ケーブルの銀メッキについて考える

ケーブルについての議論は色んなスタンスがあるので、自分が信じた通りすればよいというのはまず前提として。それでも、いくら何でも物理をガン無視しちゃ駄目でしょう、という事で銀メッキについて調べた話をしたいと思います。 ケーブルの銀メッキの理論根拠は多くの場合交流信号伝送時の表皮効果であり、高周波になるほどケーブルの表皮を流れる(しか流れない)ので、表皮だけ銀メッキすることで高域特性が改善されるというものな訳ですが。 私個人としては、オーディオで扱う信号レベルであれば、デジタル伝送でない限り殆ど効果がないと考えています。

 

確かに表皮効果は物理現象として存在しますが、そもそもその高周波というのは一体どの程度なのでしょうか。これはウェブ上に表皮効果における表皮深さの計算を行えるサイトが存在しますのでそれを利用します。では、実際のオーディオ信号の高域である周波数においてはどの程度の表皮深さになるのでしょうか。 ピアノの最高音である5kHz程度だと約0.94mm程度となりますが、果たしてこれ程の厚さのメッキがされているものがあるでしょうか?と言いますか、そもそも約1mm厚だともはやメッキとはいえないレベルの厚さで、純銀のケーブル作った方が早い笑。 では、最近流行りのハイレゾデータの理論上の限界値ではどうでしょうか。一般的な96KHz/24ビットならこちらは48KHzが最高周波数ですが、この場合0.303mm程の厚さが必要です。192KHz/24bitなら96KHzですが、それでも0214mm程の厚さになります。

因みにJISに定める工業用銀メッキ区分で、最大厚さは100μメートル(0.1mm)ですから、上記のような厚さのメッキは余りにも非現実的な話になってしまいますし、繰り返しになりますがそれくらいなら銀だけでケーブルを作れって話になるでしょう。 では、その工業用銀メッキ区分で最も厚い100μmのメッキを施した場合(表皮深さを100μmとする場合)は、どの程度の周波数になるのでしょうか。答えは400KHzとなり、そこまで厚いメッキを施したとしても、有効な周波数自体がデータとして含まれていません。 つまり、表皮効果を考慮しなければならないとされる高周波はその周波数が高すぎて、オーディオにおけるアナログ信号の周波数ではあまりにも意味がありません。もちろん表皮深さまでは徐々に流れにくくなっていくので完全に無意味な訳ではありませんが、実質的に無視しても構わない範疇でしょう。

実際のケーブルでは100μどころか数μm程度でしょうから、この場合GHzレベルの話になるので、表皮効果という点ではほぼ無意味(後述)なものと言えそうです。

 

では、デジタルデータにおいてはどうでしょうか。 S/PDIFデータの伝送では周波数は概ね6MHz程度でこの場合はおよそ表皮深さは26μm、USB2.0の伝送周波数は240MHzで凡そ4μmですから、こちらは大分現実的な厚さです。表皮深さまでの減衰は徐々に流れにくくなっていくことを考えればなおさらです。 ですから、基本的に電線への銀メッキを施すことにより得られる表皮効果が現実的なレベルになるのは、最低でもS/PDIF等のデジタルデータなどのMHzレベルの伝送でなければほぼ意味がないと言えるでしょう。 また、S/PDIFでも26μメートルというのはメッキとしてはかなりの厚みです。銀メッキの厚さはコストに直結しますから、有効なレベルの厚みの銀メッキを施そうとするとかなりの価格になるでしょう。安物のケーブルの銀メッキケーブルだと使える量は限られるでしょうから、デジタルデータ伝送ですら殆ど意味を成さないと考えられます。 例えば多くの電線規格で定められている銀メッキの最低厚みは1μmらしいのですが、この表皮深さの場合周波数は4GHzにも達します。なお、なぜこんな厚みで規定されているかというと、そもそも目的が違う(劣化を防ぐため)からです まあ、オーディオケーブルを名乗るものなら流石にもう少し厚みを持たせているでしょうが、メッキ厚みを公表しているケーブルなど皆無に等しいですから、推測で判断するしかありません。そして、その基準としては概ね価格で判断するしかありません。もっとも、高価格帯でも厚いメッキを施しているかどうかは分からないので、その辺りはケーブルメーカーとしての市場での評価も踏まえて判断しなければならないでしょう。 繰り返しになりますが、現実的なメッキの厚みで効果が得られそうな周波数は最低でもMHzオーダーであり、少なくともアナログのオーディオ信号程度の周波数ならば、銀メッキによる表皮効果など考慮する必要は無いと言えるでしょう。

 

もっともじゃあ全く変化がないのかと言えばそうとも言い切れず、例えばInnocent Keyのyohineさんが言及されているMHzレベルの可聴帯域外ノイズの影響の話等を考えれば、DAC→プリ間などは表皮効果絡みで音が変化する可能性はあると思います。 ですが、それはかなり極まったレベルの話ですし、しかもそのノイズの伝送が助けられる話になるのでむしろ悪化の方向(色付けの方向)ですから、何だかなあという話になってしまいます。 結局、銀メッキを施すことで音が変わる理由は表皮効果の可能性は極めて低く、単純に導体に電気抵抗率の違う導体が存在することによる伝導率の変化が実際の所ではないでしょうか。こちらもメッキの量を考えれば微々たるものでしょうが、表皮効果の非現実的な数字を考えればまだ納得できそうです。

なお、テフロン被覆銀メッキ銅線(撚線)の場合極めて腐食を生じやすいという研究(銀 メ ッ キ 銅 線 の 赤 疹 腐 食 ※リンク先PDF)があり、特にメッキ厚みが薄い場合は危険とされているのでその辺りも勘案してケーブルは選んだ方が良いかもしれません。工業用のRFケーブル(高周波用ケーブル)が単線に銀メッキが多いのはこのためだと考えられます。

例えばイヤホン用リケーブルに多用される銀メッキ銅線は、その多くがテフロン被覆(フッ素樹脂被覆)銀メッキ銅線(撚線)ですし、そのケーブルの細さからメッキも相当に薄いと考えられるので、劣化の危険性はある程度覚悟して使うべきでしょう。

 

というわけで個人的な結論です。

 

・銀メッキ線を考慮するのはデジタルケーブルのみ→表皮効果による抵抗率の増大を緩和をする目的が現実的 ・テフロン被覆銀メッキ銅線なら単線を選ぶ→腐食しにくい

・上記の物でも安物の銀メッキ線には手を出さない→メッキの厚みが薄くデジタル伝送であっても意味をなさない可能性が高い

・低価格帯やケーブル径が細いテフロン被覆銀メッキ銅線(撚線)は可能な限り避ける→腐食しやすい

 

以上です。