ケーブルに関する情報アップデート

 以前自作ケーブルを色々と試行錯誤するにあたり情報を纏めた事があるのですが、それについてのアップデートです。
 それなりに変わった内容もあるので、改めてまとめておきたいなと。

 ケーブルにおいて何が重要かと言うのはそれぞれのメーカーで主張が異なったりしますが、概ね次の点については共通見解となっていると思われます。
 すなわち、導体の質、絶縁体の質、プラグ類の質、構造(半田含む)です。以下、順番に見ていきます。

 

1.導体の質について
 これは極めて分かりやすい項目であり、どんなケーブルメーカーだろうとここに言及しないメーカーは有りません。
 基本的に導体は、銅と銀に絞られます。銅線にメッキをかける場合は基本は銀のみ。
 電気的特性で言えば銀の方が抵抗が低いので優位ですが、機械的特性で見ると銅の方が優位な点も多いです。
 その為に、ハイエンドの領域においても、銀を採用せずあくまで高純度銅に拘るメーカーも少なくありません。
 高周波を扱うデジタルケーブルでは、ケーブルの表皮効果が大きなウエイトを占めるので、銀メッキが非常に有力な選択となり得ます。
 アナログケーブルでは表皮効果というよりは、全体的な抵抗を下げる、銅の劣化を防ぐ、という目的に主眼を置いているメーカーもあります。
 金メッキを施したり、プラチナや金などを混ぜた合金を使ったケーブルなども有りますが、基本的に王道では有りません。
 金自体の導電率は銀や銅と比べてもかなり落ちますし、各種合金類も基本的に導電率は大幅に劣位だからです。
 後は機械的特性がどうかと電気的特性とのバランスという事になりますが、やはり電気的特性の落ち幅が大きく、基本的には脚色系の音作りと考えた方が無難です。
 銅と銀で機械的特性が考慮に入るのは、あくまで導電率にそこまで差が無い(数%以内)だから。金でも2割ほど落ちますし、合金類に至っては半分以下とかも少なくありません。

 

2.絶縁体の質について
 ケーブルの絶縁を担う物質の特性です。主に比誘電率と絶縁体の厚さが関係してきます。絶縁体の厚さと静電容量(大きいほど信号をロスする)は比例とまでは行かないようですが、正の相関関係にあります。
 比誘電率が低いほど、絶縁体の厚さが薄いほど静電容量が小さくなり、信号のロスは少なくなります。もっとも絶縁体の厚さは薄すぎると強度が不足したり絶縁破壊を起こしたりするので制約が有ります。
 一般的に優秀で入手性やコスト的にもバランスが良さそうなのはPTFE(テフロンが代表例)でしょう。PVCは比誘電率が高く最低ライン。
 空気の比誘電率が非常に低いために、導体に等間隔で極細の紐を巻き、その上に被覆を被せることでギャップを作り、空気による絶縁を行う思想のケーブルも存在します。
 しかし、ケーブルに巻き尽ける紐の影響は避けられませんし、何の介在も無く空気絶縁構造を作る事は不可能に近いので、全てを解決できるわけでは有りませんし、実際採用しているのは一部です。
 PTFEの一つであるテフロンの中でもランクがあるようで、最高ランクの物はハイエンドケーブルでも採用されている事もあります。
 一方で、高級ケーブルを作っているメーカーや規模が大きいメーカーでは、既存の素材に満足できず独自開発している所も多いです。
 DH LabsのPTFEに空気を混ぜ込んだ発泡PTFE、CHORD COMPANYのTaylon、Argento AudioのVDM等が一例です。
 もっとも、素材開発に関してはハードルは高いようで、一定以上の規模のメーカーしかしていません。
 また、電気的特性だけでなく振動の影響も大きいので、比誘電率が低ければそれだけで優秀かと言えばそうも行かないのが難しい所。上位のケーブルでは、比誘電率と振動関係の性能の両立をどのメーカーも追及しています。

 

3.プラグ類の質
 基本的にはコンタクト(信号の経路)の素材とその絶縁素材、全体的な振動対策(ハウジングの設計)が主に関係する所です。
 こちらは直接抜き差しする部分という事もあり、単純に音の事だけを考える訳にはいかず、機械的強度も重要になります。
 特に低価格帯ではそれなりに粗雑に扱われることも考慮しなければならない為、コンタクトはあまり電気伝導率は良くなくとも強度のある銅合金(リン青銅、ベリリウム銅、真鍮等)が殆どです。
 一定以上のクラスになると銅合金ながら非常に電気伝導率の高いテルル銅や純銅、純銀等が使われたりします。
 また、こちらも拘るメーカーは独自設計で作っており、一般的には販売されません。
 一般販売で手に入る中で比較的廉価帯から最もよく目にするであろうメーカーはノイトリック、高品質路線ではAeco、Furutech、Neotech、SonarQuest等が挙げられるでしょうか。
 SonarQuestは聞きなれない人も多いかと思いますが、元を辿るとここがOEM元だという事が多いメーカーです。特によく見かける金属とカーボンの組み合わせのハウジングのコネクタは、意外とここが元になっている事も多いようです。Furutechも多いとは思いますが。
 また、コンタクトは普通に空気に触れるために、腐食から守るメッキも重要です。これは、基本的には銀か金、多少譲歩してもロジウムまででしょう。
 金は導電率こそ多少落ちますが安定性、機械的特性(硬すぎない)という面で優れています。銀は導電率に優れていますが硬いのがネック。
 ロジウムは金よりも更に導電率が落ちます(抵抗値は金の2倍程度)が、安定性と非常に高い強度を誇るので、コンタクトの保護と言う観点から見れば高品質路線でも有りかもしれません。個人的には、割と音に癖を乗せてしまうように感じますが。
 その他のメッキは基本避けるべき、もしくは脚色用途。パラジウムやプラチナ等も有りますが、導電率がスズとほぼ変わらない(スズが銅の約15%、パラジウムとプラチナはどちらも16%程、言い換えるとどちらも抵抗値で約6.5倍ほどある)ので、基本的には避けた方が良いでしょう。
 純銅に無メッキという場合は信号を伝えるという面だけ見れば優れていますが、表面の酸化が避けられないので、定期的に手入れをするしかありません。また、銅自体が決して硬い金属でも無いために、扱いは注意を要します。

 

4.構造
 こちらは本当に各メーカーによって様々で、特にハイエンドケーブルにおいてはここが勝負になる事が多いです。上記全てで行きつくところまで行くので、ここしか差別化要因が残らないとも言います。
 とは言え、ハイエンド領域の特殊構造だけでは無く、一般的な構造の工夫もそれなりにあります。基本的な所ではツイストペアによるツイスト効果、スターカッド構造による磁界の打消し、シールドによる外来ノイズ防止などでしょうか。
 また、ケーブルの構造だけでなくプラグとの結線方法もこちらに含んでいいかもしれません。
 こだわりの半田を使っていたり、そもそも半田を使わない結線(独自技術による強力な圧着が一例)等ですね。
 ハイエンドの領域においては、他では真似できない構造になってたり、物凄く手間がかかる構造だったりなど、特殊な構造に行きつくことが多いです。使っている素材の精度に拘るというのもこちらに含めて良いかもしれません。
 但し、特殊な構造は製造コストが跳ね上がる事が多いので、値段もとんでもないことになって行きます。

 大別するとこんな感じですね。後は、海外のケーブルを調べていた時に感じた価格帯別のざっくりとした特徴などを。まあ、例外も多いので、話半分程度に。

500ドル未満
 基本的にそこまで素材には拘れず、コストパフォーマンス追及路線が多い。メーカーによっては1の導体は頑張っている事があるが、多くの場合それが限界。
 プラグはオーディオグレードを称するケーブルであれば大抵の場合ノイトリック採用位はしているが、100ドル未満だとノンブランド品な事もある。
 大きい規模のメーカーで廉価なラインを持っている所は自社設計のプラグを使っていたりするが、それでも素材にまで拘れている所は少ない。

500ドル~1000ドル未満
 基本的に導体にはどこも拘りだす。絶縁体に関してもそれなりに気を使うが、PTFEを採用するくらいが精々。
 大手ケーブル会社では、上位商品の開発時に使った素材を流用するなどして、絶縁体やプラグにオリジナルを使っていたりする。
 プラグ類もそこそこ拘るが、依然としてノイトリック採用(もしくは同グレードの類)が多い。構造に関しては基本的な所を、ケーブル種類によって必要な物だけ抑える感じ。

1000ドル~1500ドル未満
 導体、絶縁体、プラグ等に関してどこも基本的には高品質の物で纏められている。もっとも、プラグはまだノイトリック採用が割と残っていたりはする。
 自社設計あるいはOEMのプラグを採用したり自社設計の導体を使うなど、メーカーオリジナルの素材を使用する所も増え始める。

1500ドル~3000ドル未満
 この辺りから明らかに他社仕入れの商品をそのまま使っている所は減り始める。やってもOEM位で、基本的には自社設計の素材で他社との差別化を図り始める。
 とは言え、高品質の一般販売品を採用している場合もそれなりにある。SonarQuestのカーボングレードやFurutechの上位品は割と見かける。まだ特殊な構造の工夫などはあまり採用されない。

3000ドル~5000ドル未満
 基本は全て自社設計の素材で統一され、それにより他社との差別化を目指す様になる。多分やっても一部だけOEM品とかその位。また、特殊な構造も採用され始める。

5000ドル以上
 この辺りに来ると、もう自社設計でない要素は殆ど出てこない。また、それらの質についてもほぼ上限に近いレベルで、基礎的な要素で隙のある商品は基本的に無い。
 メーカーの理念、信条、理論構築が製品に大きく反映され、他にないオリジナリティが重視される。特殊な構造が採用されるケースも多い。

 

無差別級
 何でもあり、値段も青天井。500万円を超えるケーブルなどもあり、中身を見てもそこまでやるかというような拘り(クレイジーのレベル)が随所に見える様になる。
 上記の基礎的要素ではもう測ること自体が難しくなる。構造もかなり凝っていて、かつ他者と差別化を図った独自構造を採用している事が殆ど。