スピーカーとヘッドホンの体験の差

 スピーカーとヘッドホンの体験においてどのような違いが有るか、という事はずっと気になっていた事でした。
 ですが、私のシステムは基本ヘッドホンが主であり、スピーカーの環境はヘッドホンと明らかな差がありました。
 また、ヘッドホンの環境についても、これならばと思えるほどには充実していなかったという事もありました。

 それが、2022年にMSB PremierHPAを導入した事、逢瀬WATERFALL Power 502Lとkef Reference 1を導入したことが大きな転機となりました。
 ヘッドホン環境においてひとまず目標としていた環境に到達した事、そしてそれとほぼ遜色ないと感じられるクオリティのスピーカー環境が整った事。
 これらの理由により、これまで考えていはいたものの確かめられなかったことや新たな発見について、ひとまず纏めようと思いました。

 なお、本記事の内容はあくまで体験としてどうかという事であり、特に測定などは行っていないことに留意してください。
 そして、主に大きな違いとして捉えた、音場と音像の二つの面から見ていきたいと思います。
 更に、その違いからそれぞれに求められる能力の優先度、音源への没入感という点の違いについても書いていきたいと思います。

 

1.音場についての違い
 一つ前の記事でヘッドホンの音場について書きましたが、広さという点においては圧倒的にスピーカーの方が広く、ヘッドホンはスピーカーとの勝負の土俵にすら上がれません。これについては、やはり音が実際に鳴る空間の違いがあるでしょう。
 ですが、ではヘッドホンの方はスピーカーに何一つ敵う物が無いかと言えばそれもまた否だと思います。
 それは、音源との距離を詰められるという事です。
 スピーカーリスニングにおいて、どのような聞き方でも、どうしても詰められない音源との距離があるように感じます。
 どれほどニアフィールドで頑張っても、大きな音量で鳴らそうと、ヘッドホンのように音源に近づくことは困難なように思うのです。
 勿論、私が知らないだけで、似たような距離まで近づけるスピーカーも存在するのかもしれません。

 ですがそれで破綻しないような鳴らし方をするのは構造上難しいと思いますし、何よりヘッドホンはより手軽に、簡単に音源との距離を詰めることが出来ます。
 但しそれはヘッドホンが、スピーカーのような音源との距離の取り方が、どう頑張っても困難であるという事の裏返しでもあります。

 また、当然音場の大きさがこれだけ違えば、音源を鳴らした際の知覚にかなり違いが出ます。
 その為か、曲の細かい所を意識して聴こうとすると、全体像を把握したまま行う事が、ヘッドホンの方がやりやすいと感じます。
 これは私のスピーカーリスニングの経験値が低い事もあるかもしれませんが、スピーカーで細部を聞き取ろうとするとどうしても全体像を見失いがちになってしまいます。
 但し、この事はどちらかが優れているという事では無く、それぞれにメリット・デメリットがあると感じるところです。

 

2.音像についての違い
 スピーカーの音像については特に語るまでも無いと思いますが、ヘッドホンはそれと比して音像の現れ方(感じ方)が結構違います。
 スピーカーでは基本的に聴いている人の前方の空間に定位する、あるいはそのようにセッティングしますが、ヘッドホンにおいては聴いている人の内側(頭内)に音像を結ぶことが圧倒的に多いです。
 ヘッドホンやアンプのクオリティを上げて行けば徐々に解消されては行きますが、やはりスピーカーの様な距離感での音像は得られません。
 ある程度頭外に定位すると言ってもそれは遠い位置に定位する音像においてであり、近い音像についてまで頭外に定位するようなヘッドホンは私の知る限りありません。
 もっとも、この点については空間の描写をしっかりできるシステムであれば、スピーカーが消えると表現されるのと同じように、ヘッドホンの存在が消えるという事は起こります。
 具体的に言うと、非常に近いとは言ってもしっかりと音場を形成し、その中で音楽が鳴っていると感じられるようになり、頭内に定位するという感覚がほぼ無くなるという事です。
 ですがそれでもこの点を違和感と感じる人は一定数いると思われ、そのような人はどれ程ヘッドホンやアンプのレベルを上げても違和感は解消されない可能性が高いです。

 ですが、ヘッドホンはそれと引き換えに大きな武器があります。それは、音像そのもののクオリティ、すなわち音色や細部の描写等に非常に優れているという事です。
 HD650がまだヘッドホンの頂点として君臨していたころ、「同様の音質を得たければ100万円程度のスピーカーが必要になる」と言われた事がありました。
 これはまあかなりの誇張表現(と言うか嘘に近い)ではありますが、音色の表現や細部の描写、微細情報の拾い上げと言った音像の質に関する部分に限れば、あながち間違いでは無いと感じるところです。
 スピーカーでヘッドホンのような音像のクオリティを得るのは結構大変で、私もこの点がネックになって、Reference 1を購入するまで基本ヘッドホンでしか音楽を聴いて来ませんでしたし。

 しかし、この点において低域についてだけは注意点があります。
 確かに音像そのもののクオリティではヘッドホンの方が高めやすいですし、スピーカーでは難しい30Hz以下の再生もヘッドホンでは出来ない機種を探す方が難しいレベルです。
 それにも関わらず、私がKEF Reference 1を聴いた限りにおいては、所有しているどのヘッドホンよりも聴感上低域が出ているように感じます。
 勿論、よく聞けばFocal Utopia等の方が低域方向への伸びは優れていますし、音色や分離、情報量等では優れていると判断できますが、総合的な体験の質としてはReference 1の方に軍配が上がります。
 これはよく言われることですが、やはり人は聴覚のみで音を聴いているのでは無い、体全体で聴いているという事でしょう。
 そしてそれが、低域においては顕著に表れるという事なのだと思います。

 

 長くなりましたのでいったんここで区切ります。
 次回の記事で、上記の差から、それぞれに求められる能力、そして音源への没入感の差異等について書いてみたいと思います。