日記 HE-R9レビュー後記

 先日HE-R9のレビューをアップしましたが、今回経験したことがこれまでに無かったことが多く、その辺りを今回は書きたいと思います。
 レビュー記事の中でもちょっとだけ書きましたが、このヘッドホンをエージング開始前、25時間程度経過時点で聴いた際は、そこまでネガティブなものでは有りませんでした。
 ぱっと聴いて低域側に違和感は感じるものの、それなりに性能の高さを感じる部分もありましたしね。
 ですが、50時間ほど鳴らし込んでさあレビューを書こうと腰を据えて聞き込みを開始すると、未だかつて聴いたことが無いほどに違和感満載の音です。
 以下、箇条書きにしますが、

・微細領域どころか、普通の領域に及ぶまで情報を拾えない。一定以下の領域はばっさりと切り落とされたように出ない。
・低域~中低域の音がやたらと肥大する。これは100時間程度エージングしても、緩和はするものの完全には取れなかった。
・音のサステインがばっさり。下手をすると、普通に弾いている演奏がスタッカートのように聴こえる事がある。
・音色が無い。変な表現だけど、これ以外表現しようがない。バイオリンやピアノといった楽器の種類は判別できるが、本当にそれだけ。全部単一の情報で塗りつぶしたよう。
・ギターのピックノイズとか、ボーカルのブレスノイズ等の、ノイズだけやたらと拾う。そのノイズと実際に出ている音の間の情報が無くて分離しており、やたら耳障り。
・とにかく音がちゃんと出てないというか、振動が極端に制限されている。振動している音叉を手で掴んで強制的に止めたような感じが近い。あるいは、ギターで言うと常にミュート奏法しているような、ピアノで言うと消音の為にピアノの弦にフェルト布を挟んだ様な感じ。

とまあ、本当に当初初期不良を引いたのではと疑ったくらいでした。
 しかしながら、そうやって音の印象を纏めていると、大本の原因は一つなのではないか?という事に思い当たります。
 すなわち、振動版がまだ上手く動いていない、その状態の振動版を動かしているので局所的に歪んでいるのでは?と。
 そういう訳で、本来であれば50時間程度を目安にレビューを書くところを今回は曲げて、100時間程度鳴らしてから書くかとなった訳です。
 因みに、経過を追っていた感じでは、概ね70~80時間程度の経過を目安にようやくまともな音が出るようになった印象です。

 個人的にある程度エージング効果は肯定的なのですが、ここまで音が変わる事は無い、そうだとしたらむしろ設計がおかしいと思っていただけに軽く衝撃でした。
 エージングをしない状態では本領が発揮できないと言っても、それは最高性能が発揮されないだけであり、その前でも概ね問題ない程度の性能は発揮できる物だと。
 ですが、恐らくこのヘッドホンは初期のエージングが終わるまで本来の半分の性能も出せておらず、これだけを聴いて速攻で売り払う人が出てもおかしくないだろうと思うレベルです。

 因みに、ここから先も鳴らし込めばまだそれなりに変わるのかもしれませんが、私はこれ以上長い時間の鳴らし込み後の音は、本来の性能だと考えていません。
 と言いますか、個人的には50時間が精々だろうと思っていて、100時間に伸ばしたことすらかなりの例外です。
 端的に言うと、通常使用を念頭に置いた時、毎日3時間程度使って、1か月かけても本来の音が出ない機種など、製品としてどうかと思うのです。
 確かに音楽を鳴らしっぱなしにしておけばある程度短縮できるとは言え、一般的に考えればかなりの無理筋な話だと思ってます。
 それは明らかにユーザーに負担を強いる考え方であり、エージングによる初期なじみを求めるとしてもそれは実使用(長くて1日平均2~3時間程度)を念頭に置くべきだとと。
 そしてその期間はなるべく短い方が良く、ある程度長く見ても2週間程度、最長でも1か月程度で終わるようでなければならない、というのが私の意見です。
 それで言えば今回の100時間と言いうのはそれを超過しているのですが、その前の音があまりにもアレだったので、今回ばかりは譲歩したという感じです。
 また、あまりに長期にわたるエージングは単純に音楽を鳴らしただけでなく、時間経過による変化も無視できなくなる為、変数が多すぎて作る側も想定できない(使用者によって変わり過ぎる)だろうというのも有ります。

 話は変わりますが、今回のレビューで書いた「音像の肥大」という現象も、少なくともここまで極端な物はこの機種で初めて経験しました。
 こういった事が起こる事は一応知識としては知っていました。
 私が情報を追っている方の中に中川統雄という作曲家がいらっしゃるのですが、その方の昔のエピソードにこんな話があります。
 それはあるフルート奏者のアルバムをマスタリングしていた時に、M/S処理をしたらいきなりその奏者が笑い始めた。
 理由を聴くと、自分が3m以上ある音像になっている(フルートの吹き口が2倍以上ある)様に聴こえると。
 それは恐らく演奏に本来ない歪みか類似の何かが乗った結果、本来の音像とはかけ離れてしまって聴こえたという事だと思います。
 恐らく今回のHE-R9も、振動版が適切に動いておらず、似たような歪みが低域周りに出てしまったのではないかな、と推測しています。

 さて、大分とりとめのない話になってしまいましたが、今回書きたいと思ったのはこんな所です。
 今回のレビューは、個人的には明らかに苦行の類(それ位苦手な音)だったのですが、いい勉強にはなったとは思っています。
 取り敢えずこれから各種測定の後、色々と手をくわえていきたいと思います。