デジタルファイル再生環境の操作性比較

ツイッターでもつぶやきましたが、LUMIN S1を買いました。これはLINNのKLIMAX DSと並んで操作性に定評のあるネットワークオーディオプレイヤーです。まあ厳密にいえばKinskyとLumin Appsという事になるのかもしれませんが。 そこで、これまで私が使用してきたデジタルファイル再生環境と比較をしてみたいと思います。オーディオ機器は音質の評価はそれなりに探せますが、操作性については意外なほど言及しない事が多いので。 また、最後に番外編としてPioneerのN-50についても触れています。今回の比較環境は以下。

 

・Windows10 Pro(foobar2000) PCはそれなりの性能のデスクトップ+オーディオインターフェイス

・Audiophile Linux4(MPD+M.A.L.P) PCは余っていたかなり古めのラップトップ+USBDDC

・LUMIN S1(Lumin Apps)

 

Windows10 Proは再生ソフトにfoobar2000を使用、出力はオーディオインターフェースのLyra2、ファイルの保管場所はPC本体内です。操作はPC上でのマウス操作がメイン、タブレット等でリモート操作することも可能ですが、私は一度試したものの使用していません(理由は後述)。

Audiophile Linuxはオーディオに特化したLinuxディストリビューションで、Arch Linux系統です。Linux側の操作(各種設定、データベースの更新等)の殆どはCUIで行い、ファイルの再生はスマートフォンからM.A.L.Pというソフトを使って行います。
Linux側の再生はMPDというソフトが受け持っていますが、正直いってこちらを意識することは殆どありません。設定さえ終わってしまえば後は殆どスマートフォンもしくはタブレット操作(私の使用アプリはM.A.L.P)になります。
なおファイルの保管場所はNASで、インターフェースはM2TECHのHIFACE EVO初代を使用。使用PCはかなり古いラップトップですが後述のように非常に快適に動作しているので、これが使えないスペックのPCは現状ではほぼ無いといってよいでしょう。

LUMIN S1はネットワークオーディオプレイヤーであり、操作及び設定共にタブレットから行うことが想定されています。リッピングNASの設定等まで考えればPCは必須に近いですが、再生だけに限って言えばPCレスでの運用になります。

私の使用ソフトは純正のLumin Appsで、使用タブレットiPad mini初代。データの保管場所は同一LAN内のNASから読み込んでいます。

 

1.設定の難易度について

これについては圧倒的にLUMIN S1が簡単です。と言いますか、単に音出しするだけであれば設定らしい設定が必要ありません。 NASが同一LAN内に構築されていればすぐに自動で見つけ出してくれますし、ライブラリの読み込みに多少時間はかかるものの極めて簡単に使用開始可能です。
次いでWindows環境が簡単です。foobar2000オーディオインターフェースの設定等多少の知識は要りますが、大抵の人は特に迷わず出来るでしょう。仮につまずいたとしてもネット上に豊富に情報があるので、余程凝った構成にしない限りは普通に音出しまでたどり着けると思います。
一方、Audiophile Linuxの方は非常に難解です。一応配布元がマニュアルを掲載はしていますが、正直言ってあれだけで音出しにたどり着ける人がいるのか疑問です。
まずArch Linuxベースなのでインストール作業は全てCUIGUIは有りません。この時点で多くの人が挫折するでしょう。その他にもLANの設定、NASの設定、MPDの設定、インターフェースの設定等つまずくところが至る所にあり、おまけにウェブ上で情報を探すにも日本語で探すことはまず無理です。殆どの情報源は海外のフォーラムを頼りにしなければならず、ここも難しさに拍車をかけています。
私はインストール作業から各種設定が終わり、NAS上のファイルを再生できるようになるまでに10日以上かかりました。 私自身がLinuxに不慣れでCUIも初挑戦に近いレベルという事情があったとはいえ、それでも何度も挫折しそうになりました。

 

2.使用ソフトのUIの出来について

これについてはLumin Appsとfoobar2000が概ね同等、但し造りの思想がかなり違うので直接的な比較はあまり意味が無いといった所。
Lumin Appsは色んな人が高評価を下していますがそれだけの事はあり、非常に完成度の高いUIだと感じます。恐らくタッチパネルでの操作という事を考えたとき、これ以上のソフトというのは中々難しいのではないでしょうか。
foobar2000はマウスでの操作がメインで考えられているために、Lumin AppsやM.A.L.Pとは大分違う作りですが、デフォルトでも非常に合理的で使いやすいと感じます。UIについては他の二つと違ってカスタムできる幅が非常に広いので、自分好みのUIにカスタムできるというのも大きな魅力となるでしょう。
M.A.L.Pは概ねLumin Appsと同系統ですが、Lumin Appsと比べればUIの出来は明確に劣りますし、foobar2000とは別系統であってもクオリティ的に及ばないかなと思います。
ただじゃあ使い難いかというとそんなことは無くかなり快適に使えるソフトなのですが、他の二つが非常に良い出来なので相対的にこのようになるというだけの話ではあります。

 

3.操作レスポンスについて

こちらはWindowsとAudiophile Linux4が同等で、LUMIN S1が明確に一歩劣ります。
WindowsとAudiophile Linux4(その使用ソフトであるM.A.L.Pを含む)の操作レスポンスは即時と言っていいでしょう。勿論いついかなる時も遅れが無いとは言いませんが、基本的に無いと言って良いレベルだと思います。
個人的に驚いたのはAudiophile Linux4+MPD+M.A.L.Pを使用したときで、スマートフォンを介した操作なのにWindowsで直接ファイルを扱う時と遜色のないレスポンスなのは素晴らしいです。 設定の難解さは極めて高いハードルですが、それを超えるだけの価値はあると言えます。
一方LUMIN S1の方は明らかにワンテンポ遅れて動作する感じで、この点では他の二つには及ばないです。 ですがじゃあ我慢ならないかと言えばそこまででもなく、この程度であれば特に不満無く使えるレベルだと思います(他の二つが良すぎ)。

 

4.総合評価

総合的に上記三点を比較した場合、Windows環境とLUMIN S1はそれぞれの良さがあり甲乙つけがたいという感じです。
windows環境の方は非常に高い自由度と、余程性能の悪いPCを使っていない限り極めて高速でストレスフリーな操作性は明確なアドバンテージだと思います。
ですが、やはりオーディオにPCを使用するという事に抵抗がある人もいるでしょうし、リモート操作も中々厳しい物があります。 foobar2000でもそれを実現する方法はあるのですが、その為のソフトは決して出来が良いものでは無く(というかはっきり言って悪い)、操作にも明らかに遅れが発生するために私は使用していません。
LUMIN S1の方は操作レスポンスは劣るものの、ソフトの出来自体は素晴らしいですしリモートでの操作が可能(というかそれしかできない)です。
何よりも設定が非常に簡単、使用にPCを介さないというのはオーディオ機器として大きなアドバンテージだと言えるでしょう。但しNASを使用する場合は、PC不要とまでは言えないかもしれません。最近はスマートホンからでも設定できたりするようですが……
Audiophile Linuxは一度設定さえ終えてしまえば両者のいいとこどりのような環境が構築できるのですが、その為のハードルが高すぎてはっきり言ってお勧めは出来ないという感じですね。 但しそれでもチャレンジしてみたいという人、またLinuxのスキルに自信のある人にとっては、苦労に見合うだけの価値がある環境が構築できるとだけ言っておきます。
なお他のLinuxディストリビューションやラズパイオーディオは試したことが無いために、Linuxと言えど全てで同レベルの環境が構築できるかどうかは分かりません。

 

5.番外編

ここではPioneerのN-50について取り上げます。 私がこの機種を買った理由は当時ネットワークオーディオプレイヤーに興味があり、手を出しやすい価格帯でなおかつウェブ上の評判も中々良かったためです。
しかし、正直言って私は余りの使いにくさに閉口しました。 操作をしてもフリーズしているのかと疑うレベルのレスポンスの悪さ、有線なのに不安定なネットワーク周り、致命的に使いにくい操作系統。
何をとっても褒められるところが無く、音質を云々する以前の話でここまで使いにくい機器をむしろ良く作れたものだとすら思いました。 そもそもネットワークオーディオプレイヤーなのにメインの操作系統が旧来型のリモコンで、表示窓は本体の極めて小さいディスプレイという時点で、使う人の事は全く考えていない事が分かります。
一応スマートホン用に専用アプリも出していましたが、β版でももう少しマシなものを作るだろうというくらいに出来が悪く、おまけに頻繁にソフト自体が予期せぬエラーで落ちてしまいます。 裏技的にOpenHomeに対応させてKinskyを使う事で多少は改善されましたが、やはり操作レスポンスの悪さと不安定さがあまりにも致命的でした。
私からすればこれを使うのはただのストレステストでしかなく、結局すぐに殆ど使わなくなり処分しました。 そして、こういった操作性の悪さについて指摘している人が殆どいなかった(むしろ褒めている人すらいた)事が更に大きな問題だと思いました。
これだけ出来が悪いにもかかわらずそれを指摘する人がいないという事は、国内でのネットワークオーディオプレイヤーの操作性に関するレビューは殆どあてにならないという事だからです。個人的に参考になりそうだなと思ったところは、言の葉の穴というサイト位です。
今回LUMIN S1はそちらでも評価が高かっただけでは無く、海外でも使い勝手について非常に高い評価がされていた為に買えましたが、国内のネットワークオーディオプレイヤーは未だに怖くて買えないというのが現状ですね。