ヘッドホンアンプの駆動力の話

 今回はヘッドホンアンプの駆動力について書いてみたいと思います。
 大まかに分けると考えられる性能としては二つ。
 まず、そもそも音量がきちんととれるかどうか、そしてヘッドホンを適切に駆動できるか(音質を引き出せるか)です。
 それぞれ解説します。

1.音量を取れるかどうか
 ヘッドホンアンプの出力は機種ごとで様々であり、またヘッドホンの音量の取りやすさも機種ごとに千差万別です。
 ヘッドホン側の駆動しやすさに関わる仕様は二つ、インピーダンス(値:Ω)と能率もしくは感度(値:dB/mW)であり、ヘッドホンアンプ側は出力(値:W)です。
 基本的にインピーダンスは低いほど音量が取りやすい、能率は高いほど音量が取りやすい、出力は高い方が音量を取れると考えていれば大丈夫です。
 インピーダンスが低すぎるとアンプへの負荷が高くそれはそれで問題だったりするのですが、かなり特殊な機種にしか存在しないので今回は省略します。
 一昔前はインピーダンスが高いヘッドホンは音量が取りにくい等と言われていましたが、今は状況が変化しています。
 その要素も勿論ありはしますが、特に平面駆動型が出てきた現在では、インピーダンスは低いけれど能率も低いために音量が取りにくいヘッドホンが増えています。
 そして現在において、最も音量を取りにくい代表的な機種はSUSVARAとHE-6seでしょう。旧機種含めるならHE-6初代も入ります。次点でHE-1000初代あたり。全部Hifimanだな、おい。
 SUSVARAはインピーダンス60Ω、HE-6seはインピーダンスが50Ωとヘッドホンとしては決して高いインピーダンスではありませんが、能率がそれぞれ84dB/mWと83.5dB/mWと異様に低いために極めて音量が取りにくいです。
 かなり特殊なヘッドホンを含めると他にもあるんですが、一般的にはこの辺りまでを考慮に入れておけば良いでしょう。
 では、この辺りを駆動するのにどれくらいの出力がいるか?という話ですが、大体32Ω時で最低でも2w以上、出来れば3w程度の出力は欲しい感じです。
 因みに32Ω時でと書いていますが、ヘッドホンアンプの出力は繋ぐヘッドホンのインピーダンスで変化します。基本的にはインピーダンスが高いほど出力は小さくなります。これがインピーダンスが高い機種が音量が取れないと言われてい所以です。
 もっとも、繋ぐ機種のインピーダンスに対する出力の変化具合も機種によって違ったりするのですが、そこまで言及するともう際限が無いのでこれも今回は省きます。
 私が以前所有していたXI AUDIO Formula Sは出力2.1w(46Ω負荷)でしたが、これでHE-6の駆動は結構ギリギリでした。
 私自身はあまり大音量で聴く方では無いので、大音量派だともっと欲しいでしょうし、ある程度のマージンも考えるとやはり3w程度は必要かな、と。
 因みに、出力が大きければ必ず大音量が取れる訳でも無い(特に低価格帯の機種)のが厄介な所。
 私の実際の経験として、Topping A90を購入し検証したことがあるのですが、32Ω時の出力が6.4Wあるにも関わらず、前述のFormula Sより音量が取れなかったです。より厳密に言うと、あるところからどれだけボリュームを回しても音量が上がらない感じ。
 恐らく、回路設計上の理論値としてその出力があるのでしょうが、実際に重い負荷を繋いでテストはしていないのでは?と予想しています。
 まあ、ここまで駆動しにくいヘッドホンはそこまで多くないのですが、平面駆動型のヘッドホンの音量の取りにくさ(最近は改善傾向にありますが)を考えると、やはり最低でも2w程度の出力は確保しておきたいところです。
 出力が1w程度だと、上記のような音量の取りにくいと言われるヘッドホンは、基本的に適切な音量を取れなくなります。特にクラシックのように弱音と強音のレベル差大きい音源はかなり厳しいです。
 また、仮にある程度の音量が取れたとしてもボリュームをマックス付近まで上げないといけなくなり、それだと大抵の場合歪みが増える等の音質上の瑕疵が無視できなくなります。
 昔はインピーダンスが300Ω~600Ωある機種が駆動しにくい代表格だったのですが、それらの感度は実はそこまで低くなく、昨今の鳴らしにくいヘッドホンと比べるとまだ音量が取りやすい方です。
 代表的な例で言うとHD650、HD800(S)、T1初代等ですがいずれも能率は100dB/mW以上あり、これら辺りならばどれもアンプの出力が1W程度有るいならば概ね充分な音量は取れますし、だからこそその時代は1W以上の出力があれば高出力と言われていました。
 ですが昨今の状況を考えると、やはり最大出力1W程度では色々と足りない場面が増えています。


2.適切に駆動できるかどうか
 1の音量が取れるかどうかは割と分かりやすい話で、仕様の値だけを見てもある程度は判断可能です。
 ですが、単に音量を取れれば適切に駆動できている訳では無いというのが、非常に厄介な所です。
 因みに、「音量は取れるけど適切に駆動できていない」というのは割とふわっとした話に聞こえるかもしれませんが、実際に音を聴くと大抵の場合一発で分かります。
 明らかにそのヘッドホン本来の音とかけ離れていて、接続ミスや故障を疑うレベルで音が悪化する(と言うかそうなってしまう場合を適切に駆動できていないと定義している)ので。
 この辺りは人によって違う感覚の人もいるとは思いますが、相性レベルの差異であれば私は駆動できていないとまでは捉えていません。
 これについては体験したことが無い人もいると思いますが、駆動が難しい機種をポータブル系の高出力の機種で鳴らすと体験しやすいです。
 もちろんそれは本来の用途とは違うので、性能云々の話ではなくあくまでその場合は上記のような状況が発生しやすいというだけの話です。
 ポータブル系の機種は基本的にIEM等の非常に音量が取りやすい機種を繋ぐことが想定されていることが要因でしょう。
 但し、据置気に限って言えば、鳴らしにくい機種を適切に鳴らすこと自体がそのアンプの性能の一つとなります。
 基本的には出力が大きい機種程高い能力を持つ傾向にありますが、そうで無い場合も多々あり、結局は機種ごとに聴いてみないと分からないというのが実際の所です。
 また、出力を大きくしながら他の特性も高性能を維持するというのは基本的に相反する要素なので、大抵の場合それを実現している機種は高価になります。
 逆に言えば、高出力で諸特性も高いのにさほど高価でないという機種は、ちょっと気を付けた方が良いと私は考えています。
 他にはこれまでの経験上真空管の高出力の機種は駆動力自体も高い傾向にあるような気はするのですが、そもそも試行数が少なく、また結局アンプの設計次第な所もあるので、やはり一概には言えません。
 現行機種だと、DVAS model2やMSB Premier HPA(とDynamic HPA)辺りが最高峰と評価されていると思いますが、価格もとんでもないので誰にでも勧められるものではありません。他に定評のあるメーカーとしてはViolectricでしょうか。後は海外のレビューも参考にするとSPLも結構評価高いです。
 以前ならばAuralic Taurus MK2とかも中々良い高出力アンプで、価格も当時で23万円程度とまずまず現実的だったのですが、Auralicがヘッドホンアンプはもう更新していないので……

 

 現在私が認識しているHPAの駆動力に関してはこんな所です。今後変化があったらまた書いてみたいと思います。