ヘッドホンのエージング効果について

 ヘッドホンのエージング効果について、そもそも効果があるかないか、ということ自体が議論にもなりますし、実際にはその程度についても色々と意見があります。
 個人的にはエージング効果は肯定派ですが、色々な意味でそこまで気にするようなものでもない、と考えています。
 その辺りについて今回は書いていきたいと思います。

1.エージング効果の影響について
 これについてはメーカーや機種によっても影響の大小はあると思いますが、実際に存在していると感じています。
 ただし、ことさらに強調しなければならないほどに影響が大きいか、と言われればあんまり気にしなくてもいいんじゃない?という立場。
 まあウルトラゾーネのようにエージングを経ないとまともに聞けたもんじゃない、と言われたりするメーカーあるいは機種もあったりしますが、そういったものは割と特殊な側だという認識です。
 私自身の経験上は、エージングによってヘッドホンへの印象が根底から変わるような変化があった事はありません。
 基本的に、良い音だと感じるヘッドホンは新品の時からいい音を鳴らしてるものが多いのではないか、というのが私の意見です。
 逆に、第一印象が悪かったヘッドホンが、エージングによって印象ががらりと変わったということもありません。
 低域のぼわつきがなくなる、高域をはじめきつい音が落ち着く等の傾向はある程度あるものの、あくまでそのヘッドホンの個性は変わらないという感じですね。
 まあ、私がこれまで所有して試した機種なんてせいぜい30~40機種程度ですので、だいぶ少ない経験ではありますが。
 ですが、そもそも普通に使用していればエージングなんて自然と進むものですし、ことさらに気にして色々とやるよりも、普通に音楽を聴いて楽しんでれば良いよね、と思っています。
 一応レビューを書く際などは、ある程度慣らしてから書くように気を付けていますけどね。
 余談ですが、特殊なエージングにより音質を高めているという製品も(ヘッドホンではなくケーブルですが)一部あったりしますが、それが事実ならユーザーの環境で使用し続けると性能が落ちませんか?と思うところ。
 それだとあんまり意味がありませんし、性能を維持できるならばきちんと根拠を示してほしいと思いますね。

2.鳴らす音源によるエージング効果の違いについて
 世の中にはエージング効果を高めるCDなんてものが存在してますし、鳴らす音源によってヘッドホンの音が別物になるなんて意見すらあったりします。
 個人的にはこちらについては懐疑的で、議論することがほぼ無意味だと思っています。
 と言いますのも、この主張が事実だとするならば、ヘッドホンのみならず、スピーカーをはじめステレオ機器全般が軒並み問題になってくるように思うんですよね。
 どんなジャンルの音源であろうと、ステレオ音源なら左右で流れている音は違います。もう少し厳密に言うと、その音源に含まれる楽器やコーラス等に大なり小なりレベル差が存在します。
 まあ、センターに定位することが多いボーカルあるいはインスト曲のメインの楽器などについては、ほぼ同じでしょうが。
 これは定位に大きく関わる要素の一つであり、そもそもそれがあるからこそステレオ音源なのであり、もし左右の音が一緒ということになればそれはモノラル音源と同等です。
 もし再生する音源の違いで音質が大きく変わってしまうのなら、左右の特性はステレオの音源を流せば流すほどずれていってしまうことになりかねません。
 ですが、そんなことを主張している意見は聞いたことはありませんし、実際に使用していてもエージングにより左右のずれが大きくなるなんてことは認識できるレベルで起こったことがありません。
 むしろ、そんな事態が起こったのならば故障、あるいは不具合と認識するのが一般的でしょう。ですから、メーカーも鳴らす音源が違う程度で、別物の音になるような設計を果たしてするだろうか?という点は、大いに疑問です。
 ですので、私はエージングについては使用時間と音量が影響を及ぼす事が殆どでしかもそれはエージング速度への影響が殆ど、音源の種別による音質への影響はほぼないと考えています。
 仮にあったとしても極めて限定的で、人が認識できるレベルではないというのが実際のところではないでしょうか。
 ただし、極端に鳴らす周波数を絞った音源を流し続ける(例えばひたすら1khzのサイン波を流し続けるとか)、音楽でも特定の1曲だけひたすらかけ続ける、くらいのことをすればある程度違いが出てくるかもしれないとは思います。
 他には、ピンクノイズやホワイトノイズ等の音楽とは呼べない音源のみをかけることも、ある程度違いは出てくる可能性はあるかもしれもせん。
 しかし、そもそも一般的な音源に含まれる音であれば、複数の音源を均して考えればそこまで帯域が偏っている訳ではないので、誤差の範囲でしか影響は出ないのではないか、というのが私の考えです。
 むしろ、それらの違いよりも同機種間に存在する個体差の方がまだ大きい気がしますし。
 それに、もし仮にエージング効果を高めるような音源があったとしても、もし自分が普段聞く音源がそのタイプでないなら、その高めたエージング効果もいずれ無意味になってしまうでしょう。
 鳴らす音源によって音が変わる(変化に差がある)のに、エージングが完了した後ならどんな音源をかけても問題ないと言うのは理論として明らかに無理がありますし。
 エージングは、初期に大きな変化が出る場合が多いだけであって、厳密に言えば緩やかに変化し続ける(劣化し続ける)ものなのですから。
 結局は、ちゃんと音楽と呼べる音源をかけていればほぼ問題ないし、それ以上は考えても仕方がないというのが現在の私の考えです。

3.鳴らす機器によっては効果は違うかも
 私としてはまだこちらの方が影響が大きいのではないかな、と感じます。DACもそうですが主にアンプの違いですね。
 ヘッドホンを駆動するアンプによって、振動版の動きが変わるということは、実際に存在するでしょう。
 もっとも、アンプによる測定上の差は決して大きくはないので、あまり大きな影響は与えない可能性が高いと一応は判断しています。
 但し、一般的な測定では表せない性能差もあったりするので、小さいとも良い難い気もしていますが、こちらに関しては正直言って不明としか言えない部分が大きいという感じです。
 また、これはMSB Premier HPAを購入した直後の体験なのですが、明らかにエージングは完了している筈の機種でも、最初にPremier HPAにつないだ時はあまり音がぱっとせず、数時間~一晩程度慣らし込むと結構変化し後は落ち着いたという経験があるので、鳴らす環境が大きく変化した時に改めてエージング効果が現れる可能性はあるかもしれない、とも考えています。
 他には、鳴らしている音量によっても振動版の動きは大きく変わるので、こちらの影響は大きいのではないか、と思います。
 ただしこれもよほど極端なこと、例えばとんでもない爆音でひたすら流し続けるくらいのことをしない限りは、音質に影響するのではなく、あくまでエージング速度に関係するのが殆どではと思ってます。
 なお、鳴らす音が小さすぎると振動版の動きが小さくなるので、エージングの進みが極端に遅くなると思います。

4.超長期のエージング後の音質は性能と呼べるか?
 私は、エージングによって変化し達成し得る音質については、その機器の性能として良いのは概ね100時間程度、長くても200時間位までだと考えています。
 それ以上長期のエージングになると、そこに存在する変数が多くなりすぎると感じますし、それを想定して製品を作る事が可能なのか、という事について疑問が残ります。
 つまり、500時間とか1000時間鳴らし込んだ後の状態なんて、作る側も想定できないのではないかという事です。そのレベルになると鳴らす環境の違いの蓄積も大きくなるので、猶更でしょう。
 結局、メーカーとしても想定できるのは、機械製品における初期なじみと呼ばれる変化と、同程度のレベルまでなのではないでしょうか。
 もちろんエージングかある程度終わった機種でも、長時間使用している間に緩やかに変化はし続けるので、効果が無いとまでは言いませんが、再現性が担保されない偶然の産物としか言いようが無い気がするのです。
 そこに再現性を持たせることが出来るのは、もはや職人技の域の調整技術を持った人にしか不可能な気がします。
 そこまでして調整したとしても、通常使用を続ければ性能を維持できるかは疑問ですが。
 また、エージングによって音質が極端に変わってしまう機器も、望ましくないと考えています。
 その極端な変化がどんな環境でも安定して起こるのならばまだ問題ないですが、これが使用環境に依存するようならば、私は製品の性能ではなく瑕疵だと認識しています。
 使用環境よってエージング効果が大きく変わるのならば、仮にそれで良い音質を獲得できたとしても、それはあまりに偶然に頼り過ぎているために、その機器の性能とはとても呼べないでしょう。

 今のところ私の意見は上記のような感じです。
 色々と書いてきましたが、結局エージングによる音質差はそこまで極端な差がある機種は多くないと思っていますし、またそんな差が出るべきでも無いとも思っています。
 機種にもよりますが一般的なレベルであれば、基本的にはケーブル変更とどちらの方が影響が大きいかと問われれば迷うレベルというのが私の見解ですね。
 影響が無いとは言いませんし、場合によっては小さいとも言い難いですが、激変するとまで言うのは流石に言い過ぎではないかと思う所です。
 そもそも普通に使用していればどんな機種であれ否応なく変化してしまうのですから、気にしたところでしょうがないと思ってます。
 それよりも、先にも述べましたがその機種を使って楽しむことを考えた方が建設的かなと考えています。
 何よりも、そういった諸々を気にするあまり、自分が好きな音楽を自由に聞けないのは、あまりに本末転倒でしょう。