Focal Utopiaレビュー

 新たな職場の繁忙期だったために時間が空きましたが、ぼちぼち更新を再開していきたいと思います。今回はFocalの開放型・ダイナミック型ヘッドホンである、Utopiaのレビューです。
 ダイナミック型においては殆どの人が最高峰である事に同意すると思いますし、あらゆる方式を含めた上でも間違いなく最上位クラスに位置するヘッドホンだと思います。
これについて今回はレビューしていきたいと思います。

 

【特記事項】
 このヘッドホンは、多くの平面駆動型のように大きな駆動力が必要なヘッドホンと言うわけでは有りませんが、一方で上流を含めたシステム全体の音に左右されやすい機種でもあります。
 言い換えれば、Utopiaから聞こえる音はトータルシステムとしての音が色濃く反映される、と言ってもいいかもしれません。
 また、駆動力だけでは駄目で制動力も必要とする面もあるように思いますので、ヘッドホンアンプ自体にも総合力が求められると言えそうです。
 
 こういった特性を持っている為、本レビューはUtopia固有の音と言うよりかは、Utopiaはこういう風にも鳴らすことが出来る、と捉えてもらった方が良い気がしています。しかしその中でもやはりいくつかの特徴は見て取れますので、参考にしていただければ幸いです。
 今回は、PC>Prism Sound Lyra2(DDCとして)>Lavry DA-N5> XI Audio Formula Sで鳴らしています。

【帯域バランス】
 帯域バランスはフラットです。鳴らし始めは高域にやや癖のようなものが感じられましたが、エージングでほぼ解消されました。
 低域への伸び、高域への伸びはいずれとも現在あるヘッドホンの中で最高レベルだと言っていいでしょう。
 また、単に伸びるだけではなくそこに無理を全くと言っていいほど感じず、常に余裕を失いません。

【音場】
 音場は非常に広いですが、HE-1000 seやVOCE等の広大なヘッドホンと比べるとやや分が悪いです。ですが、左右への広がり、立体感、奥行き等全ての要素で非常に高水準で、バランスよくまとまっています。
 定位の明確さは素晴らしく良いです。私が聞いてきた中でベストの1つです。

【分解能】
 音の分離に関しては、私が聞いてきた中で最も高いレベルにあります。
 情報量も非常に多く、一音一音の掘り下げに関しても非常に高いレベルでこなします。
 音の輪郭の描き方についてはダイナミック型の中ではあまり強くない方だと思いますが、静電型と比較すると流石にある程度はっきりと描く方だと感じます。ですがこの特徴は長所ともなり得るので、一長一短でしょう。
 総じて、分解能については最高峰の一つと言ってよいと思います。

【音色の描写】
 音色の描写に関しても非常に高いレベルにあると思います。但し、何か特定の楽器が得意と言う事ではなく、満遍なく高水準である印象です。
 ですので、特定のジャンルあるいは楽器が得意なヘッドホンには一歩譲る事もあるでしょうが、総合的な性能で見てUtopiaを上回る事は非常に難しいでしょう。

【まとめ】
 あらゆる要素が非常に高水準にまとまっていて、平均以上の録音がされている音源なら、何を持ってきても90点以上の結果を返す、というのが私の印象です。
 ですので、何か得意なジャンルというのは無くオールラウンダーだと思っているのですが、あえて言うなら逆説的に「楽曲内で多様な能力を求められる曲」が得意となるでしょう。
 また、要素として同時に成立させにくい要素を成立させる能力が高いとも考えています。私の手持ちの音源からこれが必要な例を挙げると、ヨルシカの楽曲がそれに当てはまります。
 ヨルシカの楽曲はサウンドとしてはキレの良さや力強さを求められる事が多い一方で、ボーカルの声質としてはキレや力強さと言うよりは艶っぽさ、適度なやわらかさ、透明感を求められると思っています。
 ですがこれらを両立させるのは意外と簡単ではなく、それはハイエンド帯のヘッドホンですら同じです。
 所有機種だと例えばVOCEならボーカルの質は文句なしですがそれ以外のサウンドと相性が悪くアンバランスな感が否めませんし、HE-1000 seではバランスはよくなりますがバックサウンドのキレがやや足りません。
 Throrはキレの良さは良いのですが、ボーカルの表現もそちらに引っ張られてしまいます。
 ですが、Utopiaだとバックサウンドのキレや力強さをしっかりと表現しながら、ボーカルも非常に魅力的に表現してくれます。
 おそらくUtopiaがそのような表現が上手くできるのは、固有の色を極力排除し、音源に可能な限り忠実に再現しようとするからだと考えています。因みにこの音源に忠実というのは原音という事ではなく、制作者が意図した音という意味です。
 もちろんこのような表現は、音源がそのように録音・ミックス・マスタリングされている事が前提ではありますが。

 一方で、良くも悪くも音源をそのまま鳴らしてしまうので、録音状態が悪い物には全く容赦がありません。
 一例を挙げると、低音の処理が悪くブーミーな録音なら、そのままブーミーな低音を鳴らす、という具合です。
 その為に、試聴時などは予め多種の音源、しかもどのような音を鳴らすのかをしっかり把握しているものを用意しないと、音質について見誤る可能性が高くなると思います。
 また、先述の通り鳴らすシステム自体でもかなり音が変わりそうですので、そういった意味でも試聴が難しいヘッドホンだと言えるかもしれません。

 こういった面は有りますが、やはりその基礎性能の高さは素晴らしく、総合的な性能で見れば間違いなく最高峰の一つでしょう。
 現在私は未知の音源を聞くときはまずはUtopiaで鳴らし、その後にどのヘッドホンで鳴らせば良いかを決める、というスタイルになっています。
 もっとも、結局Utopiaが最適解になることが非常に多いので、判断後の使用率においても現在最も出番が多いヘッドホンとなっています。
 非常に高価な機種ではありますが、その価格に恥じない堂々としたフラッグシップであると言えるでしょう。