以前作成したウェブサイトに掲載したレビューですが、不手際により消えてしまったのでこちらに再掲します。
DA-N5はLavry Engineeringが誇るフラッグシップのDACであり、音楽制作界隈で最高のDACの一つとしても挙げられる事の多いDACです。しかし、あまりにも立ち位置や流通などが独特で、ウェブ上で音質等の情報を探そうにも国内国外含めほとんど見つからない機種です。 私が探したときは、公式の説明とショップの価格を除けば、楽器店のちょっとしたレビューが一つと、後はわずかなツイッター上でのつぶやき位しか見つけられませんでした。 恐らく試聴することも困難だと思われるので、私のレビューでも何かしら役に立つこともあるかもしれません。頑張ってレビューを書いてみたいと思います。
【デザイン】 公式の写真を見れば分かる通り金メッキ光沢仕上げで、見た目の好みはかなり分かれるでしょう。 個人的には実物を見てみると思っていたよりも落ち着いた金色で、ラックに入れてもそこまで浮いた感じはせず、これはこれでありかもなと思います(購入補正の可能性も……)。 ですがこの機種を機能デザインという観点から見れば、「完璧だ」という感想が真っ先に浮かびます。 一見シンプルにただボタンとインジケータ、そしてダイヤルが並んでいるだけに見えますが、これがあまりにも素晴らしいのです。 極めて視認性が良くボタンの押し間違いもほぼ起き得ない配置。 説明書など読まずともすぐに操作が理解できて、ほぼ全ての機能に表側からダイレクトにアクセスでき操作感も極上。 現在の設定も見た瞬間に判別でき、見間違う心配もほぼ皆無。勿論操作した瞬間に設定は瞬時に切り替わり、待たされることも無い。 これをデザインした人あるいはチームは、本当に使う人の事を心底考え、とことん煮詰めたのだろうなと思わせるデザインです。 業務用機器の為リモコンは無いので、オーディオ用途で使う際はそこだけはネックになる人もいるかもしれません。しかし本来19インチラックに収めて使うことが前提の機種ですから、その指摘自体がアンフェアな指摘だとは思います。
【帯域バランス】 低域から高域までフラットで、どの帯域も強調されることがありません。低域方向、高域方向への伸びも素晴らしく、Prism Sound Lyra2やLYNX HILOとの差は想像以上でした。特に低域に関しては、このDACを聴いて初めてヘッドホンで音楽を下支えする低域というものを感じることが出来ました。 但し、先にも書いた通り帯域バランスはあくまでフラットで、低域あるいは超低域が特徴的だという事ではありません。これまでのDACとの格差で強く認識された(比較するとこれまで使用してきたDACの低域再生能力が低すぎた)為だと考えています。
【分解能】 ぱっと聞いた感じはあまり分離能力は高く感じないのですが、部分部分にフォーカスすればしっかりと分離していることが分かります。 これは性能の高低というよりも描写の仕方が絡んでいて、音源と音源の間にある情報もしっかりと描写できるため、それぞれが断絶した感じがしないからだと思います。 情報量も素晴らしい物を持っていますが、どちらかというと全体のバランスの良さに注意が行きます。ですが、こちらも局所にフォーカスすると非常に情報量が多い事が分かります。 写真にたとえるなら、画素数の多い画像を表示するとき基本的に全体が見える大きさで表示するので細部までは目に入りませんが、等倍にしてみたらきちんと細かい所も解像しているという感じでしょうか。 また、音源の情報量が多いと余裕のない音を鳴らすDACが多いのですが、私は今のところDA-N5で余裕を失った音源を聴いたことがありません。 大編成のオーケストラのように楽器点数が多い曲も、ハードロックやメタルコアのような高い音圧かつ高速な曲も、訳なく鳴らしてしまいます。
【音場】 音場は広い物を持っていますが、特に奥行き方向の描写が素晴らしいです また先にも書いた通り、音源と音源の関係性が断絶しておらず、互いの距離感や相互作用もしっかりと描写してくれます。 録音の良いクラシックの音の重なり方、ジャズの掛け合いなどを聴くとちょっと感動するレベルです。
【音の描写】 こちらも素晴らしいのですが、じゃあどう素晴らしいかというと表現に困る部分です。特に何が、というよりはどこを取っても上質で、極めてバランスが良い表現だと言えます。 また、DAC自体の音の押し付け感がなく、音楽を聴くことに純粋に集中できる音です。 敢えて具体的に言うならば、低域の揺らぎが無く音色もしっかりと描写する点、高域で情報量の欠落や荒れ、色付けを感じさせない点等が挙げられるでしょうか。
私自身がハイエンドと呼ばれるクラスの機器を使用するのがほぼ初めてなので、とにかく絶賛しか出てきませんでした(これでもだいぶ削った)。 レビューを書くにあたって再度頑張って粗探しをしてみたのですが、私の実力と経験では無理でした。ただ、他のハイエンドクラスのDACを遍歴している人ならば、また違った視点を持てるのかもしれません。 私はLyra2からの質的な変化が大きすぎて凄いと感じましたが、実際にはあまり性能を誇示するようなところが無いので、高性能なDACに慣れている人からするとちょっと肩透かしに感じる可能性はあると思います。
個人的には、このDACは料理に例えるなら豪勢な料理ではなく、一見なんてことない料理に見えるけれどご飯とみそ汁が絶品でしみじみと美味しい料理という感じです。 そういった訳でとにかく音楽を聴くのが楽し過ぎて、気付いたらかなり時間が経っているという事もしばしばです。 今後機器を新たに導入したり手放したりすることがあったとしても、DA-N5は最後まで所有し続けるだろうと思えるDACだと思っています。