比誘電率、静電容量について

 前回の記事について、絶縁体の厚みが増えれば静電容量は減少し、厚みが減れば静電容量は増えるとの指摘が有りました。
 この点を含めて、色々と改めて調べ直しましたので、情報を更新します。

 まず、電力ケーブルの静電容量計算式について解説しているサイトを以下に示します。これは、恐らくオーディオに使用されるシールドされたケーブルにおいて適用可能でしょう(構造がほぼ一緒の為)。jeea.or.jp

 このページの解説によれば、

静電容量=(0.02413×比誘電率)/ log(線直径/導体径) 
※以下全てのlogは常用対数(10を底)とする

 

により表されることが分かります。
 そこで、導体直径1mm、絶縁体1㎜(線直径3㎜)、絶縁体の比誘電率3の導体を、絶縁体だけ2㎜に増やす(線直径5㎜になる)ケースを考えます。
 上記の式に各数値を代入すると、絶縁体1㎜の時は

静電容量=(0.02413×3)/log3=0.07239/0.47712≒0.1517

次に絶縁体の厚さを2㎜にした時は

静電容量=(0.02413×3)/ log5 = 0.7239/0.699 ≒0.0345

となり、絶縁体厚さが増すことにより静電容量が減少する事が実際に確かめられます。

 次に、平行リード線の静電容量について解説しているサイトを以下に示します。シールドされていない線はこちらの考え方が適用されるはずです。

note.com

 このサイトによれば、

静電容量=(π×真空誘電率)/ln((線間距離ー導線半径)/導線半径) 
※lnは自然対数(ネイピア数eを底とする)

 と表されます。次に、導体直径2㎜、絶縁体1㎜(導線直径4㎜、半径2㎜)、線間距離30mmの条件で、距離を変えずに絶縁体の厚さのみを2㎜にした場合を考えてみます。
 また、最初に紹介したサイトより、2π×真空誘電率は0.02413でしたから、π×真空誘電率は0.012065となります。
 絶縁体1㎜の時、導線直径4㎜、導線半径は2㎜となりますから

静電容量=(π×真空中誘電率)/ ln ((30-2)/2)=0.012065/2.6390=0.004572

となります。次に、同条件で絶縁体2㎜の時、導線直径は6mmで半径は3㎜となりますから、

静電容量=(π×真空誘電率)/ln((30-3)/3)=0.012065/2.1972=0.005491

 よって、平衡信号において信号線がシールドされておらず、プラスの線とマイナスの線の線間距離が同一であるという条件下においては、絶縁体の厚さを増やすと静電容量が増えることが分かります。
 また、式から線間距離が導体直径よりも大幅に大きい(線間距離が充分離れている場合)、絶縁体の厚さひいては導線の直径の増減は、ほぼ静電容量の増減に寄与しない、線間距離が支配的になる事も分かります。
 なお、静電容量を考えるケーブルが密着している場合は、絶縁体厚さが増す事は電極の距離が離れる事と同義なので、静電容量は当然に小さくなります。

 以上の事から、絶縁体の厚みを増すと静電容量がどう変化するかは、ケーブルの構造や引き回し方に影響される所もありますが、一般的なケーブルの構造を考えた場合、多くのケースにおいて絶縁体の厚さを増すことが静電容量を小さくすると考えて良さそうです。

 前回の記事へのコメントにおいての指摘は、確かに頷ける点が多くあります。特に熱収縮チューブについては、私も最近明らかに音が変になる事に気付き、全部取り外した経験が有ります。
 また、ヘッドホンケーブルやイヤホンケーブルにおいては線どうしが密着していることが多いでしょうから、絶縁体の厚さを増すことが線間距離を増やすことになり、静電容量を小さくすることに繋がると考えてしまって差支え無さそうです。
 一方で、スピーカーケーブルではそれぞれの信号線が独立している事も多いので、絶縁体を厚くするのは静電容量増加の要因となり得ますが、適切な配線(線間距離を十分とる)を行えばほぼ無視できる要素だと考えられます。
 更に、静電容量についてはあくまでパラメータの一つに過ぎず、その他にも影響する要素が多くあるのでそこまで気にする必要は無いという意見も、最終的なバランスが重要であるという考え方であり、これについては私も同意見です。
 なお、本記事を執筆するにあたり改めて色々と調べ直したのですが、比誘電率は物質の厚みによらず一定であるとなっていたことを付記いたします。

 以前の記事執筆時にはこれらの視点はちゃんと詳細まで調べておらず、不正確な情報を記載していた事になります。
 コメントにて指摘いただいたことに感謝するとともに、不正確な情報を記載してしまったことをお詫びいたします。

 そして、最後に皆様にお願いです。
 私自身物理学をちゃんと学んできた訳では無く、どれだけ調べたとしても間違った理解の元に情報発信してしまう可能性は低くありません。
 ですから、決して私が書いた内容を鵜呑みにしないで欲しいという点と、もし間違っていた時は遠慮なく(でも可能ならば優しくw)ご指摘いただけると幸いです。