日記 残酷である意味救いのある話

 オーディオにおいて、製品の金額と性能の関連性についてはよく議論になります。
 今回は、私自身がある程度経験のある100万円以内のヘッドホンに関連する製品について、現状での認識を書きたいと思います。
 主な対象は、ヘッドホン、ヘッドホンアンプ、DACだと考えてください。

 

1.基本的に価格のヒエラルキーは覆らない
 いきなり残酷な現実ですが、基本的に100万円以内の価格帯の製品について、下の価格帯の製品が上の価格帯の製品に総合力で勝る事はまずありません。
 とは言え、ほぼ同じ価格帯の多少の価格差は流石に例外ですが(例えば50万円の製品と55万円の製品の比較というレベル)。
 例外があるとすれば、ある価格帯で非常に評判の悪い機種が、一つ下の価格帯の評判の良い機種に及ばないという事は有り得ます。
 技術開発が進めば、過去の高価格帯の製品をそれより下の価格帯の現行製品が上回るという事もあるでしょう。
 また一点特化の製品で、その部分だけを見れば上位の製品に勝っているという製品が存在することも事実です。
 ですが、ある程度の定評が得られている製品については、その下のどれ程評価の高い機種だろうと、同時期の製品ならば総合力で劣る事はまず無いです。
 なお、ヘッドホンについては現在は50~60万円辺りを境界として、それ以上は無差別級になっている感じなので、そこに限った評価はあまり価格に左右されないと言っても良いと思いますが。

 

2.実は音が良いが知られてないという製品は皆無に近い
 多くの人に知られてないだけで実は音が良い製品というのは、特に低価格帯においては昨今ではほぼ無いと考えた方が良いです。
 非常に癖が強く、その癖が万人には受け入れられないが自分には刺さるという事は有るかもしれません。
 ですが、これだけインターネットが発達している中では、大抵の評判はあっという間に広まるので、評価が一部に留まり続けるあるいは広まらないという事はまずありません。
 例外としては日本に正式に入って来ていない製品を個人輸入する場合ですが、それも海外の流通している地域を含めれば同じことです。
 例えば私が所有しているAudioValve SolarisやKennerton THRORは日本での評判は殆ど聞かないでしょうが、流通している地域では一定の評価を得られているという具合です。
 ましてや、そんなほぼ有り得ない事象を自分が引き当てられる可能性は更にレアであり、それを夢見る気持ちは分からなくは無いですが、結果が伴う事を期待できるものではありません。
 これが非常に高額な製品ならば、殆どの人が購入できないためにその実力を多くの人が知らないという事は起こり得るんですけどね。

 

3.高い物が良いとは限らないが良い物は高い
 高い価格帯においても詰めが甘かったり、性能が伴わない製品は存在しています。
 特にヘッドホンが高額化し、40万円を超える製品が登場したあたりから、そういった製品は増えていると感じます。
 ですがその逆は存在しないと言って良く、やはり性能が高い製品には相応の値段が付けられています。
 これについては色々と理由があるでしょうが、その理由は結局良い特性を実現する素材や技術には高い価値が付くことが多いからでしょう。
 例えば素材の特性として、軽ければ強度は低くなりやすく、強度を高くしようとすれば重くなることが殆ど。
 回路で言えば、出力を上げれば雑音が増え、雑音を減らそうとすれば出力が稼げなかったり、音の躍動感が失われたりする。
 これらはほんの一例で他にも色々とありますが、基本的に多くの要素はあちらを立てればこちらが立たずになる事が多く、トレードオフの関係を打ち破るのは並大抵の事ではありません。
 勿論世の中にはそういった本来は相反する要素を高次元で実現する素材や技術という物も存在しますが、それらは殆どの場合希少で高い価値が付けられています。
 これはオーディオに限った話ではありませんが、一定以上の領域になるとどれだけ相反する要素を高い次元で両立できるかという話になるので、そういった技術や素材を採用せざるを得ず、必然的に高額になるのでしょう。

 

 以上、現在私が感じている、オーディオ製品における金額と性能の関連性です。
 単に札束で殴れば良い音が得られるわけではないというのはその通りで、何も考えずに高い製品を買えば全てが解決するという事は無いでしょう。
 ですが、キッチリと詰めることが出来ているシステムに対して、それより下位のグレードで固めた製品でどれだけ頑張ろうと、総合力で勝る事は難しいのもまた事実だと思います。
 これが本当のハイエンド、事実上の無差別級となる領域ならば金額が性能に比例するという事は少なくなるのでしょうが、100万円以内の製品においてはそれは難しいと感じます。
 先にも書いた通り、ヘッドホンにおいては無差別級への移行が100万円以内で起こるのでその部分だけは若干例外ですが、やはり全体としては高い領域を望むならば相応のお金が必要だと言えるでしょう。
 それは残酷な話ではありますが、逆に言えば適切にお金をかけることが出来れば相応の結果を得られるという事にもなり、ある意味救いの有る話でもあります(お金をかけることが無駄では無いという意味)。
 後は自分がどれだけの領域を望むのかを考え、自分なりの着地点に到達するように投資していくしかないのでしょう。