日記 ヘッドホンを鳴らし切る問題

 私は「~を鳴らし切る」という表現が苦手で、これまで自身の記事では一度も使ったことがありません。
 より正確には、意味合い的に使うことが出来ないというのが正確な所ですが。その理由はいくつかあります。

 まず一つ目は、「鳴らし切る」というのはそれ以上が無いという事になりますが、そう表現するならばあらかじめ「鳴らし切った音」を知っていなければなりません。
 その音を知らない限り鳴らし切ったかどうかなんて判断のしようがないので、そう表現するのは極めて難しいと考えているのです。

 二つ目に、仮に鳴らし切った音を知らなかったとしても、鳴らす環境のクオリティを上げて行ったときに、ヘッドホンの性能がそれ以上は上がらなくなった地点を鳴らし切った状態と仮定しましょう。
 そして、私のメイン環境は現在は一応ハイエンド寄りの構成と言って良い筈ですが、それでも性能限界に突き当たったと判断できるヘッドホンはかなり少ないです。
 勿論上昇幅が非常に緩やかになる機種もあるんですけど、手持ちの機種だとHD650 DMaaですらまだ限界だと判断できる状態ではありません。

 最後に理由と言いますかこれはまた少し別の話になるんですけど、果たしてそのヘッドホンを限界まで駆動した状態が、本当に最高の音なのか疑問に思うようになったからです。
 例えば私が所有しているT1初代は、一般的な評価としては高域に定評のある機種だと思います。
 これは私も最近までそう感じていたのですが、MSB PremierHPAで駆動すると、低域と中域の改善が目覚ましいのに比して高域はあまり改善されず、最終的には高域がボトルネックになってしまいました。
 また、Slate DigitalのVSXでは、基礎性能の向上に音場の広さだけがついてこれず、それまでは気にならなかったのに、環境のクオリティを挙げた結果欠点が際立ってしまいました。
 このように、ヘッドホンの伸びしろは必ずしも全方位にわたって均等では無く、性能を引き出した結果バランスを崩してしまう事もあるようなのです。
 ですから、例え素晴らしい音でヘッドホンを鳴らしていたとしても、それが果たして鳴らし切ったという表現が適切なのか、疑問が残ってしまうのです。

 以上の理由により、私はこれまで鳴らし切ったという表現は使ってきませんでしたし、今後も使う事は無いでしょう。
 それを他人にまで押し付けようとは思いませんし、各々が好きなように表現して良いと思いますが、少なくともメーカーの説明やメディアの記事などでは、もう少し言葉の厳密性に注意を払っても良いのは無いかと思います。