この度改めて株式会社MUSINのレンタルサービスを利用して、Onix Mystic XP1をレンタルし自宅試聴しました。

Mystic XP1は実は発表当初から注目していた機種の一つであり、昨年最上位帯のDAPについてある程度確認が済みそこまで惹かれた機種が無かったことから、より一層興味は増していました。
今回の試聴において、比較対象は手持ちのCayin N8 Brass Black(以下N8 BB)やポタアンのCayin C9等を含めたポータブル環境と、据置のメインシステムです。比較構成の詳細は以下の通り。
ゲインについては基本的な音質傾向はそこまで変わらない一方で、上げて行くと明確にノイズが増えるように感じた事、Lowでも私が鳴らしたい機種は十分に駆動出来た事から全てLowで鳴らしています。
1.Onix Mystic XP1(ゲイン:Low)
2.Onix Mystic XP1 LO > Current CSP 943-1(パッシブアッテネータ) > Cayin C9 PO(ヘッドホンパワーアンプモード(以下HPPAモード)、ゲイン:High、Class A動作)
3.N8 BB LO > CSP 943-1 > C9 PO(諸動作条件は2と全て一緒)
4.Audio PC > Focusrite D16R Mk2(Dante接続DDC) > Lavry Engineering DA-N5(DAC) > Jeff Rowland CORUS / PSU(アクティブプリアンプ) > MSB Premier HPA(ヘッドホンパワーアンプ)
評価に使ったヘッドホンはFocal Utopia(自作ケーブル)、イヤホンがfinal 糸竹管弦(Time Stream Cable)です。
なお、出力はLine Out(以下LO)もPhone Out(以下PO)も全てバランスです。
因みに、Mystic XP1のLOは厳密に言うとプリアウトです。今回は、音量を最大にすることで疑似的にLOとして動作させています。なお、ゲインはLOには関係なくPOにのみ作用する様です。
またPOについては、簡単な比較時点でN8とMystic XP1の基礎性能で明らかな差があったので、今回は厳密に比較していません。
Mystic XP1の外部給電モード(附属の電源を使用)については、POとLOの音質評価で一緒に触れます。
【使い勝手等】
基本的にはAndroidもくはiOSアプリのEdict Playerを使用してペアリングするかUSB接続して(USBDACとして)使う事となり、いずれにせよ別途コントローラもしくはデジタル送り出し機となる機種が必用です。
ポータブルで使うのならばスマートホンもしくはタブレット、据置ならばそこに加えてPCが選択肢という事になるでしょう。ポータブルでも、一応ラップトップPCという選択は有りますが。
Edict Playerを用いたペアリングについては、マニュアルを見ずにたどり着くのは困難ですが、見れば迷う事は無い位簡単と言う塩梅です。
Edict Playerの操作に対する反応については大きめのレイテンシがあり、単に音楽を聴くというだけならば我慢できる範囲内ですが、今回私がやったように比較試聴するなど頻繁に操作を行う場合には割とストレスが有るレベルです。
UIについてはやや簡素ではありますがある程度現代風にはなっており、個人的には充分操作し易い部類だと感じます。
【POの音質】
帯域バランス
周波数レンジ的な高域方向と低域方向への伸びはそこそこ頑張っています。価格を考えれば充分に健闘していると言えるでしょう。
概ねフラットバランスではありますが、若干低域の量が大目に感じます。
音場
音場の広さは広大という程ではありませんがそれでも十分広い部類で、上下左右のバランスは良く奥行き方向もそこそこ頑張っています。
ポータブルとしてはというエクスキューズは必用ですが、最上位帯を含めてもかなり高いレベルにあると言って良いです。
定位に関しても良好で、特に違和感を覚える事は有りませんでした。バランス駆動においても左右の音場がちゃんと繋がっているのも好印象です。
総じて音場関連の能力は高い方だと言えるでしょう。
分解能
音を分離する能力は高く、音が混濁するようなことは有りません。後述しますが音の輪郭を特に強調せず自然に処理していて分離しているので、きちんと地力がある事が分かります。
情報量についてもそこそこ頑張っている印象で、微細領域もある程度拾い上げてくれます。
勿論厳しく見れば音場の周辺情報が充分とは言えない、音の余韻の処理に唐突感が有るなどの傾向は見られますが、価格も含めて見れば大いに頑張っていると言えるでしょう。
総じて分解能は高いと言って良いと思います。
音の描写
音の背景の静けさが非常によく、かと言って塗りつぶしたような質感でも無くちゃんと空間を描写出来ており好感が持てます。
音そのものの描写に関して輪郭を殆ど強調しておらず自然に処理している点は、ポータブル機の中では明確に優位な点と言えるでしょう。
音色もある程度描写してくれますし、脚色や色付けなども特になく、かなり真面目な音作りです。
但し低域の描写がやや苦手で、量感こそある程度ある物の、重く充分に動かない印象があります。
鈍重とまで言うと言い過ぎだと思いますが、やや重苦しさを感じる面は否めません。質感についてもそこまで良いわけでは無く、実体感がやや希薄です。
これがやや暗めな印象を与えている面は有るかもしれませんが、基本的に音色そのものが暗いという事は無く、またある程度の自在性もあります。
総じて言うと多少の欠点はあれどある程度高い基礎性能を持ち、全体的には奇を衒わずバランスよく纏めている印象です。
低域については個人的にはそこまで気になりませんし普通に割り切れる範疇ですが、重視する人にとっては明確なウィークポイントだと感じるかもしれません。
POの音質のまとめと外部電源供給時の変化
全体的に高い基礎性能を持ちながら、強調感の無い自然な描写を目指しているという印象です。低域の描写については許容度の違いで感じ方が変わりそうなので、その点は要確認事項です。
一方で、外部電源供給にするとこの印象はかなり変わります。
低域についてはきちんと動くようになりますし質感もある程度改善されます。また、全体的に見て情報量も改善していると言って良いでしょう。
ですが、中域と高域が暴れる一歩手前になっており、音源によっては破綻する事がしばしばあります。
明らかに刺さる音や痛い音、聴いていて強調感のある音も増え、自然な描写という印象はほぼ無くなりじゃじゃ馬的な印象が強くなります。
恐らく一つ一つの要素を個別に点数を付け、それら全部足し合わせた点数ならば外部電源供給時の方が高い点数を取っているのかもしれません。
ですが全体的なバランス、音作りの自然さと言う意味合いにおいては、個人的には圧倒的に内部バッテリー駆動の方に軍配が上がると感じますし好みでもあります。
【LOの音質】
LOの音質について基本的な傾向は同じですが、私のポタ環境と合わせるとより自然な方向にシフトし、基礎性能も向上します。
内部バッテリー駆動の状態でも低域の描写はある程度改善されますが、重くあまり動かなくなった物がある程度動く様になったという程度で、ちゃんとグリップしているという程ではありませんし実体感も少し弱いままです。
この辺りはC9を持ってきても充分には改善できない様です。また、若干量感が減りよりフラットバランスになりますが、質感も含めるとそれが逆にやや不足気味に感じる人もいるかもしれません。
とは言え全体的なレベルは非常に高く、N8 BB LOと比較しても基礎性能の差は大きいと感じます。
背景の静けさは一聴して分かるほどMystic XP1の方が静かですし、比べて聴くとN8 BBの方は脚色や色付けにより音色を作っている部分が多い事が改めてはっきりと認識されます。
外部電源供給モードはLOの音質にも影響が有るのか不明だったのですが、実際に試してみると割と影響は大きかったです。
特に低域の改善についてが大きく、ちゃんとグリップしていると感じられる低音が出ていますし、質感についての不満もほぼ解消されました。
一方でPOの際にあったような中域と高域への影響は見られず、全体的に余裕が増し、情報量も改善している印象で、純粋に基礎性能が向上すると判断して良さそうです。
個人的には、今まで試してきたポータブル環境の中で、最も納得感のある音が出せていると感じます。内部バッテリー駆動だと多少基礎性能は下がってしまうかもしれませんが、それでもなおその印象は揺るぎません。
勿論据置環境と比べてしまう依然として基礎性能の差は大きいですが、感じる違和感が最も少ないのですよね。言い換えると、一番私の据置環境と相似している音と言えるのかもしれません。
【まとめ】
POもLOも非常にレベルが高くまとまっていると感じ、個人的にはポータブルの中であれば最上位帯DAPと比較しても充分に選ぶ理由のある機種だと感じます。スマートホン等とのペアリングが前提とはいえ、再生母艦としても使用可能ですしね。
特に一定以上の基礎性能を確保しながらも、音色の描写において強調感の無い自然な描写を求める場合、音の輪郭を際立たせない描写を求める場合等には、非常に有力な候補となるでしょう。
純粋な基礎性能についてもそこまで引けを取るものでは無く、これが23万円を少し切る程度というのは非常にコストパフォーマンスが高いと思います。
少なくとも私が出会ったポータブル関係の機種の中では、最もコストパフォーマンスが高い一つだと言って良いと思います。
当初私は設計等を見てこの機種について大いに期待しながらも、常に払拭できなかった懸念点として「ブリティッシュサウンド」という物を前面に押し出していた事があります。
そもそもこのブリティッシュサウンドという物に共通した理解が有るようには思えませんし、こういう「~サウンド」という物はそういう風に色付けした音と言う事が多いと感じるからです。
レビューなどを見てもどうもこの言葉に引っ張られているように感じる物が散見され、陰影の付いたとか暗めの音という言及が多かったように思います。
実際に試聴してみるとその辺りの懸念は奇麗に払拭されました。個人的には、このブリティッシュサウドという謳い文句はむしろ出さなかった方がもっと注目されたのでは?とすら思います。
2024年からポタ環境にある程度力を入れ始め、現時点において残す大きな課題は送り出しとDAC部分という状態になっていました。
そこから店舗での試聴やレンタル試聴などを重ねてきましたが、中々納得の行く機種は有りませんでした。
勿論能力の高い機種はハイエンド帯には有りましたが、気になる点が無いわけでも無く、N8 BBからのリプレイスに値する程とまでは感じなかったのです。
ですがMystic XP1についてはようやく納得のいく機種が見つかったという感じで、導入する事はほぼ確定している状態です。後は据置環境の優先順位との兼ね合いで、いつ買うか位です。
なお、この決定は勿論コストパフォーマンスが最も優れているという面もありますが、純粋にパフォーマンスだけの観点から見ての決定でもあります。個人的な判断基準が大きい面もあるとは思いますが。
LOの音質が優れている事もそうですが、単体としてのPOの音質も秀逸かつ好みで、私の使用条件と合致する事も大きいです。
個人的にはこれでほぼポタ環境としては完成に近いと感じています。後は、最近発表され近日中の発売が予定されている、final A10000を導入するかどうかの判断が残っているくらいでしょうか。
これについては試聴してから判断予定ですが、その試聴に納得のいく環境をもって望めるというのは結構大きいと感じています。
まだはっきりと決まってはいませんが、秋頃に東京に行くと思うので、その際に確認できればと思っています。
まあ、A10000に関しては仮に凄く良いと感じたとしても優先度としては高くならないので、導入に動くとしてもかなり先の話だとは思いますが。