MSB Premier Headphone Amplifereの選定理由

 さて、以前にもMSBのヘッドホンアンプは欲しいと書きましたし、実際に先日Premierの方を購入したわけですが、その選定理由について今回は書きたいと思います。
 前回の記事は購入時期(なぜ今か)に関しての経緯でしたが、今回は何故Premier HPAを選んだかの理由です。

 

1.望む仕様に寸分違わない作りだった
 私はヘッドホンとスピーカーの環境を共存させたいと考えて来ました。そう考えたときにいくつか方法はあると思うのですが、私はプリアンプによってシステム全体をコントロールしたいと考えました。
 その為、ヘッドホンアンプに対して以下のような機能を求めました。

・ボリュームのない、スピーカーにおけるパワーアンプのような構成
・入力をそのままパススルー出来る機能(こちらは無くてもそこまで問題ではない)


 この考えは、MSBがヘッドホンアンプ界に参入する前から持っていましたが、それを満たす機種というものはありませんでした。
 厳密に言うとポータブル機でパワーアンプ的な作りでモノ×2という機種はあったのですが、据え置きで使う気になるようなものではなかったので、興味はあったもののスルーしました。
 ヘッドホンオーディオの成り立ちの由来からか、スピーカー環境と共存させることを考えた機種自体がそもそも殆ど無かったように思います。あくまでヘッドホンオーディオはそれ自体で完結している構成が殆どだったわけですね。

 まあ、やや冗長な感は否めないもののプリアンプから従来型のヘッドホンアンプに繋げない訳ではありませんし、セレクターを使えば何とでもなります。
 けれど、私の中ではそれは共存というイメージではなく、どちらかといえば対立して存在しているように感じてしまうのです。
 その特性の近さからか、ヘッドホンアンプとプリアンプ機能を併せ持った機種というものもありますし、むしろ両立させるならそっちの方が良いじゃないか、と考える人もいるかもしれません。
 しかしここで問題となるのが製品そのもののクオリティです。そういったマルチ使いできる機種は、HPAかプリアンプか、あるいはその両方のクオリティが高く保たれていると判断できる機種が非常に少ないです。
 現状だとNiimbus US5 pro位で、これが恐らく最高峰でしょうか(Boulderからも出るっぽいですが)。
 情報を集める限りViolectricの製品の音は全体的に好みの可能性が高いのですが、何故か全く食指が動かず購入対象になりませんでした。
 そもそも試聴したこと自体がありませんし、ただの食わず嫌いじゃないかと言われれば全くその通りなのですが、自分のこの感覚に逆らったときは後悔したことしかないんですよ(そもそもそんなこと自体滅多にないが)。
 しかも、それがどれだけ世間的には高く評価されていようとです。ですので、この感覚がある時は基本逆らわないようにしています。
 多分それは製品の性能という観点ではなく、無意識の領域で何らかの理由により好みでないと判断しているのでしょう。


 しかし、他に高いクオリティを持っていると判断できるものは非常に限られます。そんな訳で、やはりヘッドホンアンプとプリアンプは一体になった物を検討せず、プリアンプは単独で高品質のものを入れたいと考えました。
 そうなると、スピーカー側はもちろん、ヘッドホンアンプ側もやはりパワーアンプ的な構造であることがベストと考え直しました。また、ヘッドホンアンプを使い分けること等を考えたとき、入力のパススルー機能があれば文句なしだなあと。
 そんな事をつらつらと考えてはいたものの、この発想自体が決して多数派ではないことも理解していたので、「そんなに自分に都合の良い機種なんて何処も作らんわなあ」とか思ってたら、まさかのMSBが望み通りの機種を発表したのです。
 もっとも、流石にReferenceの200万円オーバーという価格は非常に厳しく、価値観的にもそこまでは……と思うレベルでしたし、中古品を狙うにしても明らかに出回る可能性が低いですし、争奪戦に勝てるかも微妙です。
 何より、MSBのリセールバリューを考えれば、中古でも200万円近い価格であることが予想され、やはり購入は厳しいだろうと判断せざるを得ませんでした。


2.DA-N5の購入がより状況を困難に
 それでもここまでならばまだ選択肢は残されていたと思うのですが、DACのDA-N5を導入したことが更に状況を困難にしました。
 DA-N5の良さを生かすことを考えたとき、下手なプリアンプを挟むとその良さの多くが削がれてしまうのです。少なくとも、Grace Design m904のプリ機能のレベルではついていくことが出来ず、DACの特性がかなりスポイルされてしまいました。この辺りは、Chord Indigoの購入記でも書いた通りです。
 そう考えると、プリアンプとヘッドホンアンプの一体型の候補は実質的に無いも等しい、かといってReferenceを買うという選択肢も明らかに無理をし過ぎ。
 これはもうしょうがないかなあとセレクターで高品質のものを導入したりもしたのですが、ケーブルの必要数が増えたり、微妙にシステムが煩雑になったりとあまりこれという感覚が得られませんでした。
 Chord Indigoを購入してひとまず一定のクオリティのプリアンプは確保したので、その先にスピーカー用のパワーアンプと通常のヘッドホンアンプを繋ぐことで一応ある程度形にはなっていましたが、何となくもやもやが残る。
 で、どうするかなあと考え続ける訳です。

3.Premier Headphone Ampliferの登場と状況の変化が決定打
 そこに、MSBからReferenceの下位グレードであるPremier Headphone Amplifereが発表され、思想はReferenceとほぼ同じで全く望み通りの仕様でしたし、価格も厳しくはあるもののギリギリ許容範囲でした。
 情報を集める限りReferencceとのクオリティの差も絶大という感じではなさそうでしたし、MSBが出す以上半端なただの廉価版は作らないだろうという信頼もあります。
 何より、そういった様々な理屈を抜きにして、純粋に「これが欲しい!」という気分にさせてくれた製品でした。
 こういった巡り合いは中々あるものではない為に、何れは手に入れたいと考えていました。
 しかし、そんな中値上げの告知があり、価格改定後の値段はかなり厳しい額でした。多分それでも購入に動いたとは思いますが、結構無理をすることになったでしょう。
 また、ひとつ前の記事でも書いた通り、待つことは状況を悪化させるだけだとも判断したために、それならば今のうちにと購入に至りました。

 以上が私がPremier Headphone Ampliferを選定・購入した理由です。
 なお、製品写真を見る限りシルバーの方がしっくりくる感じがしたので、こちらを選択しました。
 基本的に筐体色はブラックの方が好みな事が多いんですが、明らかにシルバーの方が似合っているデザインがあると思うのですよね。
 実際Premier HPAはそう感じたのでシルバーを選びましたし、後はCHORDの製品群等もシルバーが似合っていると感じます。まあ、実物を見るとまた違った感想を持つかもしれませんし、そもそもあくまで私の個人的な意見ですけどね。

 UtopiaとTHRORのケーブルの端子は3ピンXLR×2で作成しているために、3ピンXLR×2>4ピンXLRのアダプタを作らなければならないので、今のところ4ピンXLRが付属ケーブルであるHE-1000 seで聴いています。なお、アダプタの素材は全て手持ちにあるので、なるべく早めに作る予定です。

 HE-1000 seでの第一印象は、「意外と普通、か?」でした。まあ、すぐに覆りましたが。こんな普通があってたまるか、と。
 現在訳が分からなさ過ぎて頭抱えてます。
 出てくる音そのものはある程度理解できるし説明も出来そうなんですが、何でそんな事が可能なのかが分からない、という感じでしょうか。
 再生環境ですが、DACはDA-N5でオヤイデのケーブルとSonarquestのプラグによる自作XLRケーブルでIndigoへ、そこからはDH Labs RevelationでPremierへ接続。Premierの電源ケーブルはNEOTECHのNEP-3200とSonarquestのカーボングレードプラグです。
 しかし、ラックはそれなりにしっかりしたものとは言えDIYで作ったものにそのまま置いてますし、ケーブル類も流石に廉価帯ではありませんがハイエンドどころか下手するとミドルクラスともいえないレベルですし、殆ど調整らしい調整をせずエージングも全く進んでいない状態でこの音は……


 因みに、情報を集めている際に付属の電源ケーブルの性能がかなり良いらしい、というのを見つけて確かめてみたのですが、私の環境では明らかに自作ケーブルの方が良かったです。
 情報量に差があることもそうなんですが、付属ケーブルだと自作ケーブルに比べて音がややかすれる感じになり刺々しくなるのが気になりました。
 NEP-3200とSonarquestカーボンプラグの組み合わせは、Argento Audio Flowとの比較で信頼してはいたのですが、やはり結構高いレベルにあるみたいです。


 まだまだ音の全容を掴めたとはとても言えませんが、現時点で判明していることは、基礎性能が異常に高い、音のリアリティが異次元(特にアコースティック音源)、その癖にそれを誇示せずあまりに自然に鳴らすので一瞬普通の音に聞こえる、という感じでしょうか。
 少なくともこれに類似する音を私は聴いたことがありませんし、今まで経験した音との断絶も大きすぎます。
 これまでの半導体アンプのメインだったXI AudioのFormula Sは世代的にはもう最新とは言えないでしょうし、グレード的にもハイエンドの一歩手前といった所ではあったでしょうが、それでもこの差はちょっと信じられないレベルです。
 しかも、ヘッドホンがUtopiaでこれならまだわかるんですが、HE-1000 seでこれというのがまた信じられません。
 もちろんHE-1000 se自体のレベルは決して低いわけではないものの、こういう傾向の音ではないと認識していたもので……

 あと、ウェブ上でReference HPAの音の特徴として広大な音場を挙げる意見を複数見ました。Premierも基本的には同系統の音だと思いますので似たような特性と考えると、その受け止め方は気を付けた方がよさそうだな、というのが実感です。
 確かに音場は物凄く広いしここまで空間をしっかり描写出来るHPAは初めて聴いたんですが、その広さを感じ取るためには音源がそのような録音あるいはミックスがされていることが条件です。
 何でもかんでも広く描写するわけではありませんし、近い音はちゃんと近い位置で再現しますので、聴く音源によっては「あれ?」となる事もあると思います。
 言い換えれば録音されている各種楽器やボーカル等が全ての音源で広々と配置される訳ではなく、あくまで製作者が意図した通りに配置しながら、その音が広がっていく空間が非常に広い(というか際限を感じさせない)という感じでしょうか。
 もちろん遠くに配置された音は遠くで鳴るので、音源によっては音との距離という直接的な広さに驚くこともありますが。
 そもそもHPAにおいて、まず先に空間がありそこに音が配置される、という描写を出来る機種自体がかなり上のクラスにならないと出てこないと思うんですが、そういった描写の極致にある機種だと思います。多分、Referenceは更に上を行くのでしょうけど。

 現状ではこんな感じでしょうか。
 ただまだまだその特徴を掴み切れたとはとても言えませんので、暫くは色々と検証の日々ですね。
 訳が分からなくて頭を抱えているのはそうなんですが、同時にこれほどワクワクする気分になるのも久し振りなので、存分に聴き倒して行きたいと思ってます。