THRORの再評価と改めてケーブルの編み込みについて

 前回の記事でTHRORについて再評価したいと思ったと書きました。
 これについてはいくつか理由があるのですが、一番大きな理由はこれが今まで聞いてきた中で最良の低域再生能力を誇るからです。
 この点についてはFocal Utopiaですらかなりの差を付けられていた為に、何とも惜しい機種だと思っていたのです。

 別の理由としては、MSB Premier HPAを購入してから、主にUtopiaを使う事が多かった(というか殆ど)というのもあります。
 当初からとんでもない領域の音を出していた上、そう短くない期間で新たな発見が続いたために、ちょっと他の機種を聴き込む余裕が無かったのです。
 そしてそちらが一段落したので、現在の自分の認知でTHRORを聴くとどうなるのか、という興味が湧いてきたのが一つ。
 もう一つはアクセサリ関係(特にケーブル関連)で色々と得られた情報により、今出来るだけの処置をしたらどうなるのかと思ったのが大きいでしょうか。

 まず簡単に以前までの私のTHRORに対する評価(自作ケーブルに変更済み)を列記します。

・最低域、再高域への伸びについては、Utopiaの様な最高峰と比較すると若干劣る
・音場に関しては決して広くはないが、どこかの方向に極端に弱いという事も無い。奥行きもちゃんと出る。とは言え、所謂ハイエンドと呼ばれるクラスにおいては明確に狭い。
・最低域への伸びを除けば、低域の再生能力はずば抜けている。特にバスドラの質感で言えば、Utopiaですら大差を付けられている。私が聴いてきた中ではトップ。次点でマス工房Model406で聴いたFinal D8000(かなり前の経験なので曖昧だが)。
・音源への距離感がかなり近い。
・音の表現に関して、厳しい事を言えば自在性が足りない。どんな音源に対しても力強さとか、勢いを付加してしまう方向性。

 そして、前回の記事で書いた通り、ケーブルで編んでいた部分を全て解いて、かなり良い感じに改善された訳ですが。
 どうせなら行きつくところまで行ってしまえと、こうした訳です。

1枚目:ケーブルの編み込んでいた部分を解いただけの状態


2枚目:信号線以外の全てを取っ払った状態



 ケーブルを纏めているアウターを全て取っ払い、更に信号線を螺旋状に巻くサポートのためにあった円柱状のシリコンゴムの様な素材も排除。更に螺旋状に巻かれることでついていたケーブルのねじれを出来る範囲で解消し、フリーの状態になるように。
 まあつまりは、12本の信号線を何もせずにただコネクタに繋いだ状態という、見た目最悪、使い勝手も最悪(色んな箇所に引っかかりやすいし)のケーブルが出来上がりました。
 そして、結果として得られた性能としては、想定以上にヤベエ音が出てきてナニコレ状態。列記すると、

・現状で手持ちのUtopia(初代)+自作ケーブルの基礎性能を総合的に見て完全に上回る。微細領域の情報量、アンビエント、音の分離、音色の描写の自然さと自在性など、これまでUtopiaの独擅場だった部分ですら明らかに上回っている。Utopiaが未だなお優位なのは音場の広さ位。
・元々の強みだった低域の表現力は勿論顕在。やはりバスドラやカホンのように、特に低域に属する打楽器の表現力は随一。
・低域に限らず、打楽器全般は非常に表現力が高い。恐らく、音の立ち上がりの速さが極めて優れていると思われる。
・高域の情報量が明らかに増え、他の帯域と全く差を感じなくなった。
・以前まであった最高域、最低域どちらにもほんの少し抜けきらない感覚は完全に消えた。
・音源への距離感、各楽器の定位する位置などの近さはほぼ変わらないが、音が広がっていく空間の制限が無くなった感じで、音場の狭さは気にならなくなった。
・Utopiaは現在のTHRORと比較すると、若干音が硬く、僅かに音の輪郭が残っている。特にピアノで顕著。あと、バスドラの音がかなり軽い。

 とまあ、正直言って今までの音は一体何だったのかと。と言うか、もうケーブル関連の変更で起こっていい変化じゃないですよこれ。
 いやいやご冗談をと思うかもしれませんが、何度もUtopiaと比較しながら聴きなおし、抑えて書いてこれなんですよね。
 私自身としてはむしろ、編んだ状態の音も頑張ってくれていた方が使い勝手の面で優れるので良かったです。

 とは言え、じゃあTHRORがUtopiaを上回る本体性能を持っているかと言うと、実はまだそうは思っていません。
 何故なら、現在Utopiaに使ってるケーブル、12芯で編み込まれてる(そういう状態で売られていたケーブル)のですよ。
 ケーブルを編み込む事、無闇に被覆をかぶせる事の悪影響を知った以上これもリメイクせざるを得ないですし、恐らくかなりの変化があると思われます。
 この点については、編み込んだ状態と、編み込みを解いた後の状態で空気録音を録ってみても面白いかもしれません。


 但し、ここで注意点が一つ。
 全ての信号線をほぼフリーにした状態は確かに音の面では素晴らしいですが、特に多芯のケーブルを使う際は二つ明らかな問題があります。
 一つは、先にも少し触れましたが色んな部分にひっかけやすくなり、また束ねてないので1本だけをひっかけた際などにとても断線しやすくなるという事。
 もう一つは、死ぬほどタッチノイズが増えるので、ポタ系のケーブルには向かないどころか、据置ですら人によっては忌避するだろうという事です。
 少し態勢を変える程度でもケーブル同士がこすれてタッチノイズが混ざるので、下手に身動きできません。歩くとか論外。
 私は普段ヘッドホンリスニングを行う場合でも割とじっとしている方なので気になりませんが、人によっては身動きのできない束縛感が問題になるでしょう。


 今回の試みを行う前の想定では、そこまで大きい変化は起きないと思っていました。言っても、精々ケーブルを変更した時程度の、微細領域に属する類の変化だろうと。
 ですが、少なくとも今回試したケースにおいては、下手をするとヘッドホンのランクが1段変わる位の変化でした。まあこれは、ヘッドホン側にそれだけの変化を受け止められる素養がある事が前提でしょうし、ケーブルの性質にもよるのでしょうが。
 今後も手持ちの他の編み込んでいるケーブルでも確認していきますが、現状ではケーブルを編み込むという行為は、使い勝手や見た目以外ではメリットは無い、むしろ音の面ではデメリットがかなり大きいと感じています。
 今回のケーブルで確認できたのは、全体的な情報量の減少(特に高域と微細領域で顕著)、付帯音の増加、アンビエントの減少、音の分離の悪化、位相情報の悪化等で、これが他のケーブルにおいても起こり得るかは今後の検証項目となります。
 次はUtopiaに使用しているケーブルで試す予定で、他にはHE1000seに使っているケーブル(こちらも16芯編み×2)でも試していこうと思っています。
 結果は随時ブログに上げて行きますし、場合によっては空気録音のネタにするかもしれません。