真空管の音質に対する先入観がかなり根強くあると感じていて、特に「暖かみがある」と「柔らかい」は本当にそう思っている人が多いなと感じます。
私は調べた情報、試聴経験、所有した機種などからこれらはアンプの設計次第と感じていますし、真空管を用いるメーカーの技術者も上記のような特質は否定している方も多いです。
特にスタジオ系の機材では未だに真空管が大いに用いられていますが、あるハイエンドアウトボードメーカーの技術者は「真空管の本来の音はクリーンでハイファイな音だ」とインタビューで答えてました。
また、別のメーカーの方は、「真空管の音が柔らかいとか暖かみがあると言う人は、劣化した真空管の音を聞いたのでしょう」と話していました。
私自身が所有しているAudioValve Solarisという真空管のヘッドホンアンプも、暖かみや柔らかさとはかなり異なる音質で、基本的にニュートラルで、若干の力強さが付加される。基礎性能が非常に高く、正しくハイファイという言葉が当てはまる音質です。
もっとも、真空管アンプは半導体アンプと比べてダンピングファクタを高くするのが難しいようなので、設計がまずいと低域が膨らみがちになるという事はあるようです。
また、真空管アンプは特にシングルエンドで使用した時にはTHDは決して良くありませんし、そうでなくとも半導体アンプと比較すると一桁や二桁高い値を示すこともザラです。
しかし、そういったアンプにおいても、実際に使用するとノイジーどころか非常にクリーンに感じる事がままあります。
例えばCayin HA300のTHD+Nは1%もありますが、あれを聞いてノイジーと感じる方はまずいないと思いますし、むしろとてもクリーンだと感じる人が多いと思います。
この点については以前書いたRiviera Labsの技術解説より、
高調波歪みについて、二次高調波が最も高く高次になるにつれ漸減していく形状ならば、人の聴覚システムがキャンセルすることが出来る。
そして、真空管の高調波歪みは(特にシングルエンド使用時は)そのような歪み形状になりやすいので、人の聴覚システムによるキャンセルを大いに利用できる。
という主張が、とても上手く説明しているように思います。
特に最近Riviera Labsの技術解説を見つけた事が大きいのですが、以前よりも真空管アンプを再評価すべきではないか、と考えるようになっています。
確かに数字によるスペック上では、THDもダンピングファクタも出力の大きさも、半導体アンプの方が圧倒的に優位です。
けれど、そもそも人の聴覚システムは、特に蝸牛内で10%もの高調波歪みを発生させるような仕組み(音が90デシベル時)であり、機械のようにそのまま受けとる事が出来るようにはなっていません。
ならば、計測上の数値よりも、人の特性にマッチすることを追及するという方向性も、極めて大切なのではないかと今は考えています。