今回は、東京二日目に少しだけ参加したヘッドホン祭miniと、最終日に訪れたAudio Unionさんで試聴したヘッドホン関連についてまとめます。
両日ともに時間的な余裕は然程無い中での試聴であったため、写真は撮っておりません。特にヘッドホン祭miniは元々別件の予定が入っていた日で、そちらで終日までかかる見込みの所が予定より早く終わり急遽無理して参加(何とか30分くらい)したので、色々とばたばたしてましたし準備も全くしてませんでした。
それでも聞きたいと思っていたもののいくつかは聴けたので、中々収穫は大きかったです。
また、Utopia SGはヘッドホン祭miniとAudio Unionの両方で試聴して、最初疑問に感じた事が後の試聴で判明したり、確定できない要素が確定出来た事もあったりするのですが、あくまでその時感じ記録した内容をそのまま記載しています。
ヘッドホン試聴@ヘッドホン祭mini
1.Fostexブース
TH1000RPとTH1100RPを試聴しました。先述の通りもともと参加する予定ではなかったので、N8 Brass Blackを持っておらずブース準備のDAPでの試聴です。
両者の大まかな傾向として、販売価格帯に求められる基礎性能はしっかりと抑え、穏やかで聴き疲れのしにくい音、ニュートラルというよりは自然といった風合いの音を目指しているのかなと感じました。ですが、忠実路線から外れるとまでは行かなくて、ある程度音源に追従してくれそうな実力はありそうです。
目を見張るような長所こそない物の非常にバランスが良く、ビルドクオリティも高めで、販売予定価格も考えればかなり上手くまとめられているという印象です。
DAP直での再生ということで、両者ともに適切に駆動できていたかは不明なのですが、今回の条件では明らかにTH1000RPの方がきっちり詰められている印象でした。
音の芯のクオリティ、微細領域の情報量、音色辺りは明らかに優位ですし、総合力で見ても同様の印象。TH1100RPの方は、TH1000RPに対して開放型のメリットがほとんど感じられず、むしろ情報の欠落を感じさせられ、音の乾きやかすれが気になる事も割とありました。
気になって後にホテルに帰って調べたところ、暫定とは言えTH1000RPの能率が100dB/mW、TH1100RPの方が96dB/mWと意外と差があるのと、絶妙に駆動力が問題になり始める境界付近という感じもするので、単純に駆動力不足でこうなった可能性はそこそこ高いと思います。
いずれにせよ、ハイエンド帯において軒並み値上がりが進む中、手薄になってしまった価格帯に良い選択肢が出てきたなという印象です。
私自身の意見としては、現状では音の絶対値で見ても密閉型のTH1000RPの方がお勧めと感じますが、先にも述べた通りちゃんとしたHPAで駆動すると印象が変わる可能性もあるので、ショップでの試聴も早く出来るようになるといいなと感じました。
とは言え、そこを考慮して例えTH1100RPの方が駆動力不足で上記の様な音であった(本来は同等以上の実力を持っている)としても、TH1000RPの方が6万円程安い上、TH1100RPよりもアンプを選ばないという事になるので、やはりTH1000RPの方がコストパフォーマンスが高くお勧めと感じますし、人気も出そうです。
2.オーディオみじんこブース
FocalのブースでUtopia SGが聴きたかったのですが既に先客がおり、残り時間の少なさから諦めて他のブースを回っていた時に発見。
molamola Tambaqui + Utopia SG + オーディオみじんこのNocturneケーブルという構成で、しかも試聴機も空いていたために飛びつきました。
実は何気にUtopia SGを聴くのは初だったりするのですが、Utopia初代と比較して大幅な進化はなさそうだと感じました。これで私のメインヘッドホンの更新については、次世代機を待つのが完全に確定しました。
試聴の再生環境はそこそこいかついシステムだと思うのですが、自宅のシステムで聴いたUtopia初代と比較し傾向としては穏やかな音に感じました。
その分初代にあった精緻な描写は減退していましたが、ブースの方の話からこれはNocturneでそうなる方向に敢えて振っているのだと思われます。
ですが、その差はさほど大きなものでなかったため、恐らく単体で見たときに差は殆どなさそうです。
音場の左右のつながりの悪さがあり、また音を分離させたは良いものの混ざらない空間情報との断絶も感じましたが、この辺りは初代でもデフォルトケーブルでは一緒なので、ケーブル周りやシステムトータルを更に詰めれば改善できるでしょう。
情報量もやや物足りない感はありますが、これもシステム全体を詰めれば十分に伸びていく部分だと思います。
少々気になったのは、明確にどのようなとは言いにくいのですが全体的に音色のずれを感じたこと。
これが自宅のシステムとどちらがニュートラルなのかというのはやや判断に迷いますが、他機種との比較やこれまでの経験も踏まえると、この日聴いたシステムの方に癖が乗っているのかなと思います。
もっとも、これがUtopia SGの傾向なのか、それともNocturneの傾向なのか、はたまたTambaquiの傾向なのかは不明。
個人的にはTambaquiの可能性が高くて、次点でケーブルかなとは思うのでうすが、何かと比較しながらの試聴ではなかったのでこれが限界でした。
ヘッドホン試聴@Audio Union
東京最終日に出発まである程度時間があったので、Audio Unionさんにお邪魔し試聴をさせてもらいました。貴重な機会をありがとうございました。
試聴をしたのはMSB Discrete DAC + Dynamic HPAが再生側、ヘッドホンの試聴はUtopia SGとHifiman SUSVARA初代です。
なお、Kennerton Throrを持ち込んで比較しながら聴けたので、かなり音の傾向はつかめました。
送り出しはN8 Brass Blackの同軸出力です。
あまり長い時間は取れなかったのでMSB両機の暖機が最後まで済んでなかった可能性は高いですが、その辺りは自宅のPremier HPAと同じ感じならばある程度補正して判断出来ていると思います。
1.Dynamic HPAについて
まずは一番気になっていた、Dynamic HPAとPremier HPAの差についてですが、これはやはり値段なりの差はあるなと感じました。
Premier比で空間が広く、また音場の周辺情報が豊富です。他にも基礎性能周りは概ねどの項目も更に高い性能を持っていると思います。
それだけではなく、再生したときの余裕や音の自然さにも磨きがかかっている印象で、性能を上げながらもその性能の高さをより気付かせないように振舞っていると感じました。
Premier HPAも一般的なHPAから見れば充分黒子的だと言えるタイプなのですが、Dynamic HPAと比較するとまだ自分の存在を消し切れていないなと思います。
一部の微細領域の情報があと一歩見えない感がありましたが、これは恐らくDynamic HPAではなくDAC起因かなと。流石にPremier HPAで見えていたものがDynamic HPAで見えなくなるのはおかしいので。
自宅のシステム比で若干音色の多彩さが落ちる感じがありましたが、これはDACのデジタルボリュームに頼らず、間に高品質のプリを挟めば解決しそうです。
もしくは、DACの暖気が完全に済めば解消されるのかもしれませんが、今回の試聴だけでは判断不能でした。
トータルでの感想としては、確かに値段なりの差はあるし、DynamicかPremierかを迷っている人にとっては十分Dynamicまで行く価値はあると思いますが、PremierからDynamicにステップアップするのは少々辛いかなという感じでしょうか。
もちろん同系統の音で更に上を目指したければ現状そこに行くしかない訳ですが、個人的にはもし仮に検討するならば次世代機が出てくるまで待ちたいというのが正直なところです。
2.Utopia SGについて
先日のヘッドホン祭の試聴では音色のずれが感じられ、心配しながら試聴に入ったのですが杞憂でした。
明らかにいつも聴きなれているUtopia初代の音と極めて似ており、やはり音色のずれはTambaquiかNocturneのどちらか(あるいは両者の)色付けだったようです。
ただ細かい部分を見ればやはり初代とSGの違いはあって、一番の違いはデフォルトのケーブルでも音と空間の断絶感や左右の音場のつながりの悪さがほぼ解消されている事。
この項目ついては最近ケーブル周りを詰めている中で認識できるようになった項目なのですが、これが最初からほぼ解消されているのは中々凄いなと感じました。
こちらも先日のヘッドホン祭では普通に両方の断絶があると感じたので、やはりデフォルトのケーブルがかなり頑張っているのでしょう。
それと同時に、Utopia SGは下手にケーブル交換をすると失うものも結構大きくなる可能性があるので、変える際は要注意だと思いました。
もっともこれは単にUtopia SGの付属ケーブルの力だけではなく、Dynamic HPAの力も結構大きかったでしょうが。
しかしながら精緻な描写は若干物足りない感じがあったので、ここを詰めたければケーブルは最終的に変更する必要がある気はします。
他には、初代比で高域はやや抑えられているかなと思います。個人的には初代にそこまで高域の癖や強調があるとは思わない(他のヘッドホンと比較しても)のですが、やはりそういった声が多かったのでしょうか。
とは言え、ものすごく抑えられているかというとそこまででもなく、システムの中で十分調整可能な範囲だとは思います。
3.SUSVARAについて
これを一度聞いたときはまだまだハイエンド帯の経験が少なく、認知出来る範囲も狭かった頃なので、もう一度確認したいと思い聴きました。
Unveiledが発売されすでに旧世代となったわけですが、それでも基礎性能の高さは感じられます。
気になったのは音の流れに常にためがあるような遅さを感じることと、大きなダイナミクスの変化への追従性の悪さでしょうか。
繊細な音も出せるし、音場の広さや情報量も確かなのですが、その二点がかなり惜しい感じがしました。
せめて音の遅さが無ければ軽やかで繊細な音としてそれはそれで魅力だったと思います(現状だと軽やかさが足りない)。
とここまで聴いて、そうかだからRivielaのHPAとの相性が注目されたのだなと思いました。
私自身はRivielaのHPAを聴いたことがある訳ではありませんが、その音のレビューを見る限り確かにSUSVARAの弱点を補完するという意味でうってつけかもです。特にダイナミクス関連については、先日TIASで聴いたRviela入りのシステムの傾向を聴いた限りでは、かなりの改善が期待できそうです。
4.Discrete DACについて
今回システムでの試聴ということで必然的にDiscrete DACも聴くことになった訳ですが、当初のイメージとはやや違った音でした。
当初の印象(Discrete DACへのというよりはMSBのDACに対しての印象)はニュートラルかつ自然な音、素通し感のある音、音のリアリティ追求型というもの。
ですが、今回聴いた限りでは素の音をそのまま出すというよりも、少しではありますが明らかに化粧を施すように感じました。
自然な音を目指しながらも、特に高域周りで痛い音を出さないようにする作為を感じます。
その作為自体は意図的で敢えての音作りであったとしても、若干さりげなさが足りない感じがあって、気になる人もいるのではと思いました。
但し、この「さりげなく意図的に痛い音を出さないようする音作り」については、前日のTIASで聴いたMarten Mingus Septetのシステムの印象が残っていた可能性があり、ちょっと辛めの判定になっているかもしれません(この辺りについては、詳しくは後日アップするTIAS編をお待ちください)。
微細領域の情報量もあと一歩が見えない感じがありましたが、これは暖気が済めばまた印象が変わるのかもしれません。
いずれにせよ、現在使用しているDA-N5比で明らかに格上という感じはなく、基本的に同クラス、あとは音の傾向を気に入るかどうかという問題なのかなと。
言いかえれば、現状からDACのステップアップを考えるならば、明確にもっと上のクラスに行かないと実感は薄そうだという事でもあります(ツラい)。
少なくとも現状の自分のシステムを見たときに、優先順位が高い部分がまだまだ残っていて、DACについてのテコ入れを考えるのはそちらを片づけてからで充分だと判断しました。
以上がヘッドホン関連で、今回の旅の中で試聴した全てです。
今まで未確認で自分に欠けていると感じていた部分を大分補完できたので、今後の指針がかなりはっきりしました。
明日からは今回の旅の本命、東京インターナショナルオーディオショウ2024の試聴記をアップしていきます。