先日Roonの主な使い勝手等について、試用して感じた事を書きました。
その際に、最後の総評で「私の音楽鑑賞スタイルがソフトウェアの思想と合っていない」と書きました。
では、私はRoonが一体どのような音楽鑑賞スタイルを想定して開発されたと読み解いたのか?という部分を今回は書きたいと思います。
その上で、もしRoonを有効に活用していきたいなら、これは必須だろうと思う要素が二つあります。
1.これまでそれなりの数の音源を購入し自己の資産として所有しており、かつPC内に取り込みライブラリを構築している事
2.Roonと連携できるサブスクリプションサービス(以下サブスク)を最低でも一つは契約し、連携する事(日本では基本Qobuzのみ、抜け道はあるけど)。
さて、実際にRoonを使い設定項目を触っていると、メタデータの部分で非常に多数の項目が設定可能になっている事に気が付きます。
画面内に収まらないのでこれだけしか表示していませんが、実際にはアルバム関連の設定項目などもあり、もっと多くの設定項目があります。
では、楽曲を再生するときの画面はどうなるか?
この画面で様々な項目にマウスオーバーしてみると、アーティスト名、ジャンル名等クリックできる箇所が多い事に気付きます。
これらをクリックすると、自分のライブラリ内の同傾向のアルバム、サブスク内で同傾向や同ジャンルでの新曲、お勧めのアルバム等が表示されます。
また他にも、ホーム画面においては自分が良く聴いている楽曲の統計をリスト化して表示したり、そこからお勧めのアーティストやアルバム、あるいは新譜が表示されたりもします。
更に、自分のライブラリにある楽曲等を参考にプレイリストが作成されサジェストされたりといった機能もあります。
取り敢えず使ってみて、最初に感じるのはこの辺りの機能の強みでしょう。
つまりは、自分のライブラリとサブスク内の情報を結びつけて、サジェストする機能があるという事です。またその垣根もほぼ無いに等しく、混然一体となって利用する事が出来ます。
また一からサブスクを開始するのと違い既に自分のライブラリが存在しているので、サジェストを「育てる」手間も大幅に軽減されるでしょう。
これだけでもサービスとして唯一無二性はあるのですが、とは言えここまでなら通常のサブスクを利用していているだけでも似たような仕組みは用意されています。
次に、再生している画面のクレジットをクリックしてみます。
すると、そのアルバムに参加している演奏者、作曲者などが全て表示され、それらが全てクリック可能になっており、その演奏者が参加している他の楽曲(全く別のアルバム、アーティストでも)に飛ぶことが出来ます。
どういう事かと言えば、飛んだ先のページのディスコグラフィを見ると、その人が関わっているアルバムが全て出てきます。これはかなり驚きました。
今度はクラシックの楽曲で同様にクレジットを見てみます。
これはカラヤン指揮のHolst:The Planetsを収録した物ですが、指揮者、楽団、合唱団、作曲者のみならず、そのアルバムの制作に携わったプロデューサーやミキシングエンジニア、果てにはライナーノーツを書いた人物や翻訳者、写真家まで表示されています。
そして驚いたことに、これら全ての人物においても同様に参照することが出来て、その人物が参加しているアルバムを探す事が出来ます。
ここまで書けばお分かりでしょうか?つまり、Roonに置ける多機能性は、その殆どが「新たな楽曲との出会い」、「未知との邂逅」といった音楽体験を広げていく事に割り振られているという事です。
そして、その為のスタート地点が、一般的なサブスクとは比べ物にならないほど膨大に用意されています。
私が前提条件に挙げた二つは、ここがRoonの思想の根幹であると感じが故に挙げたものです。
もしサブスクを契約せず、自分のライブラリを再生するだけだったならば、これらの機能は殆ど無用の長物と化します。
自分のライブラリ内で思わぬ繋がりが発見できる可能性はありますが、言ってもそれ位で態々高いお金を払ってまでするものでは無いでしょう。
逆に自分が所有しているライブラリが無いもしくは殆ど無いのであれば、楽曲情報はサブスク内にしかない訳で、それなら普通にサブスクを利用するだけでも、Roon程の広がりは得られなかったとしてもサブスク側の用意しているアルゴリズムでけで殆どの人の需要は満たせると思います。
ですが上記二つの条件を満たしているならば、自分の構築したライブラリからRoonを使い連想ゲーム的に多様な方面に広がりを持たせることが可能で、かつてない程の広がりを得ることが出来るでしょう。
それと同時に、自分が興味を持った所をスタート地点とすることで、何も結果が得られませんでしたという可能性を低減してくれるのではないかと推測されます。
私はこれまでサブスクサービスを試しては解約して、という事を繰り返して来ました。
その中の理由の一つに、「サブスクのサジェストが全く自分に合わない」というものがあります。
世間ではそれなりに評価を受けているサービスでも、実際に使ってみると殆ど琴線に触れるものが無く、徒労に終わるという事が少なく無いと言いますか殆どでした。
かと言って、サブスク内には膨大な楽曲数があり、自らの力のみで新たな楽曲との出会いを探すというのはかなり非現実的です。
さりとて、サービス主体側が用意したアルゴリズム以外に楽曲を掘り進める仕組みがあるかと問われれば、それは少々難しいというのが現実だったと思います。
ですがRoonが提示する方法は、現在の様々なサブスクのサービスよりも更に一歩先に進んだものであり、全く新しい音楽体験を提供する一つの解となり得るものだと感じます。
Roonは、とにかく楽曲に含まれるあらゆるメタデータに繋がりを付与し、ユーザに選択肢(スタート地点)を多く用意することで、出会いのランダム性は可能な限り維持しながら、より良い出会いを引き寄せる可能性を上げることに極めて多くのリソースを使っているように見えます。
まだ試用して短い期間ではありますが、確かにこの仕組みを上手く使いこなすことが出来れば、これまでのサブスクよりも高い確率で、これまでの音楽鑑賞スタイルからは大きく飛躍した広がりを得られるのだろうと思います。
まあ仕組みを考えると、使いこなすというよりはむしろソフトの思想に自分を合わせていくといった表現がより合致しそうではありますが。
この点から見れば確かに明らかに唯一無二の存在であり、ここに価値を見出せる人ならばその価格はあまり問題にならないでしょう。何せ代替手段がほぼ無いのですから。
とまあ、Roonを可能な限り肯定的に捉えるとこういう感じになりますし、上手く機能する場合は実際の所素晴らしい働きをしてくれると思います。
ですが、完璧なものなど存在しないのが世の常ですし、Roonが提示する方法論も明確に他サービスをリードしているとは思いますが、突出しているかと言われればそこまででは無い印象(少なくとも私にとっては)です。
例えば私が大好きなアイリッシュ系のインストバンドにHarmonica Creamsというバンドがいるのですが、そのアルバムのクレジットを表示しても殆ど項目はありません。
Hrmonica Creamsそのものと、発売元レーベルが表示されて終わりです。
いやそれは明らかに日本のマイナーバンドで不公平だろ、と思うかもしれませんが、クラシックのKrystian ZimermanのChopin Piano Concert Nos 1&2というアルバムにおいても、クレジットは寂しい物です。
Zimermanは現在最も高い評価を受けているピアニストとされていますのでその界隈では有名だと言って良いと思いますし、このアルバムの主役でもありますが、Zimermanその人すら分離されていません。
クレジットに表示されるのはKristyan Zimerman:Polish Festival Orchestraと後はレーベルのみであり、Zimermanその人が参加している他作品を辿る事すら出来ません。
このように、確かにその思想や仕組みは価値あるものだとは思うのですが、上手く機能しないケースも普通にあり、そもそもそこにたどり着く以前の土台がちょっとガタガタ過ぎやしませんか?というのが私の偽らざる思いです。
因みに、ある程度その辺りがしっかりしているアーティストから、恐らくRoon的にはこう使って欲しいのだろうという方法で色々と掘ってもみました。
確かにスタート地点が多数用意されているのは素晴らしいのですが、そこから連想的に広げていく際のサジェスト機能、つまりソフトウェア側のアルゴリズムについては他のサブスクのアルゴリズムと大差ない印象で、かなり粘ってみましたが正直ヒット率はかなり悪かったです。
加えて先日書いたようなQobuzとの連携の拙さや、メタデータ関連の不完全さがあるためにRoon内で完結する事が出来ず、ウェブブラウザ等から調べないといけない事もしばしばで、やはりうーんとなってしまうのです。
せっかくサブスクとオーディオプレイヤーを統合し、そこだけで完結できる利点が結局は棄損されてしまうじゃないかとね。
あるいは、私がもっと未知の音楽を探すことに情熱があって多くの時間を割ける、多大な時間を費やして僅かな成果を見出すことに喜びを感じられるのならば、また話は違って来たでしょう。
ですけど、Roonが提示する方法で未知の音楽を探索するのは、私としては明らかに時間が足りないのですよね。せめて、サジェスト関連のヒット率がもう少し高ければまた話は違ってくるのですが……
勿論より受動的と言いますかライトな使い方、例えばホーム画面に表示されるサジェストを聴いてみるとか、特定の楽曲からRadioを開始するというような方法もあるでしょう。
ですがそれだけでは、これだけの料金を払って敢えてRoonを利用するという価値は薄れますし、そもそもそっちの能力は先にも書いた通り差別化要因と言えるほどでも無いと感じるので、それこそ別に何らかのサブスクを使うだけで良いのではないかな、とも思うのです。
あとこれはRoonだけの問題という訳ではないのですが、Qobuzにある楽曲特に国内のPOPS関連が弱いというのもやっぱり大きいです。私の好きなアーティストトップ3の内1位と2位は全滅ですし、3位もかなり不完全で私のライブラリの方が揃ってるというね。と言うか、何でBump of Chickenレベルで半分も揃ってないの……
もちろんそれはQobuzの問題じゃないかと言えばそうなのですが、そこを連携先として選んだのはRoonですので、ね。
逆に言えば、そういったメタデータやサブスクとの連携の不完全さ、連携できる先の楽曲の未整備具合といった、様々な粗を飲み込んでなお未知の楽曲との出会いの価値に重点を置ける人にとっては、これ程に適したソフトウェアは無いでしょう。
という訳で、Roonはその性質上向き不向きがはっきり分かれるタイプであり、目的も極めて明確なために、そこに合致しない人には単に高価なだけでむしろ不完全さが目立つ、全く価格に見合わないソフトウェアとなってしまいます。
ですが一方で、合う人にとっては確かに価格に見合うだけの、あるいはそれ以上の価値があると言う人がいても、全く不思議ではありません。
個人的にはそうは言っても、それだけのプライスを付けるならば、もうちょっと足元の機能をしっかりしような?と思う面が強かった為に、先日の記事をまず先に公開しました。
あるいはもっと違う魅力があるとか、全然違うという意見があるかもしれませんので、そういった方は是非その良さや使い方を広めていただければと思います。