音源の音質、クオリティ

 先日X(旧twitter)のTLで音源のクオリティに関する話題が流れてて、その絡みで水樹奈々のTHE MUSEUMを購入しETERNAL BLAZEを聴くことに。
 そして、それが思ってたよりもかなり普通寄りで、私的には中の中は言い過ぎにしても精々中の下位。取り立てて言い募るような物でも無いという結果に。
 で、私って音源のクオリティに関して耐性が高いのかもなあと思ったのと、それと関連してその辺りがやばい音源についてもちょこっと紹介した訳ですが。
 その後の反応やTLの流れを見ていて、そもそも根本的に立ち位置が違うかもと思ったので、もう少し詳しく記事を書こうかと思います。

 

1.そもそも音源のクオリティの優先順位は高くない
 私は、聴きたいと思う音源のクオリティの優先順位は、割と二の次だったりします。
 それよりもまず音楽としての構成であったり、メロディラインの魅力であったり、ボーカルが有りならば声質や歌詞の内容等が優先順位としては遥かに高い。
 だからこそ、そこに魅力があるならば音源のクオリティはそんなに気にならないのです。勿論、高いに越したことは有りませんが。
 その為に、巷で良く攻撃対象となる海苔音源とかもほぼ気にしません。と言うか、多分そうだろうなと思ってもいちいち調べません。
 動画を作る際(勿論著作権的に問題が無い曲ですよ)などにトラックに挿入して気付くことは有りますが、本当にその時くらいでしょうか。
 まあ、ヘッドホンのレビューをする際などは流石に音質が良いと思った物を選んで聴いてははいますけどね。
 最低限のクリアさや分離があって、楽器がちゃんと認識できるレベルであれば、それ以上はまああったら良いね位ですし、逆に言えばそこのクオリティが高くても音楽の魅力が無ければ聴きません。
 先日Xにポストしたアルエやflyingは、その最低限を突き破るレベルなので、流石にちょっととなる訳です。まあ、それでも大好きな曲である事にかわりはないので、やっぱり聴くんですけどね。
 とは言え、好きな音源を少しでも魅力的に聴けたらそれに越したことは無いので、自分の出来る範囲という事で再生環境を何とか良くしようとオーディオ趣味をやっているのです。

 

2.良録音って大変
 一部の方が1970年代~1980年代の頃の良録音に勝るものは無い、という主張をされているのを見た事が有ります。
 それは、恐らく音楽制作がデジタル環境に本格的に移行する直前の時期、アナログのアウトボードが最盛期だったころなのだと思います。
 現在はデジタル環境の整備が進み、PCの性能が飛躍的に上がったことで、DAWの性能やプラグインの機能・性能も段違いに良くなったと言われています。
 それでも、最高峰のアナログアウトボードの代替は未だ不可能というのが、制作者側の概ね一致した意見の様です。
 ですが、時代の流れでアナログのアウトボードの需要が減ったり、電源でもスイッチング電源が開発されたりなどし、大幅にトランスの需要が減りました。
 その結果良質のトランスを製造できる所が激減したと言われており、中にはもう手に入らない(代替物も無い)と言われる物すら有ります。その影響が大きく、良質なアナログのアウトボードは本当に一握りなったと言われているようです。
 そういった理由からオールドノイマンのマイク、オールドNEVEのマイクプリアンプ等の評価の高い昔のアナログ機材は極めて高い金額で取引されています。後継機種や、クローンの機種が現行品で製造されているにも関わらず、です。
 そんな良質のアナログアウトボードをふんだんに使えた時代だからこそ、今では中々成し得ない音質を達成できたという事はあるのでしょう。
 
 ですが、そんな時代の録音を担っていた方の回顧録を読むと、良質のアナログ機材を使っていたからというだけで音が良かった訳ではないという事が良く分かります。
 当時レコーディングエンジニアやミキシングエンジニアと言われていた方々が、それらアナログ機材を駆使し、多彩な技術で制作者の意図する音を作り上げようと奮闘したからこそ、良質の録音が生まれていたのだと。
 それは言い換えれば、現在DAWプラグインを使い得られる様な効果を、録音の現場の知恵と技で実現させていたという事です。
 時折録音はただ取るだけ、無編集の方が音が良いという原理主義の様な方も見かけますが、そういう技術が無くただ録っただけの音源は良録音になる事は有り得ない事を認識すべきです。
 良録音を作り上げる、それをアナログ機材メインでとなると、録る側の技術や知識、機材のクオリティ、演奏する方の技術など多方面に高水準の物が要求されます。また、何度も繰り返し録音しながら目的の音質に近づけていくので、時間も労力も莫大にかかります。
 だからこそ、当時は限られた人しか音楽を製作しリリースすることが叶わなかったのでしょう。
 確かに音楽制作のデジタル化はそれ以前の最高峰と比べれば、音質を多少損なっているのかもしれません。
 ですが、それと引き換えに音楽制作の敷居を下げ、そこにかかる時間や労力を大幅に削減し、多様な音源がリリースされるきっかけになった事はとても意義のある事だと思います。
 個人的には、そうで無ければ生まれてこなかったジャンルも多かったのではないかと思っています(特にニッチ系)。

 

3.耐性がついたきっかけ
 これは多分ですが、一時期ボカロ音源をひたすら聴いていた時期があるからだろうなと思っています。
 ボカロが発売されたことによって、ボーカルを人が担わなくて良くなるという事がとても画期的なことだと感じました。
 これは自分がインスト曲を聴くようになってから気付いたんですが、本当に多くの人はボーカルが入ってない曲を聴こうとしません。
 だからこそ、ボカロ音源が発売される前にも音楽制作を行いウェブ上で公開しているしている人はいましたが、全く注目されていませんでした。
 多くの音源プラグインにより作曲やインスト曲の制作は出来ても、ボーカルだけは人が歌わないと駄目で、それゆえに自主製作でボーカル有の曲を作れる人ってやはり限られた存在だったんです。
 ところがそこにボカロ音源が発売されたことで、ついに打ち込みでボーカル曲が作れるようになったわけで、だからこそ一気にそういったアマチュアの方の自主制作曲(主にボカロ曲)が増え、また注目されたのだと私は考えています。
 勿論、当時ニコニコ動画という文化との相乗効果が有った事は確かでしょうけどね。
 そしてそれらの音源を聞いていると分かりますが、あの界隈は本当に音源のクオリティ差が激しいのです。
 けれどそれ以上に作る側の熱気が凄く、また一般に販売されるような曲では出ないアイディア、あるいはネタ曲等も多く投稿されました。
 それらを出来るだけ追いたいという事でそれなりにCDも買いましたし、ウェブ上でも情報を追っていました(今はあまり追ってませんが)。
 その過程では音源のクオリティなんて言ってもしょうがない、それよりも見る(聴く)ところがあるという姿勢で聴き続けたので、まあ一般に販売されている音源なら殆ど気にならなくなったのだろうと今は考えてます。
 因みにやはりその中に強いきらめきを持つ人がいて、その一番の代表と言えるアーティストが米津玄師(当時の名前はハチ)でしょう。
 余談ですが、これに慣れたもう一つの効果として、以前は凄く苦手だったPerfumeの声が全く気にならなくなったりもしました。まあ、好きになったわけではありませんが。

 

4.終わりに
 録音のクオリティがあまり高くない曲は、確かに再生環境の基礎性能の高さでは克服できません。
 むしろ、再生環境のレベルを上げれば、より録音のクオリティの低さが際立ってしまうという事が大半です。
 ですが、私はそれを押してもなお基礎性能の高い機種を使う事が多いです。
 確かに、そういう場合は敢えて基礎性能が低い機種を使ったり、色付けの強い機種を使う方が聴きやすくなったりするのかもしれません。
 ですけど私はそうする事によって、その音源が持つ数少ないきらめきもまた失ってしまう事がある、そしてそちらの方が勿体ないと思ってしまうのです。
 勿論これは私の主観であり、その辺りを上手くバランスを取る事の方がより魅力的に感じる人がいて当然、むしろそっちの方が多数派なのだろうと思います。
 けれど、「ああやっぱり音質良くないなあ」と苦笑しながら、それでも自分から聴き方を変え、能動的にその音源の良さを探す方が性に合っているのです。

 先にも言った通り、音源のクオリティが高いに越したことは無いというのは当然です。
 時折昔良かった音質を潰すようなリマスターが行われたりすることも有って、それに憤慨するのもごく自然な事でしょう。
 けれどそこを追及し過ぎると、自分が好きな音源がそもそもリリースされなくなる可能性が出てきたりもするので、やはりある程度の許容は有った方が良いのではと思っています。
 そして、そこは意外と聴く側の姿勢でも何とかなるよ、という事は知っていても良いと思うのです。