日記 私が基本的に買わないオーディオ機器

 私はメインシステムに導入するオーディオ機器を購入する上で様々な基準が有りますが、その根本的な所、最も基礎的な所に「積み重ねになる事」という考え方があります。
 経験と言う意味でもそうですし、オーディオシステムと言う意味でもそうです。これは、私が競技スポーツをやっていた影響が大きいと思います。
 よく世間一般では才能どうこう言われたりしますが、天才と言われるような人は、その実最も己の競技に時間を費やした人というのが大半だったりします。
 またこれはちょっと違うジャンルですが、飛行機のパイロットの実力や経験を表す際も、大抵の場合フライト時間を使います。これも、費やした時間が何よりも信頼に足ると判断している例の一つでしょう。
 加えて、経験が積み重なるほど、自らの技術について一度に多くの個所を変更する事は殆どありません。
 これは、余りに多くの点が変化してしまうと、良くなった部分や悪くなった部分が、どの修正点に対応しているかが判断できなくなるからです。
 ストーリーとして分かりやすいので、ドキュメンタリー等では大きな決断やドラスティックな変更などに焦点が当てられますが、実際の所小さな修正を地道に積み重ねている事が大半です。
 そういった訳で、修正を細かに繰り返す事、自らの資産となるような積み重ね方をすることを重視している訳です。

 その観点から行くと、どうしても導入する事にネガティブになってしまう商品が存在します。
 その中で、私が一度は検討したものの、先に上げた価値観において導入を見送った、あるいは今後も音質追及あるいはメインシステムに導入する予定のない商品を一部挙げてみましょう。

・Sonoma Acoustic Model One及び会社名変更後のWarwick Acousticsのシステム(静電型ヘッドホンシステム)
Sony SA-Z1(アクティブスピーカー)
・Goldmund THA及びTHA2(ヘッドホンアンプ・DAC複合機)
TWSと言われている製品のほぼ全般

 これらの共通点が分かるでしょうか?ぱっと見は複合機かなと思われるかもしれません。
 それも正解ではありますが、より厳密に言うと、「音質に寄与するコンポーネントのほぼ全てを変更する事の出来ない製品」です。
 例えばTWSイヤホンは大抵の物はデジタルデータの受信、DAC、アンプが一体となったチップを使っており、更にそれがイヤホンやバッテリーと一体となっているために、これらの要素を変更する事が出来ません。
 TWSにおいて変更できるのは送り出しのみであり、それ以降を変更したければTWSそのものを変更する、いわばシステム全てを変更する必要があります。
 因みに一部製品は除くと書いたのは、一応広義にはヘッドホンも含まれ、更にその製品が有線接続を可能とすることも原理的には出来るからです(これは一応イヤホンでも可能ではある筈)。
 とは言え、それをやるメリットは性質上ほぼ無い、市場のニーズも恐らくない、という事で多分滅多には出ないとは思いますが、100%とは言い切れないのでほぼと書きました。

 SonomaやWarwidkの静電型ヘッドホンシステム、Sony SA-Z1、Goldmund THAやTHA2も性質的に同様です。
 前二社は内部のDSPによる補正、DAC、アンプ、そして発音帯であるヘッドホンやスピーカー等が一つの系となっており、それらを変更する事が出来ません。
 一応SonomaやWarwickのシステムはヘッドホンだけ変更可能ですが、仕様上同社のヘッドホンしか使用する事が出来ず、選択肢も極めて限られているので実質的にほぼ変更できない事と同義です。一応同社から新製品が出た時は変更可能な点はまだマシでしょうか。一方のSonyの方はどの要素も完全に変更不可です。
 THAとTHA2はDAC兼ヘッドホンアンプなので、繋ぐヘッドホンを変更できる分この中ではまだ汎用性が高い方ですが、それでも機器に含まれている要素を変更できない点は同じです。
 仕様を見てアナログ入力があるじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、これは接続可能なだけで解決策にはなりません。
 何故ならばここで挙げた製品はどれもデジタル領域での補正を前提としたシステムであり、そこをバイパスする事が出来ないからです。
 その為にたとえどれ程良いDACからアナログ入力に接続したとしても、それは全て内部でAD変換されDSPに渡され、後はデジタル入力した際と同一の経路を辿るので、音質を劣化させることは有っても改善に繋がることはまず無いのです。一応味変要素にはなるかもしれませんが、言ってもそれ位でしょう。
 回路に詳しい人ならば直接回路にアクセスし、アンプ部だけを使うように改造する事も可能かもしれませんが、それを言ったら何でもありになってしまうので、まあ実質的に不可能と言って良いでしょう。
 余談ですけど、仕様を見るだけだとはっきりしないのですが、動作を見るにYAMAHAのHA-L7Aも同様な気がしています。全く買う気が無いのにサポートに質問投げるのもなあと思って、確認はしていないのですが。

 こういった製品は本当に手を入れられる箇所が無いので、一つの製品を買うというよりは、一つのシステムを買うという事になります。
 仮にもし購入後に変更したい箇所が出てきた場合、その中の一部の機能を使う事は基本不可能なので、また一からシステムを組み直す必要があります。
 一般的な複合機だとここまで縛りが強い訳ではない事も多く、その中の一部だけを使う事も可能だったりするので、部分的なステップアップも出来るんですけどね。
 特にTWS以外に挙げた製品はどれもかなり高価な部類なので、少なくとも私にとってはおいそれと買える物ではありませんでした。これがTWSイヤホンの様に大抵の機種が一桁万円で済むのなら、経験を買うと割り切る事もまだ出来るのですが。

 また、別の視点として製品をとっかえひっかえする事もほぼ無く、メインシステムに導入する場合は殆どの場合どんなに短くともとも数年は使い続けますし、基本的に5年以内に入れ替える事はあまりありません。
 メインシステムにおいて構成要素を大別した時に、デジタルの送り出し、DAC、アンプ、そしてヘッドホンとなり、一年で一つ更新したとしても入れ替え頻度は4年ごとになりますので、まあその位の頻度になるよねえとは思います。
 結構早くに買い替えた機種だと、最近ではXI Audio Formula S1とChord Electronics Indigo位でしょうか。とは言えこれらも、買い替え先に時限的な要素(一方は値上げ、もう一方は中古品で一点ものだった事)さえなければもっと長い期間使っていたと思います。
 この傾向はヘッドホンで40万円超、その他のアンプやDAC等で数十万~百万円オーバーの機種を組み込んだあたりから、金銭的な意味も合わさってより顕著になっています。
 とは言え金額を度外視したとしても、このクラスになると音質の把握、そしてその伸びしろの把握、使いこなし等についてそう簡単に出来る物でも無いので、このサイクルはこれより早くなることは無いかなと思います。

 システムの中で唯一の例外となり得るのは、送り出しにPCを使っている場合のPC位でしょうか。
 これも私はそんなに頻繁に買い替えあるいはパーツの変更をしたりすることは無いのですが、各種性能は1年程度でも大きく上がる事が多く、組み合わせも膨大なので、1年あるいはもっと短いスパンでの変更もアリだとは思います。
 ですけどそれでも検証時間がかかるのは同じなので、私個人としては、余程時間を費やせない限りやっぱり変更頻度はそうそう上がらないだろうなと思っています。