TH900はかなり気難しい ~後編~

さて、そんなわけでTH900はあまり使用しなくなったのですが、あるブログを見てかなりびっくりしました。

曰く、しっかり駆動する力とコントロールする力を準備してやれば、素晴らしい音を奏でるようになるらしいのです。

しかし、その時点においてTH900を駆動するための環境整備ははっきり言って優先度としてはかなり低く、また他に検証したいテーマがあったことからも、そういう事があるなら折に触れTH900を自分の環境で鳴らせるかチェックしておこう程度にしか考えていませんでした。

しかし、その状況は思わぬところですぐに変化します。それは、AudiovalveのSolarisを購入したことでした。

 

Audiovalve Solarisの製品ページ

 

この製品を購入した動機などは後日また別記事で書こうと思っていますが、端的にいえば一度真空管アンプを本気で使用してその可能性などを探ってみたいと思ったことです。そのうえでこの製品を選んだ理由は、海外のハイエンド帯の真空管ヘッドホンアンプにおいてもっとも定評のあるアンプの一つであったこと、アンプについてのデータをかなり詳細に公開していたことなどが理由です。

出力は12wにも及び、ダンピングファクタ3600、駆動可能なヘッドホンのインピーダンスは3オームから14500Ω(書き間違いじゃないですよ)等、なかなかにぶっ飛んだ数字が並んでいます。勿論こういった数字に表せる性能だけが音質を決めるわけではないことは百も承知ですが、ここまで振り切った性能で更に多くの人に支持されているという事は、基礎性能自体が非常に優れている可能性が高いでしょう。

 

そして実際に使用してその期待は全く裏切られることはありませんでした。巷でいわれる「真空管らしい音」なんてものを鼻で笑い飛ばすかのように基礎クオリティの高い素晴らしい性能を披露するのです(これも後日レビューを掲載予定)。

そして、TH900をバランス接続で聴いたときに更に衝撃を受けました。あれだけ暴れや荒れが酷かったTH900が、殆どのソースで素晴らしい音を奏でるのです。特に低域は秀逸で、これまで私が評価できるレベルで聴き込んだヘッドホンでは最も高い質であると考えていたKennertonのThrorを凌駕しています。というわけで、手持ちのヘッドホンでは最も低域の表現に優れるヘッドホンとなりました。

一方で高域の荒れは収まり切ってはいませんが価格を考えれば十分許容範囲で、ロックなどでシンバルを連打しまくるようなソースでもなければ問題ありません(そんなソースをTH900で聴くなって話ですが)。

そして、低域の制動が効くようになり、高域の荒れが抑えられた効果の副産物として、中域のへこみが全く気にならなくなりました。むしろボーカルはある程度前に出てくれるようになった感覚すらあります。これは推測ですが、本来TH900の帯域バランスはフラットに近いのかもしれませんが、以前の環境だと低域が暴れて量感が増して聞こえる事、高域の荒れが悪目立ちする事が結果として中域がへこむように聞こえていたのではないのかな?と考えています。

 

勿論素晴らしいとは言っても、価格帯を超えてHE1000se等の40万円前後のクラスと張り合えるかと言われれば総合力では厳しいと言わざるを得ませんが、少なくともこの音であれば同価格帯ではベストバイの一つと言ってよいと思います。

因みに、自分の記憶が間違ってたかな?と思って再度model370CPで聴きなおしてみたのですが、うえってなって1分持たずに聴くのをやめました(笑)。

 

そんなわけで、TH900に感じていた不思議な感覚というか扱いにくさは、ようやくひとまずの決着を得ました。結論として、「そこそこの環境であればまあまあいい感じに鳴る、中途半端に駆動力だけを与えると低域のあばれと高域の荒れが酷くて聞けたもんじゃなくなり、これはとんでもなく制動力のあるアンプじゃないと制御は無理」という事です。ぶっちゃけ、model370CPでも制御できないとか、ちょっと何言ってんのって話でしょう。これを25オームというインピーダンスだけを見て、駆動しやすいヘッドホンだと思うとかなり痛い目を見ると思います。

 

今後はヘッドホンとヘッドホンアンプについてはひと段落したので、DACの改善に力を入れようと考えているのですが、その際に更にTH900が良くなるようであれば再度追記したいと思います。