先日紹介したRiviera Labsの技術解説が、非常に興味深い内容だったので紹介します。
内容としては、ネガティブフィードバック(以下NFB)を避けること、製品の特性値をひたすらに追い求めることの害についてが主な内容です。
これらの主張に関しては珍しいものではなく、NonNFBに拘ったり、特性値の良さが音の良さと比例しないということは、様々な場所で主張されています。
しかしながら、では何故そうなるのか?という点に関しては聴覚上の点からしか説明されないことが殆どで、納得性のある論理的な主張というと、私はお目にかかったことがありません(だからこそ方々で議論になるとも言えるのかもしれません)。
ですが、Riviera Labsの説明は、今のところ最も説得力があり、また今まで経験上知られていながら、うまく説明できなかった事柄に対して、合理的な説明がつくように思うのです。
以下に、Riviera Labsの公式ページにある技術解説を、翻訳・要約したものを記載します。
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オーディオ界において、測定値の良さが必ずしも音質的な良さにつながらないことは、一般的な合意があるように思う。
にもかかわらず、今も多くのオーディオ製品は、測定値を計測器の限界に近づけるような完璧なベンチテストが必要であると考えているように見える。
私たちは、測定器のためでなく、人間の耳のために理想的な増幅器を作らなければならない。
その為に、25年間にわたる個人的な研究と、80年以上にわたる数百ページの文献を突き合わせ、検証を行った。
重要なことは以下の二点である。
1)人間の聴覚システムの機能のいくつかの側面を理解すること。
2)電子測定システム用ではなく、人間の耳用に再生信号の特性を定義すること。
私たちが純音を聴くと、耳の中(特に内耳の蝸牛内)で倍音が生成されることが知られている。
これは新しい発見ではなく既に1920年代に、フレッチャー・マンソン曲線で有名なフレッチャーにより報告されている。
その後に1947年のHFオルソンによって発表された論文や、その他多数の研究により更に正確な報告が行われている。
人の耳において、第二高調波は90dBの圧力レベルにおいて約10%にも達する。また、より高次の高調波においては、高調波の次数が増えるにつれて減少する。
このスペクトルは圧力変化に応じて変化するが、そこまで考慮するとあまりに複雑になりすぎてしまう。
重要なのは以下の二点である。
1) そもそも人間の耳自体が高レベルの高調波歪みを生成する。
2) 耳と脳のシステムがこれらの高調波をキャンセルし、完全に純粋な音として知覚される。
また、非常に興味深いことに、高調波歪みの形状が同じであれば、それが内部・外部起因のものに関わらず高調波キャンセルの仕組みは作動する。
つまり、脳と耳のシステムは、耳の中で生じた高調波歪みと、音楽信号に含まれている高調波歪みを(その形状が同じなら)区別することはできない。
しかしながら、もし高調波歪みが人の耳で生成される歪みと違う形状であった場合は、高調波歪みをキャンセルできず異なるトーンとして識別する。
このメカニズムは、音の圧力レベルが大きくなるほど、生成される(そして受け入れる)高調波歪みも大きくなる。
その為に、人は出力レベルに応じてが歪みが単調増加するアンプを好む。
圧力が高くなるほど耳が生成する高調波の次数も高くなる。これは、より高いレベルの音圧では、より高次の歪みを受け入れることを示している。
人が聴覚により検出可能な歪みは、以下の二点に依存する。
1) 信号のピーク値と平均値の比。
2) 各信号ピークの持続時間。研究によれば、歪みは非常に高い値に達しても、ピークの長さが非常に短い場合には、依然として聞き取れないことが証明されてる。
NFBはTHDを軽減し、回路特性を改善する古典的な手段だが、残念ながら低次の高調波(人の耳により優しいノイズ)により強く作用する。
また、NFBの効果を高めるほど、高次高調波(人の耳が不協和音として認識する有害な高調波)の生成器、及び乗算機として機能してしまう。
これらの高次高調波が可聴レベルを下回っていても、人間の耳には絶対に望ましくない「ノイズフロア」を生成する。
より強いNFBをかければ高次高調波はむしろ増加し、更にスペクトルの形状が人の耳の歪みスペクトルから離れてしまうどころか、望ましくないノイズフロアを形成する。
これらの事は、NFB(特に全体的なNFB)を避けるか、必要最小限にするべきである事を示唆している。
以上の理論をベースに、私たちは「人間の耳」に理想的なアンプの特性を定義した。
それは、以下のようなものである。
1.振幅と周波数の歪みの最適化: THDは極端に低い必要はないが、人間の耳の歪み形状に完全に従う必要がある(第二高調波歪みが最も大きく、高次になるにつれ漸減していく形状)。
2.歪みレベルは電力レベルの増大とともに単調増加する必要がある。
3.アンプはソフトクリッピングを備えている必要があり、可能であれば、この領域でも歪みスペクトルが耳のスペクトルと似ている必要がある(もしくはスペクトル形状が失われない範囲でもっとも強くクリッピングする)。
4.優れたOpen loop BW(恐らくBandwidth)
5.NFBが与える影響を最小限に抑えるために、全体NFBをゼロに、局所的なNFBも最小限に抑えるよう設計する。
6.数値競争はやめ、合理的な値として15~20程度のダンピングファクタ(優秀な真空管アンプと同等)を確保する。これは、低音域において明瞭さと豊かな倍音を得られる。
7.あらゆる負荷に対する完全な安定性。
8.サウンドやダイナミクスに与える悪影響を無くすために、保護回路を排除する
9.電源に最大限の注意を払って設計する。
これらの要素を実装するために以下の手段を取った。
・全体NFBをゼロにし、局所的なNFBを最小限に抑えることが、望ましい歪み形状を得るための出発点
・全てのステージでクラスAアンプとし、小細工なしに最大限の直線性を得る。
・三極真空管は最良の電圧アンプであり、その殆どはシングルエンドで使われている。この構成で、必要な歪み形状に近い「自然な」歪み形状を得られる(人の耳の歪み特性に近似している)。
一方で半導体は(特にmosfet)電力のコントロールと低インピーダンスという点で優れており、適切に設計すれば良好な歪み形状も得られる。
これら両方の特性を利用するために、必然として真空管と半導体のハイブリッドの構成となった。また、採用した回路構成ならば、必要な出力インピーダンスを得ることもできる。
・実験を重ねた結果、保護回路が音を汚すと確認されたので、保護回路はなし(PSUのヒューズのみ)。
このことから、意味のない外観のため(例えばコーラのように巨大なコンデンサ)ではなく設計上の必然として大きな筐体となった。副次的な結果として、適切な機械的寸法を設定することにもなった。
・正確なPSUの設計
・大きくて遅いコンデンサを少数使うのではなく、小さくて速いコンデンサを多く使い、かつ最後のコンデンサは各パワーデバイスの直近に配置。
・長い時間をかけて、計器による測定と実際の音楽リスニングを相互に繰り返し、最適化を行った。
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以上ですが、いかがでしょうか。
全てを鵜呑みにする訳では無い物の、かなり説得力のある内容なのではないかと感じました。
また、以下の様な事象にも上手く説明が尽きます。
・半導体より明らかに特性では劣るはずの真空管アンプが、ハイエンドの領域においてですら未だなお根強く支持されている理由
・歪み関連の特性が悪くても良い機材があったり、あるいはその逆の機材がある理由
・NFBをなるべく使用せずに設計する機器、あるいはメーカーが未だに多く存在する理由
私としては、これまでの考え方をかなり見直すきっかけになりそうな気がしています。
今後、自分としても色々と検証していきたい内容で、非常に有意義な情報だったと感じています。