ケーブルで音が変わるのか、もし変わるとするならばそれはどういうことなのか等のケーブルによる音質変化に対しての、現在の個人的なスタンスを少し書いてみたいと思います。
1.ケーブルは能動的に音を変えるものではない
まず、ケーブルにアクティブな素子やノイズリダクション機構を乗せている物は例外とします。 単純にケーブルというものは信号(電力)を伝送することが本来の役割であり、音に対して能動的に変化させるものではありません。また、その仕組み上信号を増幅することが出来ませんから、原則としてどんなケーブルであれ「劣化する事しかない」と考えています。 もし一切劣化の無いケーブルがあるとしたらどうぞ論文にしてご発表ください。常温での超電導物質の発明者としてノーベル賞間違いなしです。
2.音の変化の要因
先にも述べた通り、ケーブルを通る信号は必ず劣化します。そうである以上、必ずなにがしかの変化はしていると考えるのが妥当でしょう。そして、その劣化の仕方による変化が音質を左右するのだろうと考えています。 それは単純に情報のロスであったり、情報の変化による歪みだったり、外来ノイズの混入であったり様々でしょう。 時折、超ハイエンドに属するケーブルなどで、「どんなシステムであろうとそのケーブルの音になる」という表現を見かけることがあります。これの私なりの解釈は、「信号の劣化のさせ方が極端に偏っている」という事だと捉えています。 つまりある成分に関しては著しくロスし、ある成分に関しては限りなく元の情報に近い状態で伝送される。システムとしてはその信号を増幅して聞くわけですから、結果としてその偏りにより「そのケーブルの音」になるのだろうと考えています。 オーディオ自体が音楽を楽しむことが最終目標ですから、好みに合うのであればそういうケーブルも十分ありな選択肢だと思います。
また、このようなケーブルとは逆に、劣化の偏りが殆どないケーブルというものもまた考えられます。こういったケーブルが、癖のない忠実系のケーブルと呼ばれるのではないかと考えています。
3.個人的に目指す方向性
私は現在DA-N5というDACをメインに据えて考えています。 このDACの特徴は、基本的に色付けや脚色をほとんどしない、とても自然で上質な音だと捉えています。よって、なるべくこの特徴に沿ったケーブルを使用したいと考えています。具体的には、なるべく劣化の少ない、劣化するにしても偏りが少ないケーブルが良いと考えているという事です。 そしてこの考え方に沿ったケーブルを求めるときに、とても参考になるのがDH LabsとArgento Audioというメーカーです。 この二つのメーカーの思想は、ケーブルの性能に大きく影響する要素をプラグ、導体、絶縁体であると考え、それらに対して可能な限り特性の優れた素材を使うことがクリーンに信号を伝送するケーブルになるという思想です。 それをDH Labsはある程度コストパフォーマンスも考えながら、プロオーディオの世界でも使用できるレベルのコストで可能な限り実現しようとしているメーカーであり、Argento Audioはコスト度外視で狂的なまでに完璧を追い求めるハイエンドオーディオのメーカーだと私は捉えています。 勿論このような考え方は多かれ少なかれどのケーブルメーカーも持っているものですが、それ自体を突き詰めることを自らの個性としているという意味で、この二つのメーカーが代表的に見えるという事です。
4.ケーブルにおける色付けと脚色 私はケーブルにおいて色付けと脚色を別の要素として考えています。 まずケーブルにおける色付けは、例えば高域の音が派手だったり美音だったり、低域の音が張り出していたり膨らんでいるといったことが分かりやすいでしょうか。音一つ一つの中身をどう描写するかといったものだと捉えても良いかもしれません。音がウォームかクールか、ブライトかダークかというのもこちらだと思います。 脚色については音の輪郭の描写、空間の表現、情報量等に関してだと捉えています。音のエッジが強いあるいは弱い、空間表現が前後左右を適切に描けているか、あるいは音の定位などもこちらに含まれるでしょうか。色付けに比べればもう少し俯瞰的な視点、あるいは全体像をとらえるために必要な情報だといっても良いかもしれません。 風景画に例えるなら色付けは着色の部分、すなわち油絵か水彩画なのか、淡い色調なのか原色に近いのか、グラデーションの描き方はどうなのかといった視点です。 そして脚色はその絵の下絵に関わる部分と言えるでしょうか。下絵そのものの線が力強いのか繊細なのか、写実的なのかデフォルメされているのか、細かいところまで詳細に描かれているのかあるいは敢えてぼかしているのかといった感じですね。
そして、その描こうとした現実の風景に近ければ近い表現ほど(写真に近ければ近いほど)色付けあるいは脚色が少ないと考えています。 私は色付けの少ないケーブルであっても脚色されていることはあると思いますし、その逆もまたしかりだと思っています。勿論、色付けも脚色も行っているケーブルもあるでしょうし、色付けも脚色も殆どないケーブルもまた存在するでしょう。 実際に使用した事が無いので想像でしかありませんが、先に挙げたArgento Audioのケーブルは、色付けも脚色も極めて少ないのではないかと想像します。 因みに、某所で絶賛されているBeldenやモガミ等の業務用ケーブルは、確かに色付けは極めて少ないかもしれませんが、決して脚色の少ないケーブルでは無いと思っています(多くもありませんが)。具体的にいえば、輪郭を強調することで音の分離を際立たせようとする点、多くの音に対して少しざらっとした質感を付与するように感じる点などです。 もっともこれはあくまで私個人の感想なので、勘違いの可能性も大いにありますが。
4.自作ケーブルで目指す物
今まで述べてきた点を踏まえて、個人的には色付けも脚色も少ないケーブルで統一したいと考えています。 しかし、DH Labsだけで全てのケーブルを賄うとかなりの価格になりますし、Argent Audioに至ってはケーブル1本買うのすら非常に辛い価格です。 そういう訳である程度のケーブルは自作で賄おうと考えていますが、ここで自作ケーブルに関する私の考え方を述べておきます。 まず、自作ケーブルでどれだけ突き詰めようと、既存のケーブルメーカー、いわゆるケーブルづくりのプロにはどうあがいても敵わないと思っています。それは知識の差、材料調達力の差、設備の差、資金力の差、技術力の差等ありとあらゆる面で個人が太刀打ちできるものでは無いからです。 個人で作るケーブルでメーカーが「作らない」製品は考えられますが、「思いつかない」あるいは「作れない」物はまずないということです。 しかしそれでも自作で賄おうというのは、自らの労力自体を金銭的なコスト0として考えることが可能な点、製品メーカーが作らないと判断した(製品にするには不向きだと考えた)ケーブルを作る事が可能だという点があるからです。 それらを総合的に考えれば、自ら使用するケーブルを作るあるいは少量生産という範囲に限れば、多少なりとも出し抜けたり優位に立てる面があるだろうと考えている訳です。 まあ、それですら非常に大変なことだとは思いますし、中途半端なことをすればまず良い結果は得られないと思いますので、可能な限りの工夫を凝らしたいところではあります。
現状の私のケーブルに対する考え方はこんなところです。 気が向けばまた色々と書いてみたいと思います。