以前から値上げの話は有りましたが、ついに公式に発表されてしまいました。
私が見かけたのはNiimbus US5 PROが170万円程になるらしいという話で、これでもいやいやご冗談をと言う感じだったのですが、蓋を開けてみればもっと高くなってしまうというね。
更に、ViolectricのDHA V590-2 Proが約132万円、V550 PROが約108万円と実にえげつない値段になるとの事です。
私はこの値段を見た時に、ああもう代理店はこれらを真面目に売る事は諦めたのだな、と理解しました。そもそも廉価帯の製品は、在庫限りで終売にするようですし。
どうあっても利益が見込めないので、それならばもういっそ思い切り値上げして商品が動かないようにして塩漬けにしてしまい、せめて維持管理コストだけでも削ろうとしたのだろうなと。
後はLake Peopleとの契約期間が満了するのを待って、代理店業務を終了するのみという感じでしょうか。
まあ完全に憶測ですけど、そんなに遠くない所に事実が有るのではないかな、と思っています。なお、これが本当に真面目に立て直そうとして取った戦略ならば、貧すれば鈍ずるという言葉がこれ以上ないほどにぴったりな状況だなと思います。
因みに、プレスリリースも読みましたが、それを見てもあまり誠実さは感じ取れませんでした。
Xでもポストしましたが、特に原材料費の高騰はお前何言ってるんだ?と。それって製品を作っているメーカーが言うセリフであって、中間業者である代理店が言う言葉じゃないです。
それを理由に本国で値上げがあったのならまだわかりますが、昨年の9月ごろに私が書いた記事の価格から、本国公式ECでの価格は殆ど変わってません。
今回挙げられている製品は、US5 PROは据え置き、US5は100ユーロの値上げ、V590 PROが100ユーロの値上げ、V550 PROが200ユーロの値上げ、とこの程度です。
今回の値上げにより、本国公式ECの価格を参考にすると、US5 PROとV590-2 PROは驚異の為替換算価格比で2倍超、V550 PROはギリギリ2倍までは行かないもののほぼ誤差というレベルになりました。
タイムロードとしては何とか価格を維持しようと努めてきたつもりなのかもしれませんが、そもそも代理店になった時点でそれ以前の価格から大幅に値上げしています。
その時点でNiimbusの製品は為替換算価格で3割程度、Violectricの製品ではどれも概ね6割前後の上乗せがされており、これは他の代理店の取り扱い製品等と比較してもかなり割高な部類で、代理店の説明に納得するよりも冷めた目を向ける消費者の方が多数でしょう。
この辺りまではXでも簡易的にでは有りましたが考察したのですが、もう少し深く、一体代理店であるタイムロードは何を見誤ったのかを考察してみたいと思います。
まず前提として、NiimbusとViolectricの製品は、基本的にどれも評価が高く、国内・国外共に高い評価を受けているメーカーでだという事は念頭に置くべきです。
だからこそタイムロードは新たな代理店となる事を選んだのでしょうし、多少の値上げをしても製品そのものの魅力が高いので問題無いと踏んだのでしょう。
もしこれが本当だったのならば、ある程度見込は外していなかったと言えるのかもしれません。但し、それはMSBとDVASがHPA業界に参戦する前の状況ならば、という前提がありますが。
個人的にMSBが投入したPremier HPAとDynamic HPA及びDVAS Model2は、単なる評価の高いHPAというだけに留まらず、消費者の価格性能比に対する概念を根本的に上書きしたと思っています。
それまにHPA界で頂点に君臨していたのは、かなり強引に纏めてしまえばRe・Leaf E1、Goldmund THA2、マス工房Model406(もしくはその後継のModel465)、OJI Special
BDI-DC44Bといった辺りで、価格はE1・THA2・Model406が概ね200万円、BDI-DC44Bが100~120万円という辺りです。
この中で私がちゃんと聞いた事のあるのはModel406と、類似製品であるOJI Specialのヘッドホンパワーアンプですが、これがBDI-DC444Bに劣るという事は無いでしょうし価格も130万円程度を見込んでいたので、ここではまあ高めに見積もって同等程度の音質を持っていると仮定しましょう。
これらは概ね基礎性能には大きな優劣は無く、それぞれに強みが有り甲乙つけがたいというのが一般的な評価だったので、おおよその基礎性能は私が聴いた事の無いE1やTHA2も大きくは変わらないと言える筈です。
そして、これらは確かに高価な機種ではあるけれども、それだけの価値があるとも認識されていた、というのが当時の一般的な認識だと思います。
その認識と私の試聴経験と照らし合わせれば、US5 PROの現在の価格である約120万円程度というのも、割高ではあってもまだ理解できなくは無いレベルだったでしょう。
ですが、Premier HPAとDynamic HPAが達成した音質は、正直言ってそれまでに存在したこれらの最上位ティアに属する製品を多少上回ったとかいう程度では無く、遥か後方に置き去ったと言って良いレベルだと私は認識しています。
もしこれが単にMSBだけの存在であれば特異的な例外として認識されたかもしれませんし、その後の二度の値上げが有ったので多少なりとも認識差は緩和されたでしょう。
ですが、その後に参入したDVASのModel2が多くの人の認識の上書きを確かな物にしたと思っています。
私はこれまでに幾度か書いたことが有りますが、MSBのHPA2機種とそれまでの製品の間に大きな断絶が有って、その断絶からMSB側にいるのはDVAS Model2だけだと認識しています。
最近ハイエンド帯に出た製品としてはLuxman P-100 Centennialがあって実際試聴もしましたが、その時の感覚では断絶を乗り越えた側にはいないと感じています。
つまり、MSBの2機種、DVAS Model2は確かに高価な機種ではあるのですが、価格性能比は(特に基礎性能重視ならば)、他のハイエンド帯の製品と比べて非常に高いどころかちょっと異次元と言って良いレベルとすら思えるのです。
ですから、これらが基準になってしまった以上、多くの人の価格に対して求める性能、特に100万円からそれ以上という価格帯ついては、かなり基準が上がってしまったと思っています。
この2機種はヘッドホンパワーアンプなので、別途プリアンプもしくは音量調整可能なDACが必要であるという欠点は有りますが、それを踏まえた上でも上記評価は揺るがないと個人的には思います。
その状況下においては、NiimbusやViolectricの製品がタイムロードが代理店になった以後の価格帯に居座るには、流石に無理があると感じた人が殆どではないかなと推察します。
確かにNiimbusやViolectricの製品は定評もありますし、プロシーンで使われる事も想定されている為真面目な音作りで、プライシングも含めて実直なメーカーであると言えるでしょう。
けれどそれはあくまで以前の基準に照らし合わせてかつ当初の販売価格、円安を考慮したとしても一度値上げされ後の値段程度であったならという話であり、消費者の基準が厳しくなってしまった上にタイムロード扱いとなった以降の価格では、売れ行きが芳しくなくなるの当然の帰結と言えるでしょう。
タイムロードはCHORDやPATHOSの代理店でもあるので、ヘッドホン界隈にはそれなりに携わっている筈ですが、全体を見た時に恐らく主軸はスピーカー関連であり、この辺りの変化に対して認識を追随できていなかったか、甘く見てしまったのでは無いでしょうか。
因みに、あまり売れていない為か殆ど話題になる事は無いPATHOS Inpol EarというHPAもタイムロード扱いですが、こっちも何気に当初価格から2倍位になってたりするので、それも含めて個人的にはかなり印象が悪いです。
とまあ、私が推測するのはこんな感じです。
因みに、もし今ハイエンド帯のHPAを検討するなら何が良い?と問われれば、ほぼ間違いなくDVAS一択だろうと返します。
MSBのHPAを中古で狙うという手もありますが、やはりディスコンが決定している製品はちょっと勧めにくいです。中古相場も結構高止まりしていますし、玉数も少ないですしね(と言うか国内ではDynamic HPAはまだ見た事が無い)。
それでも達成できる基礎性能第一とするなら、MSB Dynamic HPAを狙うしかありませんが……
ハイエンド帯全ての製品を聞いた事がある訳では無いので、例えばLina HPAとかLTA Z10e等が優れている可能性も有りますが、巷の評価を自分の経験と間接比較する限りはちょっと厳しいだろうなと思います。
Z10eは静電型をドライブできる最高峰と言う意味で強みがあり、そっちの観点では大いに有りな選択肢ですが。
勿論それぞれの好みもあるので一概に言える話ではありませんが、単純に基礎性能だけを見れば、今の所DVAS Model2が突出している上に価格もギリギリ100万円を切るとハイエンド帯ではむしろ安い方という事で、コスパという意味でもずば抜けてるんですよね。
私はこれが3~4割程度値上がりが有ったとしてもなお現行製品であれば優位を維持していると感じるので、他社特に海外メーカーのHPAについては現在の円安状況ではかなり辛い所でしょう。
ですが、今回の件に関して言えば消費者を舐めてかかると痛い目を見るという典型的な例であるとも感じるので、これを他山の石として、多くの代理店には頑張って欲しいなと思います。