私はオペアンプ交換可能を謳う機器が嫌いで、購入対象になりません。アンプボードなどの一部基盤が交換できるものも好きではありません。
今回はその辺りについて、特にオペアンプ交換について思う所をちょっと書いてみようかと思います。
1.オペアンプ交換式にする事の代償
さて、オペアンプについてはデータシートを見れば分かりますが、その特性は当然一様ではありません。
もちろんその辺りの特性値が概ね似通っている、一定範囲のオペアンプが交換対象とされていますので(それを指定しないのは論外)、その範囲内なら一応問題は起こらないでしょう。
ですけど、その為には一定程度のマージンを持った設計にしなければなりません。言い換えれば、回路の最適化をある程度諦めなければなりません。
アンプとしての動作、音質に関する最適化もかなりの部分を諦める事になるでしょう。
それぞれの好みによって音質を選択できると言えば聴こえは良いですが、最適化すれば得られる結果よりも低い所で種類を選択出来るに過ぎない事が大半なのです。
もしオペアンプを交換したいのならば、それに伴い回路全体を調整できるレベルでなければ、大した結果は得られません。
実際にこの手の事を据置HPAで試したこともありますが、最終的な結論としては「ほとんど意味が無い」という所に落ち付きました。
オペアンプを交換するだけで得られる対価は、最初の方こそ一喜一憂しますが結局は限界がある事に気が付きますし、その一方で手間は結構かかるので割に合わないのですよね。
似たような思想で別ジャンルではありますが、DIYの工具で一台で何役もこなせるマルチツールという物があります(刃を変えるだけのマルチツールとは別物です)。
これは機器の一部機構を取り替えることでドリルにもサンダーにもなる……というような機器で、初心者が惹かれがちな製品でもあります。
けれど、ある程度DIYに取り組んだことのある人で、これを勧める人はまずいません。
結局使う時は1役しかこなせない事に変わりは有りませんし、別の機能を使いたい時にいちいち変更する必要がありそれはそれで手間だからです。
そして何よりも大きな理由は、マルチに動くよう設計しているために個々の性能が低くまた精度も出にくいという事です。
他にも、頻繁に交換せねばならないという構造が、必然的に脆弱性を生みやすく壊れやすくなるという面もあります。
もっと極端な例を出すと十徳ナイフでしょうか。1万円程度の結構良い物(Victrinox)を持ってますが、緊急避難的なケース以外マジで使わないと言うか使えないです。
こういった何物にもなれ便利に見えるような物は、結局はどれをとっても性能が低いというのが殆どの場合の実態なのです。
2.アンプボード交換式が好きではない理由
これについては実際に購入して試したことは無いのですが、少なくともオペアンプ交換式程は忌避していないです。
もし音質を好みによって選択したいのならば、回路全体を入れ替えなければだめという発想で、むしろ現実的な落としどころとしてはここしかないかなとも思います。
それにも関わらずあまり好きではないのは、私が観察する範囲でこういったアンプボードの開発や更新を継続した事例がほぼ無いからです。
機器が発表された当初からまあ1年くらいの間に数種類が発売されて、後はほったらかしに見えることが大半に思います。
少なくとも私は、そういったアンプボードの中身が改良された次のバージョンが発売されたのを見た事がありません。
と言いますか、その前に本体の更新が来るので、態々旧機種のアンプボードの開発継続なんて事はしていられないのでしょう。
新機種用に開発されたアンプボードが旧機種にも使えれば良いのですが、それ自体が互換性の問題で開発の足かせになるでしょうし、何より新機種の売上の足を引っ張るでしょうから、現実的には難しいでしょう。
とは言え、ある程度選択の幅が持てる事自体は確かなので、選択肢としてアリかなとは思います。逆に言えば、得られるメリットはその程度であるとも言えます。
付随する問題として、本体+数種類のアンプボードを揃えるお金があれば、全部合わせれば上位機種買えるんじゃね?というのも有りますね。
3.実は手持ちの機種でも好きでない所はあり
私の手持ちだとCayin N8 Brass BlackやC9の仕様についても、同じ様な理由であまり好きでない部分はあります。
それは真空管とトランジスタと切替式になっていたり、動作でA級とAB級が選べるといった仕様です。
ユーザーが選択できるというメリットはありますが、言い換えれば冗長であるという事でもあり、トータルで考えればクオリティの低下を招いているのではと感じてしまいます。
使用目的と照らし合わせて総合的に考えた結果購入したのですが、この部分についてはそこまで褒められる部分では無いと思っています。
真空管出力の方は、両方ともあまりガチ聴きしない、ガチ詰めしないという条件において、味変要素としてはそこそこ有用ではあります。
言ってしまえばその程度であり、個人的にはそれならどちらかに絞って最適化した方が良かったのでは?というのが現在の認識です。
また真空管出力については両機種とも、一定以上の領域で詰めていこうとすると基礎性能の面で厳しく、長所よりも短所の方が明らかに目立ってきてしまうために、実質的に選択できなくなるという面もありますので猶更です。
また余談ですが、他社の真空管出力を備えた機種をいくつか聴きましたが、Cayinを含めステレオタイプな真空管の音を出すよう設計されていると感じ、あまり好きではありません。
少なくとも現状においては、あくまで味変あるいは搦め手的な要素であり、真っ向からの音質追及として捉えるには厳しいというのが私の認識です。
個人的には、そう言う手段として真空管採用するくらいなら、トランジスタ出力あるいは真空管出力のどちらかに絞り、その分最適化とクオリティアップを頑張って欲しいというのが正直なところ。
とは言えそんな事開発者は百も承知で、そうやるより選択肢を複数準備する方が売上が良いのでそっちを選択しているのでしょうが。
よくこの手の機器の売り文句として、未知の可能性や多くの選択肢を提示されることが通例です。
ですけどオペアンプ交換の場合は特にですが、一定の範囲内でひたすらぐるぐる回っているような物で、少なくとも先を目指せるような物ではありません。
選択肢の幅と言う意味でも、実際の所は開発者の胸先三寸である事が多く、また限られた選択肢しか与えられないというのが現実だったりします。
そういう訳で私はこの手の機器に関してはかなり冷めた目で見ることが多いです。と言いますか、その時点で余程の特異性が無い限り選択肢から外れます。
まああくまでこれは私の価値観でしかありませんが、そこに可能性を感じて賭けたいと思っている人には、もうちょっと冷静になった方が良い、売ってる側やメディオの言い分はもう少し疑ってかかった方が良い、とも思わずにはいられないのです。