最近final ZE8000の自分ダミーヘッドの記事がちょっと話題になっていたので、それと関連してEQを始めとした後処理系ついて触れようかと。
ZE8000は内容的には結構本格的に補正する感じなので、正直実際に試さない事には何とも言えない感はあります。
ただ、それ以外の主な後処理による補正はそれなりに試してきたので、大まかにどんな感じになっているのかは言えるかと。
取り敢えず、現在までに私が試したものについて、主な所を列記します。
・YAMAHA DME24Nを用いたデジタルEQ処理(デジタルinデジタルout)
・AKG N90Qのオートキャリブレーションと音場補正、ついでにEQ
・Steven Slate Audio VSXと附属のVST3 Pluginによるルーム補正
・Black Rooster Audio、Waves、iZotope、Plugin Alliance等の音楽制作系で使うVSTプラグイン製品。
・Sonarworksのヘッドホン補正プラグイン(デモ使用、試したのはSennheiser製品の補正のみ)
世の中にはこういった後から処理に使える物は無数にあり、それと比べれば微々たるものですが、それでもそれなりに試している方ではあるでしょう。
そして、この中で今の所常用できると思ったものはありません。使えて味変用途ですかね。
確かにこれらの後処理は、物によっては結構ガラッと雰囲気が変わるものもあります。
バランスが悪い製品に対して使えば、特に帯域毎のEQについては大きな効果を実感できる場合もあるでしょう。
ですが、全ての後処理系に言える事ですが、やはり元のヘッドホンが出す音の質感は大なり小なり劣化しますし、ましてや質感を上げることは現状ではできる製品はありません。
例えばSonarworksのプラグインは、一時HD25-1の音がスタジオリファレンスクラスの音に変化するなんて記事も見かけましたが、それは帯域バランスが整っただけ。ちゃんと聴けば、音の質感はやはりHD25-1のままであり、むしろ若干情報量はそがれている感じでした。
これは仕組み上致し方ない所ではありますが、私はその感触がどうしてもだめで、後処理系のソフトや機器を常用するには至っていません。
特にヘッドホンは複数所持による使い分けが現実的なので、これらで補正に頼る位なら使い分けで……となるのも一因かもしれません。
上記に挙げた中で一番劣化が少なく実用性もあると感じたのは、音楽制作系のVSTプラグイン群でしょうか。
とは言え、これらのプラグインを使用するにはまず再生ソフトが著しく限られ、VST3ならTuneBrowser、foobar2000、Sound Player Lilith位しか選択肢がありません。
時折DAWを再生ソフトとして使うという案を目にしますが(それならプラグインは自由に使えるので)、オーディオプライヤーとしては使い勝手が恐ろしく悪いので、余程の物好きではない限り手を出さない方がいいと思います。価格もかなり高いですね。
また、プラグイン自体もそれなりの価格がするものが多いので、気軽に試せる部類では無いでしょう。
私自身は、かなり早い段階からオーディオインターフェースを使用してPCオーディオをやって来た関係で、かなり前からこういったプラグインはBlack Fridayセールで大幅に安くなることを知っており、興味が出て買ってみたのが始まりです。
とは言え、場合によっては海外サイトのアカウントを作る必要がありますし、その際はPaypalは必須レベルなので、やはり一般的にお勧めとは言い難いです。
まあ、無料のVSTプラグインを試してみるというのはありかもしれません。有名どころだとTDR Novaとか、あるいはAcustica Audioの無料プラグイン辺りがお勧めでしょうか。
この辺の情報を追いたいなら、情報サイトならComputer Music Japan、ショップならRock on Companyを見てればまあ大体は事足ります。
とにかく音楽制作系のプラグインは大幅なセールがされることが多く、値引きの幅も尋常じゃないので、最初から定価で買う事はお勧めしません。平気で8割9割値引きされる世界なので。
特にプラグイン関連の情報をあまり知らないうちは、Black Fridayでのセール品の中から、お勧めされている商品を試してみるのが良いでしょう。
因みに、こういったプラグインの中でも最高峰の評価を得ているメーカーの一つにDMG Audioがあり、そこはBlack Friday等によるセールはありません(少なくとも私は見た事が無い)。公式でまとめ買いした際の、バンドルセールがあるだけです。
そこのEQulibriumというEQが気にはなってるんですけど、それなりのお値段がするので今の所試せていません。
現状ではやっぱり駄目でしたになる可能性も高い為に、優先順位はかなり低いです。ミックス、マスタリング作業をする訳でも無いのにそこまでするか?というのもありますしね。
その他の処理については、劣化の度合いが大きくあまりお勧めできません。
一時期デジタルEQは劣化せずにEQが行えると言って、ベリンガーのプロセッサを推している人も見かけましたが、DME24Nを使った感想としてはそれは幻想だと言わざるを得ません。
デジタルEQなら音質は劣化しないのでどんな機種でも良いというのはかなりの暴論で、やはり機器側の実力により結果は大きく左右されると現状では認識しています。
DME24Nは舞台音響向けの機器の為オーディオ用とは若干毛色が違いますが、それなりの価格帯の製品で定評もあり、品質的に悪くは無い筈ですがそれでも劣化の具合が大きかったです。
AKG N90Qについてはそもそも製品独自の機能なので他に使用できる物ではありませんし、そうで無かったとしても品質は微妙でしたので同じことでしょうか。
今の所、私が感じている事はこんな感じです。
確かにデジタル技術の進歩、計算機の演算能力の向上により、こういった補正系の品質は大きく上がったのでしょう。
ですがそれは未だ理想には遠く、トレードオフの関係を抜け出せている物は、少なくとも現状では私は知りません。
ヘッドホンオーディオに利用するには、まだまだ気兼ねなく利用できるというレベルには無いと思っています。様々な特性やそれに伴う制約を理解しつつ、用法容量を守ってお使いくださいという感じでしょうか。
そういう意味ではZE8000のサービスについてはブレイクスルーの可能性もありますが、利用のハードルが高すぎてあまり一般的な評価は固まらない気がします。
現状ではまず完全予約制で人数も限られており、最大で12名しか利用できないサービスです。
仮にサービスが完全に一般開放されたとしても、費用もさることながら、直接final本社に2回期間を空けて行かなければならないので、利用が現実的なのは近隣の都道府県の方位でしょう。
いつの日か、こういった後処理による補正が全く瑕疵が無い、あるいは人の気付けない領域にまでなる日が来るかもしれません。
ですが少なくとも、この類の処理に大きな夢を見るには、まだまだ足りない部分が多いと言うのが現在地だと思います。