TH900はかなり気難しい ~前編~

私が10万円越えの密閉型ヘッドホンで最初に購入したのがTH900でした。かれこれ5年くらい使っています。

これを使う間にHPAはCEC HD53N→Grace Design m904→Auralic Taurus mk2 →マス工房 model370CP→model370CPとAudiovalve Solarisを併用と変遷しています。

私がこのヘッドホンを買う前に情報を調べたとき、鳴らしにくいという評価は全く見かけませんでした。現在も一般的にはほとんど見ることがありません。ですが、私にとってはとても不思議なヘッドホンであり、また扱いにくいヘッドホンでした。

 

私がこれまで所有してきたヘッドホンは、HifimanのHE-6(異常に駆動しにくいモデル)だけを例外として、基本的にHPAのクオリティが上がればヘッドホンが表現できる音質も上がってきました。HE-6が例外というのは異常に駆動しにくいモデルだからで、相当の出力(概ね4w程度)が無ければ、音質云々以前に音量が取れないからですが、本題ではないので今は置いておきます。

中にはHPAのクオリティが上がっても伸びしろを感じなくなっていくヘッドホンはありましたが、それでも下位のHPAより悪くなるという事は基本的にありません。

ですが、このTH900はその例外を行くヘッドホンだったのです。

 

HD53Nはちょっと基礎クオリティの面で他機種と違いすぎるので割愛しますが、m904で鳴らしたときは一般的に巷で見られるような評価とおおむね一致していました。

すなわち、若干ドンシャリ気味(低域より)、透明感のある音、密閉型にしては広い音場、一音一音のクオリティが高いといった具合です。若干ボーカルを含む中域がへこみがちではありますが、トータルで見れば非常に良い音を奏でるヘッドホンという印象を持ちました。

 

これが、Taurus mk2に変えたときに印象が変わります。なお、Taurus mk2は国内では殆ど評価を見ることはありませんが、海外では駆動力の高いHPAとして認識されており、そのクオリティも高く評価されている機種です。

どう変わったかというと、確かに一音一音のクオリティは上がっていますが、m904と比べてまとまりに欠いており、かなりじゃじゃ馬的な印象を持つようになりました。

 

そして、model370CPに変えたときに更に評価がガラッと変わります。なお、model370CPもかなり駆動力の高いHPAで、HE-6は流石に苦しいですがHE-1000(これも鳴らしにくいことで有名)ならば結構しっかりと駆動してくれます。また、HPAとしてのクオリティも非常に高く更に殆どと癖のないHPAであり、Taurus mk2やm904と比較しても好み云々以前に基礎クオリティでワンランク上と思えるHPAです。

しかしこれでTH900を鳴らすと、とにかくちょっとしたことですぐに音質が破綻してしまいます。高域は荒れ、低域は暴れ手が付けられません。HPAの音量をかなり絞ってようやく実用範囲で鳴らせますが、それでもロックなどの音圧の高いソースをかければ簡単に破綻しますし、下手をすればちょっと激しめのJ-POPとかでも破綻するのです。

m904で鳴らしていた時が一番バランスが良く、次にTaurus mk2、最後にmodel370CPとHPAをグレードアップするたびにどんどん音が変になっていく。それも、単純に悪化するというよりはどんどん暴走するようになっていく印象でした。

 

そういう音になってしまったこと、またmodel370CPと前後してHE-1000を購入したことなどもあり、使用頻度が激減しました。サブシステムで時々使うかな、といった程度です。こうして、しばらくの間TH900を使わない期間が続きました。

 

~後半へ続く~