イヤホンリケーブル市場調査

 少し前に、イヤホンのリケーブル市場ってどうなっているのか簡単に調べてみました。
 それで、あまりに歪んでいるというか、ハイエンド帯含め非常に未成熟な印象を受け、本格的に調べることにしました。
 やる事は単純で、eイヤのイヤホン用ケーブルを価格が高い順にソートし、最上位から2万円程度まで総当たりでチェック。
 とは言え、流石に全商品を一つ一つチェックしていたら時間がいくらあっても足りないので、複数の商品があるメーカーはフラッグシップでの採用技術のみ調査、イヤホンの純正ケーブルの単品売りは除外という条件です。
 なお、商品の内容や技術については、ショップの販売ページでは無く全て公式のウェブサイトで確認しています。
 最初の調査時の印象から最悪の結果もある程度予想しましたが、思わぬ収穫もあったのでそれなりにやった甲斐はあったかなと思います。
 それでは、その結果について簡単にまとめます。

1.素晴らしいと感じたメーカー
 nideonとbispaのみ。但し、bispaは商品が3万円程度の物がフラッグシップで上位帯の商品が無いので、後述のハイコスパ枠で詳しく書きます。
 nideonはエントリー、ミドルクラス、ハイエンド帯全てに製品を揃え、かつ内容も極めて理論的。
 公式サイトでの技術の説明を見ても、導体、絶縁体、プラグ、そして恐らくは構造全てに真っ向から真剣に取り組んでいることが伺えます。
 構造についてはやっている事に関して詳細な解説が無かったのですが、それでも全体的に見て間違いないだろうと思えるメーカーです。
 個人的には、イヤホン用のみならずヘッドホン用でも欲しいなと思うくらいで、これは恐らくそう遠くない内に購入する可能性が高いです。
 プライシングについても、この内容なら十分納得、むしろ安いまであると感じるメーカーです。

2.ハイコストパフォーマンス枠
 bispaが素晴らしいです。
 フラッグシップ(渚シリーズ)で3万円を切る価格ながら、導体にPC-OCC(6Nの高純度単結晶銅)採用、低比誘電率(1.22@20GHz)の絶縁体採用、イヤホン側はテルル銅(97%IACS)、アンプ側はSHC素材のプラグ採用(※修正、注文時にアップグレードで対応でした。基本はトープラの真鍮プラグ)、デュアルスターカッド構造と、導体、絶縁体、プラグ、構造と全てに手抜かりが有りません。
 正直言って、何でこんな価格で提供できているのかが不思議でならないレベル。
 以前の記事で糸竹管弦のケーブル自作しようかなと書いたのですが、こんな良いケーブルがあるならこれでいいじゃんという感じです。
 と言いますか、この価格でこの内容は、自作で立ち向かうのは非常に困難です。
 勿論聴いてみなければ実際の音は分かりませんが、ここまで真面目に取り組んでるなら悪かろうはずも無いという印象。
 これは近い内に購入すると思いますので、届いたらインプレを挙げたいと思います。

3.やや片手落ち感枠
 日本ディックス、orb、アコースティックリバイブがここに入る印象。とは言え、上記のnideonとbispaの影響が大きい事は否めませんが。
 正直言って、商品の価格を考えれば頑張っている方だとは思うのですが、nideonはともかくbispaと比べてもやや片手落ち感があります。
 特にここに挙げたメーカーの商品は、どれもbispaよりワンランクもしくはそれ以上に高い価格帯の商品なので余計に感じます。
 しかしながら、取り組みそのものは基本真っ当な物ばかりなので、今後も更に頑張って欲しい、評価されて欲しいなと思うメーカーです。

4.癖が強そうで試聴必須枠
 wagnusとbrise audioがここですね。
 どちらも決して頑張って無いと感じる訳では無いですし、briseは独自に素材開発なども色々やってて凄いなとは思います。
 ですが、やってる事はケーブルの基本原則から考えれば方向性がずれてて、癖がありそうで試聴は必須だろうなと感じます。
 wagnusは絶縁材として二重絹巻を選択していて、それ自体はまあ選択肢の一つと言えますが、そこにPEでチューブをかけてるのが何とも。
 絹はプラスに帯電しやすい素材、PEはマイナスに帯電しやすい素材という事で、静電気の影響が非常に心配され、癖が乗りそうだと感じます。
 あと、ケーブルなのにどんな音がするのかを事細かにやたらと主張している所も、疑問を感じざるを得ないところです。本来ケーブルは、「正確に信号を伝える」ことが役割なのですから。
 briseは色んな素材を開発している事は確かに凄いのですが、上位ケーブルになるほどそれらをやたらと重ねているのがちょっと。
 以前ケーブルに関する情報纏めでも書きましたが、ケーブルの静電容量は被覆の厚さと正の相関関係にあります。あれだけ重ねるなら、静電容量は増えざるを得ないでしょう。
 いくら良い影響がある素材だと言っても、最も大切な導電率と静電容量に関して良い影響を与えられる外部素材は有りません。
 それから考えれば、情報をロスする事でSNの良さを感じさせつつ、脚色で凄い音を演出していそうな印象が拭えません。静電容量が増えるというのは基本そういう事なので。
 勿論どちらも実際に音を聴いてみなければ確たることは言えませんが、少なくとも試聴をせずに買おうとは思えないというのが私の感想です。

5.判断不能
 ローゼンクランツ笑
 正直私は彼らの主張は理解できませんが、カイザーサウンドの公式ウェブサイトの技術解説を読んで、納得できるならば良いのではないでしょうか。

 概ね以上のような感じですね。
 上記以外のメーカーは、はっきり言って試聴する気すら起きないと感じる物が殆どです。
 特に酷いなと思ったのがハイエンド帯で、50万超のケーブルですら技術的には導体にしか言及していないメーカーがあったりします。
 他にも絶縁体をやたらと重ねてたり、比誘電率が高い絶縁体を平気で使ってたり、プラグの材質に何も言及していないとかも普通にあります。
 構造については、上記ですらちゃんとしていないのに、何をかいわんやと言う状況。
 編み込みについても、これをすることで音を調整するとか良くなるとか主張している所も有りましたが、理論的に解説しているメーカーはありませんでした。
 ですので、私の個人的な実践の結果も踏まえ、現時点で編み込み構造は音質的な意味での構造の工夫とはみなせません。
 なお、構造については全てを見渡してみてもぶっちゃけ編み込みかツイスト位しかないので、特殊な構造は今の所該当なしと言わざるを得ないですね。
 nideonがやっている事はちょっとそういう雰囲気があるのですが、詳細が記載されていないので不明です。

 今度東京に行く機会が有れば、この辺りを纏めて確認してみたいと思っています。
 今回調べて思ったのは、特に最上位帯の状況がかなり酷いという事。明らかに歪んでいると思いますし、正直言えば客を舐めているとしか思えない。
 勿論理論だけで音の全てが分かる訳ではありませんが、じゃあ理論を無視していいのかというとそんな訳は無いんです。
 むしろ、理論的に分かっている範囲の事すら徹底していないという事で、それで良い音がする可能性は残念ながら低いと言わざるを得ないでしょう。
 何十万、下手すると100万円を超えるプライシングをするならば、ちゃんと価格に見合った取り組みをして欲しいと感じます。
 ああいったケーブルが売れ続けると真面目にやっているメーカーが立ち行かなくなる恐れがあるので、早急に改善されて欲しいと思う所です。