私のヘッドホン歴は概ねAKGのK271Sを買った2005年から始まっていますが、本格的にのめりこんだのはHD650を購入した2006年初頭辺りだと言っていいでしょう。
時期的には丁度ヘッドホンブームが始まって、各所でブログなどでの情報発信が活発になっていた時期だと思います。ヘッドホン祭が始まる少し前あたりでしょうか。早いものでもう15年以上経っている訳ですが、当時と今ではかなり状況が変わりました。
この間なんだかんだでずっと情報を追い続けてきたので、どういう変遷を辿ってきたのかを振り返ってみたいと思います。記憶だよりで若干誤っていたり、前後している部分もあると思いますが、そこはまあ大目に見てください。
1.ヘッドホンブーム黎明期
2004年はSennheiserからHD650が発売され、名実ともにフラッグシップがHD600から移り変わった時期です。
今からするとびっくりするかもしれませんが、HD650やGrado RS-1辺りがヘッドホンのハイエンドであり、概ね5万円前後というのが当時認識されていたハイエンドの価格帯です。
AKGはまだフラッグシップはK501という機種で、これはまあ1万円台半ば~後半くらいの機種で、音質的にもハイエンド帯としては捉えられておらず、いい機種はあるもののハイエンドを持たないというメーカーでした。AKGがSennheiser等と肩を並べるのは後述のK701を発売してからです。
当時からSTAXは存在していましたが特殊な立ち位置で、ヘッドホンとして10万円を超える機種を販売していましたが、あくまで例外として捉えられていました。
一応UltrasoneのEdition7やEdition9等もありましたが、これらも数量限定販売でやはり例外機種扱いだったと思います。
またこの頃は海外の会社の日本支社など殆どなく、内外価格差が非常に大きかったです。それ故に、一部の機種を並行輸入で殆ど海外と同じ値段で販売していたサウンドハウスが注目されたのもこの頃でしょう。
他にもAKG K701が2005年発売で、2006年あたりは概ねHD650かK701がヘッドホンの最高峰だとして認識されていました。
ヘッドホンアンプは概ね10万円前後がハイエンドの主戦場、当時定評があったのはIntercity HD-1LやLehman Audio Black Cube Linear等です。
以前に単独の記事としても書きましたが、業務機器であるGrace Design m902が最高峰として認識されていましたが、それでも20万円を少し超えるくらいでした。
一応このころからEARのHP4は存在しており、値段も70万円程度と極めて高額でしたが、ぶっちゃけ買う人も使用している人も殆どおらず、少数の試聴レビューなどでもあまり高い評価ではなく、キワモノ扱いで非常に存在感が薄かったです。
そもそも当時はヘッドホンアンプを所有している人自体が少なく、DACについては単体で所有している人は殆どいなかったでしょう。
再生機器はCDプレイヤーがメインで、LinnのIkemiが物凄く高く評価されてました。その下位グレードであるGENKIも同様です。
ただ、正直ここまで(Ikemiが当時で60万円くらい)行く人はかなり少数で、憧れの的ではありましたが、ヘッドホンフリークの間ですら極ごく一部のマニアだけだという捉えられ方です。
また、USB接続可能なDACもほとんど存在せず、PCでオーディオをやるには、DTM用のオーディオインターフェースを導入する位しか方法は有りませんでした。
一般的にはMarantsのSA-17S1やその後年に発売されたSA-15S1辺りを使っていれば、十分こだわっている人認定されていたでしょう。これらが大体15~20万円くらいです。
加えて言うと、Marantzの評価が高かったのは、付属で備えているヘッドホンアウトの質が他のCDプレイヤーと比べて高かったからです。
その為、Marantzの高級CDプレイヤーを買えば、そのヘッドホンアウトが下手なヘッドホンアンプよりもレベルが高いので、コスパで優れていると認識されていました。
なお、更に上位機種であるSA-11S1の評価もまた高かったのですが、ヘッドホンアウトがついていなかったために、ヘッドホンフリークが購入するのを躊躇していた印象。
どちらかといえば高嶺の花扱いで、そこまで行く人はかなり極まっている人という認識でした。
イヤホンに至っては高級機という概念自体がほぼ存在せず、極めて特殊な機種としてER-4Sが存在していた位でしょう(概ね4万円前後位)。
また、当時はカナル型は全く主流ではなく、今やごく少数しか存在しないイントラコンカ型が殆どでした。
そんな中で高級機しかもカナル型であるER-4Sは、発売元がオーディオメーカーではなかったことも相まって、非常に珍しい存在だったと記憶しています。
更に発音帯がバランスドアーマチュアだったのもER-4S位だったと思いますので、もう何から何まで異例な機種だったといっていいでしょう。
しかしその音質の評価は極めて高く、孤高の存在として認識されていたと思います。
この後にイヤホンにもヘッドホンブームの影響が波及しどんどん高級機が登場するわけですが、その多くがカナル型かつバランスドアーマチュア採用だったのはER-4Sの存在が大きかったと思います。
総じて言えば、ヘッドホンのハイエンドが概ね5万円前後、一部特殊な機種で10万円をやや超える程度。
ヘッドホンアンプは10万円程度で一部特殊な機種で20万円程度。
イヤホンに至っては、特殊な物を除き1万円を超えるものすら殆どない、という感じでした。
2.ヘッドホンに10万円を超える価格帯の出現
上記のような状況は、SennheiserからHD800が発表されたことにより大きく変化することになります。2009年の前半頃ですね。すなわち15万円~20万円という価格帯のヘッドホンの登場です。
また、時間をおかずにGrado GS1000、Beyer T1等が発表され、各社がフラッグシップの価格を一気に上昇させます。
Beyer T1は10万円以内に収まっていましたが、概ね評価的には他社ハイエンドと比較して遜色ない機種という認識でした。
他にもUltrasoneの各Editionシリーズの新作、やや遅れてTH900が発表され、この価格帯が各社フラッグシップ機≒ハイエンド機の価格帯と認識されます。
なお、AKGのフラッグシップだけは市場投入が非常に遅れ、K812が登場したのが2014年です。
HPAについてもやや時期を前後しますが、この頃からこれまでよりも価格帯が上がった機種が出始め、トップクラスで20万円超、ハイエンドで30~40万円程度まで移行します。
因みにこの頃に、STAXがSR-009という約40万円の機種を発売し非常に大きな話題になりました。
しかし、静電型を継続して作っている会社がSTAXくらいしかなく、しかもアンプも実質的は同社しか製造していない状況であり、あくまで特別枠という認識だったと思います。
この辺りは、まだまだヘッドホンが5万円がせいぜいのころにSR-007Aという20万円近い機種を販売していた事も要因となっているでしょう。
イヤホンについてはそこまで情報を追っていなかったので記憶が曖昧ですが、5万円~10万円程度のインナーイヤーが登場していたと思います。
ただ、この頃まではまだヘッドホンよりは安価でなければ、という雰囲気が強くあったように思います。
しかし、高音質なDAP等も登場し、ポータブルの環境が揃っていく下地が整えられた時期ともいえるでしょう。これが、2010年~2012年頃だったと思います。
総じていえば、概ねどのジャンルもハイエンドの価格帯が2倍~3倍程度上がり、そしてその価格に見合うだけのクオリティアップを果たした時期と言えます。
そして、単にハイエンド方向に拡張しただけではなく、低価格帯~中価格帯のラインナップも充実していきました。