Shanling M9 Plus レンタル試聴レビュー

 株式会社MUSINのレンタルサービスを利用して、Shanling M9 Plusをレンタルし自宅試聴しました。

 今回はそのM9 Plusの音質について試聴レビューを行います。なお、後日MUSINのレンタルサービスについての使用感なども記事にしたいと思っています。
 比較対象は手持ちのCayin N8 Brass Black(以下N8 BB)やポタアンのCayin C9等を含めたポータブル環境の全てと、据置のメインシステム(リファレンス用途)です。比較構成の詳細は以下の通り。
 評価に使ったヘッドホンはFocal Utopia(自作ケーブル)、イヤホンがfinal 糸竹管弦(Time Stream Cable)です。
 なお、出力はLine Out(以下LO)もPhone Out(以下PO)も全てバランスです。

1.M9 Plus PO(Extra Turboモード)
2.N8 BB PO(ゲイン:Mid)
3.M9 Plus LO(Extra Turboモード) > Current CSP 943-1(パッシブアッテネータ) > Cayin C9 PO(ヘッドホンパワーアンプモード(以下HPPAモード)、ゲイン:High、Class A動作)
4.N8 LO(ゲイン:Low) > CSP 943-1 > C9 PO(諸動作条件は3と同一)
5.Audio PC > Focusrite D16R Mk2(Dante接続DDC) > Lavry Enggineering DA-N5(DAC) > Jeff Rowland CORUS / PSU(アクティブプリアンプ) > MSB Premier HPA(ヘッドホンパワーアンプ)※純粋な比較対象では無く、あくまでリファレンスとしての比較用

 また、M9 Plusの出力についてはLOとPOでかなり印象が変わりますので、まずはPOについての評価を記載した上で、そこと対比する形でLOの音質について別途記載します。

【POの音質】

帯域バランス
 周波数レンジ的な高域方向と低域方向への伸びはそこまで良くありません。
 出ていないという程ではありませんが、中域のエネルギー感が強いのも相まって、厳しく見ればややかまぼこ的に感じます。

音場
 音場の広さは横方向には広いですが縦方向に狭く、奥行きもあまり良くありません。
 形状も歪さが気になるレベルで、この価格帯のDAPとしては明確にウィークポイントでしょう。
 定位に関しても縦に狭い音場の為か上下が圧縮され、本来上方や下方に定位するべき音が中間帯に定位する事がしばしばあり、本来の定位を知っていると違和感を持つ事が多いです。
 また、中域(特にボーカル)が不自然に前に定位する事もあり、それは長所では感じる人もいるかもしれませんが、個人的にはその範囲を逸脱しているレベルだと思います。
 総じて音場関連の能力はあまり高くないと言えます。

分解能
 音を分離する能力は高く、音が混濁するようなことは有りません。音の輪郭がかなり強調されているので、ぱっと聴いた印象程の分離能力は無いのですが、地力が無いわけではありません。
 情報量についてはかなり頑張っている印象で、微細領域(特に空間の周辺情報)もある程度拾い上げてくれます。
 音と音の間の空間に何も無いという断絶はありませんし、その為左右の音場もちゃんと繋がって聴こえるのは好印象です。
 厳しく見ると最上位帯のDAPでも、左右の音場の繋がりが悪い機種は普通に有るので、この点については明確なストロングポイントとなるでしょう。
 総じて分解能は高いと言って良いと思います。

音の描写
 まず、音の背景の静けさが非常によく、これはN8 BB POと比較すると一聴してすぐに差があると感じます。
 音そのものの描写に関しては輪郭にかなり強い強調があり、かつ硬直的でしなやかさに欠けるきらいがあります。その為に、特にアコースティックな音源に違和感を感じる事が多いです。
 情報量の拾い上げという意味での音色は割とあるのですが、輪郭の強さや硬直的な質感(自在性の無さ)が悪影響を与え変質させている印象です。
 大きく違和感を感じるのはピアノ、中域~中高域の打楽器(タムや小太鼓、バチを打ち合わせる音など)辺りでしょうか。特にピアノに関してはかなり固い質感で辛いです。
 また、急激なダイナミクスの変化が多い楽曲、例えば私の手持ちだと中川統雄氏の「アンティキティラの機械」では変化に追従できず、破綻する部分があります。
 DAPに能力を求めすぎではと思われるかもしれませんがそれを考慮した上の話であり、N8 BB POは充分と言えないまでも破綻なく纏めてはいるので、やはり弱点といって良い点でしょう。
 総じて言えば、音色に独自の色を乗せる事はあまり無い物の、輪郭の強調具合を考えると脚色は小さいとは言えず、常に硬い質感であるなど自在性に欠ける面もあり、あまり音の描写に優れているとは言えません。
 この点に限って言えば、N8 BB POの方が遥かに自然に上手くまとめています。

駆動力
 駆動力は高く、手持ちの中でこれをちゃんと駆動出来たら結構駆動力は高い方だと考えているKennerton Throrもしっかりと鳴らせています。制動については先に上げた急激なダイナミクスの変化を除けば、概ね問題の無い範囲だと思われます。
 大体同じくらいの価格で一体型の据置を考えた時、私が聴いた事のある最近の機種はYAMAHA HA-L7A位ですが、HA-L7AはThrorを適切に駆動できていなかったので、それと比較しても明確に高い駆動力を持っていると言えます。
 Extra Turboモードは伊達ではありませんでした。

POまとめ
 情報量の多さやノイズ感の少なさ、駆動力の高さなど素性の良さを感じさせる面はあるものの、脚色や欠点も多く、最上位帯の中ではかなり癖の強い方(しかも概ね悪い意味で)という印象です。
 比較対象としたN8 BB POもそこまで忠実路線のDAPという訳ではないのですが、私の据置リファレンスと比較しても明らかにN8 BB POの方が自然で上手くまとめています。
 個人的にM9 Plus POの音質傾向はかなり辛く、単体運用は厳しいというかぶっちゃけると無理と感じるレベルです。

【LOの音質】
 M9 PlusはPOに関しては芳しくありませんでしたが、これがLOになると一変します。
 今回比較試聴した構成は先にも記載した通り、N8 BB LOもしくはM9 Plus LO > CSP 943-1 > C9 HPPAモードという構成です。
 POであった輪郭の強調は奇麗に消え去り自然な表現で、質感についてもちゃんと自在性があり、上下方向や奥行きの音場の狭さも解消され形状も自然になります。
 急激なダイナミクスの変化についても全く問題が無くなります。流石に据置の構成に比べれば差はありますが、ポタとして考えればかなりの物だと思われます。
 POにあった違和感や欠点がほぼ完璧に消える、むしろ物によっては一転して高い能力を示す一方で、ノイズ感の少なさ、情報量の多さと言った長所についてはそのまま存分に発揮されます。
 やや音像が拡散気味になる気もしますが、そこまで大きなものでは無いので私としては充分に許容範囲です。気になる点は本当にそれ位で、後は非常にバランスよく高いレベルでまとまっていると言えます。
 昨年東京に行った際に試聴したAstel & Kern、Lotoo、Cayin、HiByMusicの当時最新のフラッグシップのLO性能は、N8 BB LOと比較すると確かに良くはなるけれどそこまで差は大きくないという印象でしたが、M9 Plusだと明確に差があると感じます。
 最近出たDAPのフラッグシップ含め聴けてないDAPは多くありますが、それでもDAPのLO性能としては、M9 Plusは極めて高いレベルだと言えるのではと思います。

【総合まとめ】
 とにかくLOの音質は非常に素晴らしく、私のポタガチ環境に組み込むと不満はほぼ無くなります。
 勿論上を見ればきりがありませんが、これ以上を求めるとなるとDAPの更新だけでは恐らく無理で、全ての構成を一から考え直しのレベルになります。
 そうなるとまだ聴いた事はありませんがFUGAKUを検討した方が話が早い気もしますし、そもそもN8 BB LOをM9 Plus LOにリプレイスするだけで、今の所私がポタでたどり着きたいと感じた領域には概ね到達できています。
 それ故に非常に魅力的な機種ではありますが、返す返すもPOの出音が残念でなりません。
 LOがちゃんとPOと分けられているのか、それともPOのボリュームを最大にしているだけなのかは不明ですが、もし前者ならばヘッドホンアンプ部の造りに、後者ならばポテンショメータ(ボリューム調節機構の部品)に何らかの瑕疵があるものと判断しています。
 先にも書いた通りM9 PlusのPOは個人的にかなり厳しいので、もし購入する場合は買い増しとなり、N8 BBと2台使いという事になります。
 私のポタガチ環境はそれなりに大がかりで、気軽に持ち運びや運用が出来るものではありません。ガチの試聴を行う際はまだしも、移動時に音楽を聴く用途ではDAP単体での運用が基本です。
 それ故に、例えば東京に行ってヘッドホン祭等のイベントに参加する事を考えた場合、N8 BBとM9 Plusの両方を持ち出さねばならなくなり、それは個人的には避けたいです。
 また、使用頻度や価値観的にも、LOの為だけにDAPを買い増すというのはかなり辛いので、今の所購入検討にまでは至っていません。これが、N8 BBと同等レベルのPOであればかなり真剣に購入検討をしていたと思われます。
 しかしながら、ShanlingのDAPに関して言えば、DAC性能は期待できることが分かったのはかなりの収穫でした。
 そういう訳で、N8 BBからのリプレイス候補として、Shanlingの次世代のフラッグシップに期待したいところです。