様々な考え方があるけれど 前編

 私は折に触れ、競技スポーツで得た感覚をオーディオの方に応用している旨を書いていますが、この点についてもう少し掘り下げて書いてみます。
 まず、私は最初から両者を関連付けようとしていた訳ではありません。
 ただ、今後の方向性に迷ったり取捨選択を迫られた際に、どうしても分からない場合に「競技スポーツではこう考えるよね」と判断材料の一つにすることがありました。
 その後色々と経験を積み、様々な情報を調べ、多くの方の発信されている情報に触れるにつれ、根幹の考え方は大筋において違いはないと判断するようになりました。
 その中でも、特に大事にしている考え方をいくつか挙げます。

1.知らない物は認識できない
 例えば、陸上競技の短距離の上級者が、実際に100mを走るとします。
 その光景は、どんな人間が見たとしても、物理的に映像が変わる訳ではありません(厳密に言えば全く同一ではない可能性が高いですが)。
 ですが、身体の仕組みや走る技術について充分な知識がある人と全くの素人では、全く同じ映像を見ているにもかかわらず、得られる情報量には天と地の差があります。
 これと同様の事がオーディオでもあると考えています。
 オーディオでステップアップする際の考え方として、「自分のシステムに不満を覚えたら」と言われる事があります。
 けれど、そもそも自分のシステムより質の高い音を経験し、認知できるようになっていなければ、自分のシステムの欠点に気付くこと自体が困難です。
 こういった際に競技スポーツでよく用いられる方法は、上位の競技者の真似をすることです。
 勿論只の真似に終わるだけでは駄目で、真似した結果起こった変化から重要な要素を抜き出し、更に自分に合わせて最適化する必要があります。
 同様の行為はオーディオにおいても有効であると思いますが、それよりも自分以外のシステム(上位レベルにあると思われる物ならなお良い)を聴く経験を重ねることが重要かなと考えています。
 スポーツにおいては自分以外の体を借りるなんてことは出来ませんが、オーディオにおいては他のシステムを試聴することがある程度容易に可能です。
 であれば、自分に無い感覚を養う手段として、自分以外のシステムの音を経験することは、非常に有意義だろうと思っています。

 

2.良い技術とそうでない技術の判断基準
 世の中には様々な技術があり、多くの場合直接比較が難しかったりします。
 そういった中で、良い技術とは一体何なのか?という事は、スポーツの世界でもよく議論になります。
 これについてはいくつかの視点があるのですが、私が最も大切にしているのは「より普遍的な技術を良い技術と考える事」です。
 例えばある技術があったとして、それが初心者からプロの世界の競技者まで、全ての人に有効な技術があれば、それは良い技術であり大切な技術であると考えるという事です。
 逆に、一定以上の身体レベルが求められたり、状況が限定されるような技術は、普遍性の欠ける技術であると判断されます。
 勿論そういった技術で必要な物も多くあり、それら全てが悪い技術という訳ではありませんが、普遍性のある技術程には重要度が高くなることは少ないです。
 オーディオについてもそれは同じだと思っていて、様々な情報を調べたり取り入れたりと言った祭の、重要な判断基準となっています。
 また、機器の性能を判断する上でも、やはりこの考え方は大事だと思っています。
 特に理想的だと思うのは、ある程度の普遍性・汎用性を持ちながら、条件を整えると更に良さを発揮するような機種ですね。
 勿論、世の中完璧な物など存在しないので、完全な普遍性を持つ、言い換えればある一つが全てにおいて最適解になるなど実質的には不可能です。
 大は小を兼ねない場合も多く、また逆も然りで、様々な限界が存在する以上ある程度領域を区切り、使い分けをすることでより良い結果を得るというのが最適解になる事が殆どでしょう。
 ですがそういった制約があったとしても、普遍性とは逆行する方向製の物は、基本的に避けた方が良いと考えています。

 

 今回はここまで。書いてみて思ったよりも長くなったので、記事を二つに分けます。