PCMとDSDに関するメモ

今回はDACを新たに導入する際に調べた情報の中で、PCMとDSDに関する事などを書きたいと思います。

 

DSDとPCMの方式の違いなどについてはいくらでもウェブ上に情報があるので、ここで解説するまでも無いでしょう。今回取り上げたいのは、DACがそれぞれをどのようにDA変換するか、そしてそれが音質に対してどのような影響があるかという事です。 結論から言ってしまえば、同じDA変換の機構でDSDとPCMの両方で良い結果を得ることは極めて困難(現状では不可能に近い)という事のようです。最近だと逢瀬さん(Innocent Keyさん)の所のAK4499のDACプロジェクトなどでも言及されています。 両者のDA変換においては必要とされる特性がかなり違い、両立が難しいという事がその要因のようです。

 

これらの理由によるものと思われますが、ハイエンド帯のDACでは概ね二つのグループに分かれます。 一方は入力された信号を全てDSDに変換し(もしくはDSD信号をそのままかアップコンバートで)DA変換を行うグループ、もう一方は全てPCMに変換し(もしくはPCMをそのままかアップコンバートで)DA変換を行うグループです。少なくとも私の調べた範囲では、両方をそのまま再生するようなDACはありませんでした。音を悪化させる要因にしかならないので、シビアに音質が判定されるハイエンド帯では受け入れられないでしょうし、技術者たちもそれは百も承知なので採用しないのでしょう。 実際の機種については、前者はEmm labs、Meitner、DCS、Playback Designの各種DACやPS AudioのDS DACなどが当たります。 後者は一般的なマルチビットΔΣDACチップ(要は旭化成のAKシリーズとかESSのSABER PROシリーズとかです)を搭載するDACや同機構のディスクリートDAC、MSB Technologyのようにラダー抵抗方式のDACを採用しているDAC等がそれにあたります。詳細については理解できなかったのですが、恐らくCHORDのパルスアレイDACもこちらに含まれるはずです。

そして、現状の技術ではどちらの方式でも長所と短所があり、どちらの方が明確に上位だと言える状況では無いようです。 但し特性を追及する上では後者の方に軍配が上がるようですので、好みの差を超越するほどの優位性が無いというのが実際のところかもしれません。 もっとも特性だけで音質が決まる訳でもありませんし、実際にハイエンドDACの音を聴き比べることが出来たわけでもありませんので、この辺りはあくまで情報を集められる範囲での推測にすぎませんが。

 

ですので、PCMでのDA変換を重視しているDACにおいて、「DSDは全てPCMに変換されDA変換される」という仕様や、あるいは「DSDに対応していないので、送り出し側でPCMに変換してください」という対応は、純粋に音質だけを考えれば極めて誠実な姿勢だと言えます。 逆にPCMでのDA変換を重視したDACでありながら、「DSDにネイティブ再生」という仕様やあるいは「DSDはネイティブ再生でなければ意味がない」という言葉は実はかなり不誠実です。 少なくともそう主張するのならば、すべての信号をDSDに変換し、DSDに最適化されたDA変換を行う機構でなければならない(そうでないと音質が悪化する)という事です。 そして現状ではDSDに最適化されたDACチップはまず無いと思いますので、必然的にディスクリートDAC(+何らかのDSDへの変換機構。FPGADSP等)という形にならざるを得ないでしょう。実際にDSDを重視するハイエンド帯のDAC群は大抵そのような機構のDACとなっています。

近年のハイエンド帯のDAP等でよくDSDのネイティブ再生を謳っている機種を見かけますが、その大半がマルチビットΔΣDACチップ搭載ですので、殆ど意味のない仕様だと言えると思われます。 DSD対応自体はそのファイルそのものを再生できるかどうかに関わるので重要ですが、一般的なマルチビットΔΣDACチップを使っている以上ネイティブ再生である必要は無い、むしろPCM変換が望ましいとすら言えるのではないでしょうか。

 

このように突き詰めてDACを選ぶ、特にハイエンド帯のDACも視野に入れて選ぶという事は、ある意味でDSDとPCMのいずれを重視するかを選択する事にもなるようです。 個人的にはどちらを選ぶかと言われれば、DSDには現状ではほとんど興味が無くPCM一択ですし、購入したDACDSD非対応(PCM変換すらしてくれない)の機種です。それについての理由はまた次回の雑情報記事で理由を述べたいと思います