも考えており、そうであったならば再構築は容易では無いだろうとも感じています。
 万能性の高い機種は、癖のある物と合わせると全く良さが分からない結果になりがちだからです。
 とは言え、現状のままで走り続けるにしてもいずれ限界は来るでしょう。少なくとも音質追及という面においては、ある一定の所までは行けても、それ以上に踏み込むことは極めて困難になって行くはずです。
 今のBAやハイブリッドの多ドラを使いこなす方面で打破するメーカーが現れると面白いのですが、現状を見るに中々厳しそうではあります。
 また、スピーカーやヘッドホンの手法を見ても、イヤホンという小さな筐体で挑むのはかなり無謀寄りな気もします。
 少なくとも現状ではハードランディングになりそうだなと予測せざるを得ないのですが、希望が全く無い訳では無いとも思っています。
 その辺りの話はいずれ、Time Stream Cableのレビューとともに書いてみたいと思います。